六小と別れた夢は、門を出ると校庭沿いにある道を歩いて行きました。六小は
高台に建っています。そのため、少し行って六小の敷地から離れると、道は坂道に
なります。夢は、その坂道を道なりに下りて行きました。すると、戸久野川沿いの
道に出ます。この川沿いの道を行けば駅に着きます。夢は帰り道に、なぜここを
通ることにしたのでしょうか。夢は、自分が子どもの頃見なれていた風景が、今も
見られるのかどうか調べたいと思ったのです。夢が見慣れていた風景、それは、
当時川沿いの道からよく見えていた、大好きな六小の時計台のことです。六小の
建つ丘までの坂道の周りは、当時とちがい、今は家がたくさん建っており、その
風景はだいぶちがっています。はたして、川沿いの道から六小の時計台は
見えるのか、夢は内心、見えないだろうと半分諦めていました。しかし、夢の思いに
反して、時計台はしっかり見えています。夢は、小躍りしながら声をあげました。
「わぁー、まだ見えてる!懐かし~い、良かったぁ~!」
夢の頭のなかに、今夢がいるこの場の、当時の様子がぱあーっと浮かんでは、
走馬灯のように流れていきました。夢は、改めてあたりをながめてみました。
すると、長い年月の間に六小の周りは変わっても、今夢がいるこのあたりは、
ほとんど変わっていませんでした。きっと、それでなのでしょう。時計台が、昔と
変わらず見えたのは。遠くに見える時計台を、じっと見つめる夢の頬には、
ひとすじの涙が伝っていました。しばらくの間、時計台を見つめていた夢は、やがて
時計台に向かい大きく手を振ると、駅の方に向かってゆっくりと歩き出しました。
完