「アイデアは良かったけど…」
この映画、アイデアはすごく良かったと思う。以下、公式サイトのイントロダクションから抜粋。
閉ざされた廃棄工場の中で、意識を取り戻した5人の男たち。
毒性のガスを吸い込んだ彼らは、一時的な記憶喪失におちいり、自分が誰なのかも思い出せなくなっていた。
ひとつだけ分かっているのは、5人のうち2人が人質で、3人が誘拐犯だということ。
いったい自分はどちらなのか? 誰が敵で、誰が味方なのか?
密室で記憶を失った男たちによる知恵を使った虚々実々の駆け引きが展開されるのか、と思って期待でワクワクしていたんだけど……。
ネタバレ感想に行く前に、かなり期待はずれだった、とだけ記しておこう。
冒頭の雰囲気は、けっこう良かった。
おぼろげな記憶だけがフラッシュバックするのは、自分たちの置かれた状況を整理するための状況説明なのかな、と思っていたんだけど……。
結論から言うと、期待してた駆け引きらしいものはあんまりなかった。
フラッシュバックしながら、だんだん記憶を思い出していくってカンジ。
むしろ駆け引きの映画というより、イントロダクションにあった「誰が敵で、誰が味方なのか?」という疑心暗鬼の中での人間性のドラマと解釈した方がいいと思う。
物語は主要な舞台となるに密室の工場内と、外界の彼らを追いつめる(本人はそういう自覚はないんだけど)悪党の親玉のシーンとの二つに分かれている。
最初は、みんな記憶がないので反目しあっていて、人間関係の距離が遠ざかっている。本来なら、お互いに仲間だったはずなのに。
しかし、親玉が帰ってくるタイムリミットが迫り、外界との感覚的な距離が縮まるにつれて、5人の人間関係の距離も縮まっていく。
そして、ストックホルム症候群ってわけでもないんだろうけど、疑心暗鬼の中でも奇妙な信頼が生まれていって、それが外の世界と繋がったときに今までの世界がガラリと変わる、という流れは面白かった。
さらに、物語は外界と繋がった後も続く。
変わったのは工場内にいる人々の世界だけでなく、工場の外にいる人たちの世界も、彼らを巻き込んで変わってしまったのだ。
主人公格の男の心変わりによって犯罪組織は解体されてしまう。
この時点では、本人は自分が犯罪者だと思いこんでいたから「裏切り」をしたつもりになっている。まず、ここで世界が変わってしまっている。
ところが実は、この男は囮捜査の警官だったということが明らかにされる。
つまり、「裏切り」をした世界も、ここで変わってしまう。
ここまでは観客も分かっていることなので、「元の世界に戻った」と安堵するんだけど。
実は、この男、誘拐された社長の奥さんと結託して犯罪組織に社長誘拐を持ちかけていたことを、ラスト直前に思い出してしまう。
ダブルクロスどころか、トリプルクロスだったというわけだ。
時系列に沿って整理をすると、
- 囮捜査官として犯罪組織に潜入
- 社長夫人と結託
- 社長誘拐を実行
- 工場で記憶喪失(ここから映画始まる)
- 工場内の人と信頼関係を築く
- 社長誘拐の記憶(3.の記憶)を思い出す
- 人情に駆られて悪の親玉を裏切る(1番目の裏切り、3.までの世界が崩れる)
- 実は囮捜査官だったことが明らかになる(結果として1番目の裏切りが無効になり、1.の世界が戻る)
- ところが社長夫人と結託して犯行をそそのかしていたことを思い出す(実は2.の時点で最初の裏切りをしていた)
こうして本来あるべきはずだった世界(=社長を誘拐して身代金をもらう)が崩れて、さあ、これからどうしようかというところでエンド。
ラスト間際の裏切りの畳み掛けは、主人公の葛藤と照らし合わせると確かに面白いんだけど(ストーリーに無用と思われていた社長夫人が最大のキーパーソンだったというオチも含めて)。
いかんせん、記憶を取り戻す方法が「時の流れ」というのが、なんだかなあ。
面白いアイデアだったし、ラストのボロボロと世界が崩れていく心理とか良かったけど、いまいち演出が凡庸になってしまった。
そのためラストも取って付けた感が否めなめなかった。もったいない。
ただ、点数で6点を付けてるように面白いことは面白かったんだけど。なんていうか消化不良っていうか、イントロダクションの煽りほどには盛り上がらなかったというか、そんなカンジ。
『unknown』(映画館)
http://www.movie-eye.com/unknown/
監督:サイモン・ブランド
出演:ジム・カビーゼル、グレッグ・キニア、ジョー・パントリアーノ、バリー・ペッパー、ジェレミー・シスト、他
点数:6点
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