平成二十二年四月、夢は、記念樹を植えた役所なら、樹の名前もわかるだろうと
思い、戸久野市役所へ行きました。何ヶ所かの課をまわって、やっとちょうど役所に
来ていた造園業の人に、当時の記念樹の写真を見てもらいケヤキだと
わかりました。夢は、『ああ、やっぱり。じゃあ、あれでいいんだ。』と一人頷くと、
その人にお礼を言って役所を後にし、その足で六小にむかいました。六小に着くと、
夢は改めて「ケヤキ」を見上げました。すると、夢に気づいた六小が声をかけて
きました。
「あ、夢ちゃん、また来たの?」
夢が、六小の言葉にちょっとムッとしたように、
「何よ、来ちゃいけないの?前は来て来てって言ってたくせに。」
というと、六小は
「もう、夢ちゃんたら、すぐそうなんだから。わたしは、夢ちゃんが来てくれて
うれしいの!」
と言って、ふふっと小さく笑い、
「今日は何?」
と、興味深げに訊いてきました。
「あ、うん、『市制施行記念樹』がどれかわかったの。思ったとおり、この
ケヤキだったよ。大きくなったねぇ~。あの頃は、こんなかわいい若木だったのに。」
夢は、両手の平で○を作って、当時のケヤキの幹の太さを表し、その何十倍も
大きく育った今の木を、じっと感慨深げに見つめていました。六小は、そんな夢を
不思議そうに眺めていましたが、やがて、納得したように頷きました。そうです。
夢が見た当時の木は、幹の直径約十センチ、木の高さ五・六メートル、それが、
今では、幹の直径約四十センチ、木の高さは数十メートルになっています。
夢にとって、まさにそれは、夢が六小を巣立ってからの、年月の長さを表す
ものだったのです。しばらくケヤキを眺めていた夢は、そっとその場をはなれ、
「ほんと、大きくなったねぇ。もう、40年・・か、この木が植えられてから。そうか、
そんなになるんだ。」
と、そんなに時が経ったのが信じられない、というように何度も呟いていました。夢の
呟きは、六小にも届いていました。六小は夢の呟きを聞きながら、
『今まで、あまり気にもとめなかった木だけど、そういえばこれだったんだ、記念樹。』
と、夢と同じようにちょっと感慨深げになって、自分にせまぐらいの高さになった
ケヤキの木を眺めました。