1876(明治9)年に札幌農学校として開学した「北海道大学」。モットーは“Boys, be ambitious!”。“大志と歴史と自然がつまったキャンパス”は観光客や散策する市民で人気です。校内の総合博物館には開校以来、収集・保存・研究されてきた300万点以上にも及ぶ標本や資料が蓄積・展示され無料で見学できます。
本日は久しぶりの「北海道大学」です。昨年秋に紅葉めぐりで「イチョウ並木」見物に訪問して以来です。地下鉄東西線「円山公園駅」構内で「北大卒論ポスター発表会」のポスターを見たのがきっかけです。最初はアート系の学生の卒業作品展なのかと思ったのですがネットで調べる違いました。今春に卒業する学部生の卒業研究を1枚のポスターにまとめ発表する毎年恒例のイベントのようです。しかも地域住民や観光客も含め誰でも自由に発表を聞くことができるということなので“北大生の今”に関心を持ってでかけてきました。併せて会場となる「北海道大学総合博物館」も久しぶりに見学に周ってきました。アクセスはいつもの通りJR「札幌駅」北口から大学の正門まで歩いてまいりました。
大学の「正門」。
「正門」から校内に入ってすぐの「中央ローン」。いつもの緑の芝生は雪に覆われています。
「中央ローン」隣の雪の中の「クラーク博士像」。
「古河講堂」。
「卒論ポスター発表会」会場の「総合博物館」。2020年7月の札幌転居後早々に来た際に入館した後は長らくコロナ禍で臨時休館が続いて、昨年秋頃から開館しているようですが入館するのはかなり久しぶりです。
「総合博物館」は1929年に建てられ1999年まで理学部本館として使われていたという歴史を感じさせる重厚感のある建物です。
【卒論ポスター発表会】
2021年度「卒論ポスター発表会」のポスター。
“「卒論ポスター発表会」とは?
今春に卒業する北海道大学の学部生が学生生活の集大成である卒業研究を1枚のポスターにまとめ、会場を訪れた方々へ説明し、ご質問にお答えします。
北海道大学総合博物館の1階「知の交流」ホールで開催します。北大生の研究を聞いてみませんか。北大生の研究を多くの方に知って頂くための発表会ですので、地域の方々や観光客、学内外の学生や教職員など、どなたでも自由に発表をお聞き頂けます。
北大生がどんな研究をしているのかご存知ない方、研究分野に馴染みのない方にも理解して頂けるようにわかりやすくお伝えしますので、専門用語がわからなくても専門的な知識がなくても大丈夫です。
発表者はそれぞれのポスター横に立って随時説明しますので、気になったことや思ったことを直接お聞きください。”
北大生がどんな研究をしているのかご存知ない方、研究分野に馴染みのない方にも理解して頂けるようにわかりやすくお伝えしますので、専門用語がわからなくても専門的な知識がなくても大丈夫です。
発表者はそれぞれのポスター横に立って随時説明しますので、気になったことや思ったことを直接お聞きください。”
実際にはどんな人たちが聞きにくるのだろう?と思っていたのですが大学生らしい若い人たちが大半でした。上掲のポスターにあるように研究室の選択や卒論のテーマ選びから実際の研究・執筆などに関心を持つ現役学生に役立つ情報提供の場ともなっているようです。また本発表会はコンテスト形式になっており参加学生のプレゼンテーション能力も試されることから就職を考える学生には就活PR/対策という利点もあるのかもしれません。もちろん我々のような単に最近の学生の動向/研究に関心がある人間も一定数いたように思われます。
【発表者・ポスタータイトル】
①大村颯 (理学部)
「恐竜の聴いていた音 ~化石から探る聴覚のひみつ~」
②阿部麟太郎 (文学部)
「日本のエコミュージアム概念の拡張・発展に関する考察 ~リヴェールの理念に立ち戻って~」
③十塚響 (工学部)
「Editorialにみる建築雑誌『VOLUME』の編集方針」
④東祐大 (理学部)
「カムイサウルスは美味しいのか!? ~ホネに空いた“穴”から探る生命の痕跡~」
⑤米子拓真 (水産学部)
「DNA解析によって推定した分布北限域におけるアユの生活史特性」
⑥堤 裕規 (理学部)
「獣脚類恐竜アレクトロサウルスの系統学的研究 ひとりぼっちの竜の正体」
⑦櫻井七海 (文学部)
「京アニ事件での被害者実名報道は道徳的に正しかったのか?〜ジャーナリズムの倫理、プライバシー権、ケアの倫理からの検討〜」
⑧川本一陽 (理学部)
「穂別産化石の正体は恐竜か鳥類か」
発表会の受付(会場は写真撮影禁止のためネットから昨年度の写真をお借りしました。今年度も全体のイメージはこんな感じです。)
同上(ご参考)。
今年度の発表者8人中6人は理系で文系は文学部のお二人。しかも理系発表者4人は恐竜化石にからむ研究で文系学部出身で化石門外漢には初めてきく概念や用語でした。以前大学教員をやっていた際に今時の学生のパワポを使ったプレゼンテーション能力の高さに驚いたのですが、北海道大学の学生さんも門外漢にも判りやすく説明いただきました。
その中で文系人間にとっても少しは内容的な理解ができたのが櫻井さんの発表「京アニ事件での実名報道は道徳的に正しかったのか?」(上掲は配布資料で掲示ポスターではないので念のため)。結論は「報道機関による被害者の実名報道は道徳的に正しくなかった」でした。①事案が重大である、②正しく記録に残す必要がある、③被害者をA、Bではなく個人として敬う必要があるとの実名肯定論に対し被害者遺族の強い願いを否定してまでも実名報道する意義は肯定できないというのが結論に至る説明(概要)でした。マスコミ論専攻なら結論が違ったのかも知れませんが倫理学専攻の学生さんらしい結論のようにも思えました。櫻井さんは「新聞記者になりたい」という思いがあるとのことですが将来新聞記者になっても会社の独善的な考えに染まらずに倫理観を大切にしてもらいたいと思いました。
“京都アニメーション放火殺人事件とは(ご参考)
2019年(令和元年)7月18日昼前、京都アニメーション第1スタジオに当時41歳の男が侵入、バケツからガソリンを建物1階に撒いてライターで着火した事により、爆燃現象が発生した。結果としてスタジオは全焼、社員36人が死亡、33人が重軽傷と、日本で起きた事件としては、過去に例を見ない大惨事となった。報道各社は36名の被害者の遺族の中に実名報道を拒否している人たちがいるものの、葬儀が終わった事と「事案の重大性と公益性を勘案した」という従来と同じ理由により全員の実名の公表に踏み切った。”
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
【北大総合博物館】
次に「総合博物館」です。「北大の歴史」コーナーに続いて1階~2階は大学12学部の教育研究内容がわかる展示コーナーになります。各学部の最新の研究や所属学生の進路等も判るようになっていて北大進学を目指す生徒にも良い情報提供の場になっています。本日もそんな情報収集に来たような高校生の姿がありました。
「北極域研究センター」のホッキョクグマのはく製。
「文学部」の言語研究コーナーの北方民族の衣装とトナカイ。
1階~2階に至る廊下の「ナマケグマ」のはく製。
恵迪寮歌「都ぞ弥生」。
「獣医学部」の成雄ホルスタインの巨大な骨格標本とエゾジカのはく製。
台湾原住民族×グラフィックデザインの展示。
天井につかえるマンモスの実物大模型。
2階~3階に至る階段脇の「エゾヒグマ(子熊)」のはく製。
3階は収蔵標本の展示でこちらは「生物標本の世界」コーナーの「昆虫標本」。
「古生物標本の世界」展示室。樺太や北海道を中心とした所蔵化石を展示。奥は世界で最初に復元された全長4mほどの大型水生哺乳類「デスモスチルス」の全身骨格。
「ニッポノサウルス」の新復元骨格の展示もあります。
そして博物館建物を象徴する空間「アインシュタインドーム」。
ドームの東西南北の壁にはそれぞれ「果物」「向日葵」「蝙蝠」「梟」の陶板製のレリーフが埋め込まれ、レリーフの下には小さく仏語で「朝」「昼」「夕」「夜」と刻まれています。教育・研究には昼も夜もないという創設当時の理学部構成員の心意気と理想を示しているそうです。なお「アインシュタインドーム」の名前の由来は不明だとか。
東西南北のレリーフ。
「アインシュタインドーム」を仰ぎ見て「総合博物館」は終了です。
最後に折角ですので「ポプラ並木」へ。隣接する植物庭園「花木園」の入り口も雪で閉ざされていました。
「新渡戸稲造博士顕彰碑」。
久しぶりの「北大総合博物館」は大変見ごたえがありました。これだけの展示物を無料で開放しているのは有難いことです。北海道で創設され北海道とともに歩んできた「北海道大学」の地域とともに歩む姿勢の顕れなのでしょう。「卒論ポスター発表会」もそんな精神の一環の社会体験/地域教育なのでしょう。良い企画で勉強になりました。ありがとうございました。
「卒論ポスター発表会」
【日時】2022年3月5日(土)10:00~16:00・6日(日)10:00~15:30
【会場】北海道大学総合博物館 1階「知の交流」ホール
【備考】申込不要・入場無料
「北海道大学総合博物館」
札幌市北区北10条西8丁目 011-706-2658
営業時間 10時~17時
定休日月曜(祝日の場合は翌平日)、年末年始、大学行事により臨時の開館、休館あり
http://www.museum.hokudai.ac.jp/
(2022.3.5訪問)