風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾

2010-05-19 01:39:45 | 大人の童話

平成二十二年四月、夢は、記念樹を植えた役所なら、樹の名前もわかるだろうと

思い、戸久野市役所へ行きました。何ヶ所かの課をまわって、やっとちょうど役所に

来ていた造園業の人に、当時の記念樹の写真を見てもらいケヤキだと

わかりました。夢は、『ああ、やっぱり。じゃあ、あれでいいんだ。』と一人頷くと、

その人にお礼を言って役所を後にし、その足で六小にむかいました。六小に着くと、

夢は改めて「ケヤキ」を見上げました。すると、夢に気づいた六小が声をかけて

きました。

「あ、夢ちゃん、また来たの?」

夢が、六小の言葉にちょっとムッとしたように、

「何よ、来ちゃいけないの?前は来て来てって言ってたくせに。」

というと、六小は

「もう、夢ちゃんたら、すぐそうなんだから。わたしは、夢ちゃんが来てくれて

うれしいの!」

と言って、ふふっと小さく笑い、

「今日は何?」

と、興味深げに訊いてきました。

「あ、うん、『市制施行記念樹』がどれかわかったの。思ったとおり、この

ケヤキだったよ。大きくなったねぇ~。あの頃は、こんなかわいい若木だったのに。」

夢は、両手の平で○を作って、当時のケヤキの幹の太さを表し、その何十倍も

大きく育った今の木を、じっと感慨深げに見つめていました。六小は、そんな夢を

不思議そうに眺めていましたが、やがて、納得したように頷きました。そうです。

夢が見た当時の木は、幹の直径約十センチ、木の高さ五・六メートル、それが、

今では、幹の直径約四十センチ、木の高さは数十メートルになっています。

夢にとって、まさにそれは、夢が六小を巣立ってからの、年月の長さを表す

ものだったのです。しばらくケヤキを眺めていた夢は、そっとその場をはなれ、

「ほんと、大きくなったねぇ。もう、40年・・か、この木が植えられてから。そうか、

そんなになるんだ。」

と、そんなに時が経ったのが信じられない、というように何度も呟いていました。夢の

呟きは、六小にも届いていました。六小は夢の呟きを聞きながら、

『今まで、あまり気にもとめなかった木だけど、そういえばこれだったんだ、記念樹。』

と、夢と同じようにちょっと感慨深げになって、自分にせまぐらいの高さになった

ケヤキの木を眺めました。

 



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