≪選抜出場校の思い出 その9≫
九州代表 沖縄尚学(沖縄) 8度目(2年ぶり) 優勝2回
夏10度出場 甲子園通算26勝15敗
沖縄で興南とともに東西の横綱を張る沖縄尚学。興南と並んで、全国制覇の回数も2回ずつ。強豪の名をほしいままにしているチームです。選抜は2年ぶりの出場。その2年前は、東恩納投手を擁して、かなり力を持ったチームでした。春夏ともに甲子園で2勝を挙げ、その存在感を大いに示してくれましたね。しかしながら、その2年前の大会で、沖縄尚学はそれまで経験したことのない戦いを強いられました。それは夏の選手権準決勝の、慶応戦でした。試合は5回終了まで2-0と沖縄尚学がリード。この大会そこまで無失点の「絶対的エース」東恩納はこの日も好調で、このままロースコアで沖縄尚学が逃げ切るのではないかという空気も流れだした6回でした。慶応にチャンスをつかまれると、そこで球場全体が、慶応の大声援に包まれたのです。アルプスはもちろんのこと、バックネット裏、内野席から外野席まで、数多の慶応ファンが大声援でその攻撃を後押し。沖縄尚学は、その波に押し流されるように冷静さを失い、気がついてみたら6点を一気に取られて、試合の大勢は決まってしまっていました。沖縄尚学が、いやっ、沖縄のチームが初めて経験する、甲子園での完全アウェーという雰囲気。ものすごい相手への歓声に包まれて、まさに正気を失った状態が作り出されていました。沖縄のチームといえば、首里高校が初めて甲子園に出場した大会から、興南が大進撃をした大会、豊見城、沖縄水産などが大活躍した時代、そして沖縄尚学、興南が全国制覇を成し遂げた大会まで、ず~っと甲子園の大観衆に大声援を送られ、励まされ、完全ホームの状態で戦ってきました。多分球場全体から相手チームへの声援がとどろきわたったのって、初めてだったんじゃないでしょうか。沖縄水産が大阪桐蔭と決勝を戦った時も、沖縄尚学が選抜準決勝でPL学園と激突した時も、相手が地元大阪の人気チームだって、いつでも沖縄のチームへの声援の方が大きかった。しかし。。。だが、沖縄尚学は、非常に貴重な経験を、その2年前の試合ですることができました。なんというか、「もう怖いものは何もない」状態になっているのではないでしょうか。これからの沖縄尚学、ちょっと違う、これまでよりさらに図太いチームになっている気がするのは、ワタシだけでしょうか。今年のチーム、2年前と比べてもそん色ないほどの、いいチームに仕上がっていそうです。さあ、どんな戦いを見せてくれるのでしょうか。なんだかとても、今大会が楽しみなワタシです。
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沖縄の高校野球界で現在、東西の横綱としてデーンと構えるのは、この沖縄尚学と興南の2校。両校ともに本当に毎年いいチームを作りたびたび甲子園に出てきており、甲子園でもいい戦いを繰り広げてくれます。よく紹介される沖縄の高校野球の歴史。首里高校がまず先陣を切り、程なく興南が全国で4強に進出。その後、栽監督率いる豊見城が沖縄の高校野球を席巻していきます。そしてその後は興南の時代、沖縄水産の時代と続き、沖縄水産は2年連続で選手権の決勝に進出。しかし「全国制覇」の夢はすんでのところで消え去り、その夢をかなえて沖縄県民を熱狂の渦に巻き込んだのが、この沖縄尚学です。1999年の春、ほぼノーマークで選抜に出場してきた沖縄尚学は、初戦から接戦を勝ち上がり、準決勝に進出。そこで激突したのが、前年甲子園で横浜・松坂と延長17回の激闘を繰り広げたPL学園。そう、その当時の高校野球界の盟主だったチームです。沖縄尚学は劣勢が予想される中、果敢に攻めて試合の主導権を握りますが、そこはさすがに「逆転のPL」、終盤追いついて、試合は延長戦へ。PL学園といえば甲子園の地元のチームで、いつもホームのような大声援を受けて試合をするのが通例。しかしこの時は、甲子園のファンの沖縄代表に対する判官びいきも手伝い、試合は異様な雰囲気でした。誰もが「まあPLの勝ちだろう」と思っていた試合が、わずか2回目の出場で、この時まで甲子園通算1勝しか挙げていないチーム(この大会は除く)に、押されている。。。。。信じられない思いのスタンドと、指笛での沖縄尚学に対する大声援。そんなものがないまぜになった、なんとも言えない雰囲気の試合でした。同点の11回表に沖縄尚学は1点をあげましたが、その裏PLは『甲子園の定番』である逆転のPLの本領を発揮して反撃を開始。その年のPLをぐいぐい引っ張っていた”ありえない瞬足”田中が同点ヒットを放ち、その勢いをかって2塁へ。しかしここで、沖縄尚学渾身のプレーが出ます。ライトが好返球でその田中を2塁ベース前で見事に刺し、サヨナラのピンチを防ぎました。そして、このプレーが非常に大きく、沖縄尚学はこの11回裏をなんとか切り抜け、すぐあと12回表に再度2点を挙げて突き放し、あのPLを見事に堂々と寄り切りました。そして夢の決勝進出を決めたのでした。沖縄尚学といえば鋭い打撃も看板ですが、守りの堅さもひとかどではありません。最後の最後でその守備が、彼らを救ったというシーンでした。決勝はもう、おまけみたいなもの。勢いも応援もすべて沖縄尚学が独占、水戸商に何もさせずに7-2と快勝。見事に沖縄に、初めての大旗、紫紺の大旗を持ち帰りました。そしてその時のエースだった比嘉公投手が、今度は9年後の08年、監督として甲子園に帰還。そして。。。。。東浜投手を擁し、見事に二度目の選抜制覇を成し遂げたのです。エースとしても優勝、そして監督としても優勝なんて、ワタシの知る限り習志野の石井投手・監督ぐらいしか思い浮かびません。それほどすごいこと、やってのけたのですね。あれから15年、沖縄尚学は春2度、夏4度の甲子園に登場していますが、思ったように勝ちあがることはできていません。その間に興南が11年の春夏連覇など、高校野球界に燦然と輝く実績を残していっています。沖縄尚学も、そしてライバルの興南も、身体能力に勝る選手をそろえて、正統派の野球を貫いて甲子園で戦い続けています。今や沖縄は立派な「野球県」。全国のファンも、毎年沖縄からやってくるチームには、注目し、そして期待しています。今年の沖縄尚学は、九州大会を制し、明治神宮大会では9回まで、夏全国制覇の仙台育英を圧倒し続けたほどのチーム。「3度目の選抜制覇」も、あながち夢だとは思えません。さあ、どんな戦いが待っているのか。楽しみな今年の選抜です。
九州代表 エナジックスポーツ(沖縄) 初出場
夏出場なし
沖縄から新しい波に乗って、エナジックスポーツが初出場です。このチームの名前を知ったのはおよそ2年ぐらい前でしょうか。スポーツに特化した、専門学校のような高校が沖縄にできたとの記事を見て、非常に興味を持ったのを覚えています。特にこの学校、野球とゴルフのみに特化し、プロ選手を育てると意気込んでいましたから、興味津々でした。これまでも北海道のクラーク国際や、神奈川の星槎国際など、通信制の学校が全国大会に出てくることがありましたが、何せこのエナジックは、学校自体がアスリート強化に特化した学校という事で、いったいどんな野球をするのか、注目度は高かったですね。昨年の春の沖縄大会を制して注目されていたエナジック、ワタシも昨夏の沖縄大会は、興味深く何試合もその配信を見ていました。そして、この学校はいわゆるクラブチームのようなたたずまいを持っているものの、非常に鍛えられていて、野球IQの高いチームだということがわかりました。あの興南を向こうに回した決勝でも、むしろエナジックの方が試合自体は支配している感じで、面白く見ましたね。そのエナジックが、春、夏に続いて、秋も快進撃は止まらず、九州大会の決勝まで進出し、あっという間に甲子園への切符をつかんでしまいました。かつての敦賀気比とか遊学館とかが、あっという間に強くなってきたのと、なんだか被るものがありました。さあ、いったいどんな野球を披露してくれるのか?沖縄というと、身体能力の高い選手たちが揃っているイメージがありますが、そこに野球IQの高さが加わると、非常に面白いチームができているんじゃないかと、思ったりしています。ある意味今大会で、最も注目度の高い学校です。いったいどんな戦いを見せてくれるのか?注目しましょう。
九州代表 柳ヶ浦 (大分) 3度目(20年ぶり)
夏8度出場 甲子園通算8勝10敗
大分の名門、柳ヶ浦が20年ぶりに選抜に帰ってきました。その20年前というと、DeNAなどに所属した山口投手を擁して、前年の明治神宮大会を制して優勝候補として乗り込んだ大会でした。そしてそこで完敗を喫し、それが転機になってしまったか、以後20年間、全く甲子園に縁のない低迷期を過ごすことになりました。さて、この柳ヶ浦というと、ワタシはまず大悟法監督のことが思い出されます。柳ヶ浦高校の中興の祖であり、後にライバルとなる明豊高校に移って、そこでも同校を甲子園常連校に育て上げた、大分の名将です。柳ヶ浦が甲子園に初出場したのは1976年、この年は初戦では岩手の花北商と初出場対決となり、ワタシの手元にある朝日グラフでは「花と柳の初舞台」と称されました。その対決に勝って甲子園初勝利を挙げると、87,90,91,92年と立て続けに甲子園に進出。大分の強豪としての地歩を固めました。特に出てくると必ず初戦は勝つ、というのがワタシの柳ヶ浦に対するイメージですね。その当時、大分、そして沖縄を除く九州のチームがそんなに甲子園で活躍するイメージがなかったので、しっかり初戦を取ってくる柳ヶ浦はいいチームだなあ、というイメージを持ちました。そして柳ヶ浦のハイライトは94年。この年は優勝候補と目されたチームが序盤で次々に敗れ、群雄割拠の大会になったのですが、柳ヶ浦は大会前は無印だったものの、大会に入ってから打線が絶好調。バンバン打って、グイグイ勝ち進んで行きました。4強まで進出するのですが、この年の4強には、優勝した佐賀商、準優勝の樟南、そして柳ヶ浦と、3校もの九州勢が進出して、さながら「九州大会」の様相を示した大会でした。しかしこの年を最後に、柳ヶ浦の「甲子園ロード」は年々厳しくなり、30年間もの間、甲子園での勝利に恵まれていません。その間に大悟法監督がまた一から作り上げた明豊がどんどん力を伸ばして、01年の初出場から、20もの甲子園での勝利を積み重ねています。この20年以上にわたり、ずっと明豊の後塵を拝してきた柳ヶ浦が、反抗のきっかけにできる大会になるのか。久々の出場に思いを馳せながら、見ていくことにしましょう。
九州代表 西日本短大付 (福岡) 2度目(38年ぶり)
夏7度出場 優勝1回 甲子園通算11勝7敗
西日本短大付。福岡の名門にして、甲子園常連校というイメージが強かったので、選抜出場がなんと38年ぶり2回目というのを聞いて、驚いてしまいました。38年前というと1987年。前年の夏甲子園初出場を果たした西日本短大付、その時の2年生エース、左腕の石貫投手を擁して、次の選抜にも連続出場してきていたんですね。しかし当たった相手が悪かった。初戦の相手は、その後この年春夏連覇を達成するPL学園。野村、橋本の投手陣に立浪、片岡らの打撃陣の、あの年のPLですよ。しかしその選抜初戦の前、この対決が決まった時は、PLの評価もそれほど高かったわけではなかったし、逆に石貫投手の評価が高かったこともあって、「互角の戦い」という評価だったのを覚えています。しかしそれよりも前、前年の夏初出場を果たした時、「西日本短大付」という名前を聞いて、「え~短大付属って、短大ってそもそも、女の子しか入学できないんじゃないの?その付属の野球部って・・・・・?」なんて思ったことを思い出しました。 さて、その西短、その後一気に強豪へと名乗りを上げ、一世を風靡していきますね。まずは後付けではありますが、あの新庄監督(日ハム)の母校ということが、当時よく喧伝されていました。さらに、90年の夏に2度目の出場を果たすと、強打で勝ち進んで一気に4強まで進出。甲子園を揺らしました。特に8強での、優勝候補No1と言われた鹿児島実を破った試合は圧巻でしたね。そして西短のピークは2年後の92年。超絶エース・森尾投手を擁して、予選からほとんど相手に点をやらない野球を展開。それは甲子園でも続いて、森尾が毎試合のように相手を完封。投げて投げて投げまくり、失点はわずか1。福岡勢としては、あの原貢監督の三池工以来の全国制覇を成し遂げました。森尾のピッチング、その安定感がすごかったですね。どのコースにも、力のある球がビシビシ決まって、ほとんど相手は点を取るにおいがしませんでした。打線はさほどでもなかったのですが、とにかく「点をやらなきゃ、負けねえ」って感じの試合で、頂点まで上り詰めました。森尾投手の投球、素晴らしかったのでワタシは「なんで彼はプロ入りしないのだろう」と不思議に思いました。社会人入りした彼が、もし高卒でプロ野球に入団していたら、いったいどうなっていたのか?歴史にifはつきものですが、何回も考えてしまいました。ワタシのイメージでは、74年の銚子商・土屋(中日)と双璧の、超絶なピッチングでした。しかしそれから30年間、西短は毎年のように福岡で優勝候補に挙げられていながら、出場わずか3回、そして勝利はわずか1勝にとどまって、甲子園で足跡を残すことがありませんでした。しかし昨夏、本当に久しぶりに、西日本短大付のユニフォームが聖地・甲子園で躍動しましたね。長身の村上投手を擁して、久々に甲子園で2勝。復活ののろしを上げてくれました。新庄監督のように、「目立ってなんぼ」って感じで、伸び伸びとグラウンドを駆け巡ったら、おのずと結果もついてくるんじゃないでしょうかね。夏春連続出場となる今回のセンバツ。夏春連続は38年前の初出場以来。歴史は繰り返す、という言葉を借りれば、また西短に栄冠が輝く・・・・・かもしれませんよ。
21世紀枠 壱 岐 (長崎) 初出場
夏出場なし
21世紀枠出場の壱岐。離島からの出場ですが、かなりのチーム力を持っていると思われます。しかし壱岐のことは全くわからないので、これまでの離島からの甲子園出場校の思い出など。。。。島の学校の甲子園という事で言えば、思い浮かべられるのは、島根の隠岐、長崎の大崎、鹿児島の大島、そして新潟の佐渡ですかね。もちろん兵庫の洲本、香川の小豆島なんかも浮かびますね。洲本は戦後すぐに全国制覇まで上り詰めたのですが、やはりいろいろと制約があるためもあってか、ほかの島の高校はなかなか甲子園で勝利を挙げることができませんね。大崎や大島(2度目)は21世紀枠での出場ではなく、かなり実力もあって期待されたのですが勝利には結びつかず。しかし島の学校が出場すると、例外なく島から大応援団が甲子園に集結して、すごい応援をしてくれますから、そのあたりも楽しみではありますね。壱岐高校も、嶋からたくさんの人が駆けつけて「おらが町のチーム」に熱烈な応援を送ることでしょう。スタンドと一体となった・・・・これが高校野球の一番のだいご味。それが今年も見られるということ、非常に楽しみですね。
(おわり)