夢は、記念樹から少し離れた所で、もう一度、木を眺めました。青い空に向かって
高く伸びるケヤキの木、その姿はもう、あの細くて弱弱しい感じの木ではありません。
大地に深くどっしりと根をおろし、太くどうどうとしています。そう、六小の校歌に
あるように、ケヤキの若い芽は伸びる命となって、今現在まで力いっぱい、しっかりと
今日を歩いてきたのです。六小の校歌を口ずさみながら、夢は涙ぐんでいました。
そして思ったのです。六小には、これからも元気でいてほしい、と。これは、多くの
学校が閉校となり、精霊が姿を消していくなか、せめてもの夢の願いです。
また、夢がいた時には、樹の横にきちっと『市制施行記念樹』と書かれた立て札が
立っていたのですが、残念なことに40年経った現在では立て札が立っていません。
これでは、何かの時にせっかくの樹が切られてしまうのでは、と夢は心配に
なりました。六小は、そんな夢の心配をよそに、相変わらず楽天家です。
夢の心配を聞いても、
「え~、別にぃ~、いいんじゃない。大丈夫だって。」
なんて言っています。
「大丈夫じゃないよ。」
「大丈夫だって。」
「じゃない・・・。」
そんなやりとりを何回か繰り返したあと、
「ん、もう六小さんは。本っ当に呑気なんだから!」
夢がムッとして言うと、六小は
「いいじゃない、切られたら切られたで。しかたないよ。」
と、さらっと言ってのけます。六小は、ホント呑気です。
「しかたないって、ねえ、六小さん!」
夢は、六小のあまりの呑気さにあきれてしまいました。
「だって、心配したってしかたないもの。わたしが、どうこうできるわけじゃないから。」
どうやら、これが六小の本音のようです。夢は、もう、しようがないなあ、と思いながら
六小に言いました。
「わかったわよ。じゃあ、今日はもう帰るから。」
「もう?わかった。じゃあ、またね。」
「うん。」
そう言って夢は歩き出しました。六小は夢のため、夕方で暗くなりかけた道を、自分が
放つ光でいっぱいにして夢を見送りました。