◇第83回選抜高校野球大会 大会展望
日大三が候補筆頭も、波乱の展開が演出される可能性も大
穴のない実力派が揃う戦国大会の予感
さて、選抜高校野球大会もあと1か月後に迫った。
各チームの調整具合が気になるところであるが、現時点での大会展望を行いたい。
まずは優勝候補の筆頭に上がるのは、昨年の選抜準優勝校・日大三だろう。
今年の日大三については、活字にすると『どこにもつけ入るスキがない』ように見える。
それらを列記すると、以下のようなことか。
・まずは昨年の明治神宮大会で、各地の秋季大会V校を相手に完勝。力の違いを見せつけた。
・昨年の選抜で準優勝。甲子園の経験が豊富なうえ、エース吉永、横尾、高山など当時のチームの主力が多数残っている。
・名将・小倉監督は甲子園での戦い方を熟知している。
・昨年の夏の予選、延長で苦杯を喫して甲子園を逃しており、悔しさを知った選手たちが多い。
・コントロールから崩れることが少ないエースの吉永を持つ。
・大物打ちの打線だが、小技や足技も利き、どんな投手に対しても得点能力が落ちない。
すべての要素が、日大三の快進撃を約束するようなものであるが、そう簡単ではないのが選抜の難しいところだと思っている。
では日大三の不安要素はどこか。まずは言われているほどチームが出来上がっていない点に見ることができる。
ワタシは東京在住ということもあり、日大三の試合は秋の時点でもかなり見たが、打線がチャンスで簡単に打ち上げるケースが多いという印象がある。確かに振りの鋭さは一流であるが、まだまだ精度は高くないというのがワタシの見方である。しかし、それも秋の時点でのもの。春に向けどのように仕上げてきているか、興味を持ってみているところである。そして、エース吉永に対しての不安も、ないわけではない。球速以上に球威のあるタイプの投手だと思うが、大型投手にありがちな”ボール先行”の部分もないわけではない。そしてもっと不安なのが、明治神宮大会での力投だ。この大会で過去好投したすべての投手は、まさにセンバツの時期にはその投球を丸裸にされ、それゆえ選抜では好投できないといったケースが多い。その点において、吉永投手に関しては不安も多く残る。去年の一二三(東海大相模)、葛西(大垣日大)もさほど強敵と思われなかったチームに対し初戦には大苦戦している。その前年の慶応、天理、またその前の常葉菊川、横浜など、決勝に進出したすべてのチーム、すべてのエースがかなりの苦戦を強いられているのは、周知のとおりだろう。『明治神宮大会で本気を出すな』とは言わないが、勝ち進むことで次期センバツにリスクを生む大会であることは、確かであるように思われる。
吉永については、秋の時点の投球よりもまた一段成長した姿を見せることができなければ、この波に飲み込まれてしまうことも十分に考えられる。
しかしながら、打線の破壊力は大会屈指といってもいいであろう。日大三の打線の特徴は、高校野球好きならば誰でも知っている通りの、打球の鋭さと遠くに飛ばす力である。要するに、智弁和歌山などと同じく『力でねじ伏せる』パワー打線ということがいえよう。今年のチームも高山、横尾、畔上などパワーあふれた選手がスタメンに揃い、強力打線を形成している。その打率は秋の時点で.404。恐ろしい打線だ。日大三にとって、とにかく大事なのは初戦。これをうまく乗り切って打線が本来の力を出せる環境が整えば、おのずと結果は付いてくるとみている。2年連続の決勝進出はおろか、実に40年ぶりの紫紺の大旗をつかむことも十分に可能だ。かつて『春の三高』と言われたころの春将軍ぶりを取り戻すべく臨む、大願を抱いた大会となる。
Aクラスの戦力持つ鹿児島実、大垣日大、履正社ら強豪
日大三にかなりスペースを割いたが、これを追っていく学校にも好チームが多い。今年の特徴は、強豪校がバランスのとれた戦力を持っているということではないだろうか。投攻守どれをとっても穴がなく、”負けにくい”チームが多いということだ。反面爆発力には欠けるものの、安定感は抜群だ。
その中でまず、明治神宮大会で準優勝をした鹿児島実は、安定感抜群のエース野田と、じっくり攻める打線の力でAクラスの戦力を持っている。野田は選抜では攻略されにくい左腕からキレで勝負するタイプ。1.03の防御率は32校のエース中NO1。しかし彼も、明治神宮大会でしっかりと各校に研究され対策を立てられているであろうことは否めない。その包囲網をどう突破していくのか。真価が問われるところだ。九州勢は昨年まで3年連続の選抜Vを継続中。九州NO1の戦力を持つ鹿児島実が、V4に挑む。昨年の選抜ベスト4から今年は優勝を狙う大垣日大は、昨年のバッテリーをはじめ多数のレギュラーを残し、選抜に臨むイメージはばっちり。エース葛西と時本のバッテリーは、甲子園戦術を熟知している。葛西は球威よりもキレとコントロールが生命線。これも左腕のため、鹿実・野田と同様センバツでは対戦校にとって”難攻不落”の存在になることは必至。名将・阪口監督は東邦時代から夏の選手権よりも春の選抜で実績を残す【春の名将】。今年も『春の戦い方』に徹し、Vも視野に入っていることだろう。強豪集う近畿では、天理、智弁和歌山よりも履正社の評判が高い。このチームは昨夏甲子園を沸かせた飯塚投手が軸。多彩な変化球をコーナーに決め、秋は10完投で7完封というすごい数字を残した。防御率も鹿実・野田に続く2位の1.15。毎年技巧派の好投手を生む履正社にあっても、”歴代屈指”の投手といえるであろう。そして今年は、打線も例年以上に得点能力が高い。T-岡田、山田らドラフト1位の”飛ばし屋”がいたチームとは一味違うが、海部・石井の5割打者を軸に据える打線の破壊力は脅威だ。特に海部は今大会NO1のスプレーヒッターとの評価もある好選手。新チーム結成以来37勝3敗という好成績で、今年こそ上位進出を狙っている。
そのほかでは、近畿Vの天理が150キロエース西口で殴り込みをかける。5季連続の甲子園だが、過去4季は悔しい敗戦が続いた。今年は復活を剛腕に託し、負けない野球にモデルチェンジ。5季連続の【優勝候補だったが早期敗退】の反省から、前評判倒れに終わることのないチーム作りをしているという印象だ。ツボにはまった時の爆発力は天理伝統のもの。今年こその思いは強い。2年連続の選抜出場を果たした関西も、安定感抜群のエース堅田で初Vを狙っている。ベテランの江浦監督をして『今年のチームには自信がある』と言わしめる自慢の戦力は、おそらく選抜出場校中屈指。特にエース堅田と抑えの水原を擁する自慢の投手陣は、秋の地方大会では12試合でわずか4失点。中国大会では4試合連続完封という離れ業を演じた。堅田も左腕の好投手。ということは、『左はセンバツを制す』の格言を借りれば、かなり有利な戦いを展開できそうな予感がプンプンだ。関西は伝統的に打線の破壊力も抜群で、初の全国制覇もあながち夢とは言えない。
今年の有力校として6チームをあげたが、全チームに共通していることは昨年の甲子園を経験しているということだ。日大三、大垣日大、関西は春のセンバツを、鹿児島実、履正社は夏の選手権を、天理は春夏連続で、甲子園の経験を持っている。その力が有形無形に発揮される今年の選抜は、この六校を中心に展開されるだろう。
続くのは未完成の大型チームか
上記の優勝候補に続くチームを、東から見ていこう。
まず上がるのは、関東大会を制した浦和学院。エース佐藤は秋の時点では一番を打つセンス抜群の選手。まだまだ”野手投げ”をしているピッチャー経験の浅い選手だが、一冬越えて成長が見られると、V争いにも顔を出してくる可能性がある。打線も活発なチームだが、甲子園での戦いで一番重要なのは『淡白な戦いぶり』が矯正されているかということ。この点は森監督もよく心得ているだろうが、自信を持ってV争いを演じるとは言い切れないところのあるチームであろう。逆に甲子園に強い横浜はどうだろうか。このチームは、秋の戦いぶりを見る限りは『選手の素質を前面に出して』戦うだけのチームに見えた。冬を越してガラッとチームを変えることのできる渡辺監督のこと、甲子園までにはしっかり仕上げてくるチームになろうが、エース斎藤が復調しないとなかなか上位を狙えるチームになって行きそうな感じはしない。逆に昨夏準Vの東海大相模の伸びしろのほうが大きそう。秋は経験不足エース近藤に頼らざるを得ない戦いぶりだったが、投手陣が安定すれば打撃の破壊力はすさまじいだけに、今年も甲子園で何かをやる可能性を秘める。
近畿には経験十分のチームが揃った。まずは智弁和歌山。このところ一時の粘り強さがやや影を潜め、やられるときはコロッとやられるチームにややグレードダウンしている感がするが、今年は智和歌が本当に強かった世紀またぎの頃の”負けない”強さを戻せるのか。64歳になった高嶋監督、まだまだ意気軒昂なところを見せてほしい。戦力はかなり充実していて、甲子園では”力負け”しないようなら上位もうかがえる。昨夏の選手権ベスト4にして、連覇の興南をもっとも苦しめた報徳学園も、満を持してセンバツに登場。【絶対エース】田村がかつての桑田(PL)のような道をたどれるかは、今年の選抜にかかっている言ってもいいかもしれない。球速以上に球の伸び、キレを感じる田村が本来の投球をするようだと、報徳の上位進出は視界良好。打線の破壊力はさほどではないものの、守備を含めて田村への『手厚いサポート』は万全だ。
四国では明徳義塾が3年ぶり。一時期の低迷を脱したチームに馬渕監督は自信を持っており、信頼感の熱いエース尾松が額面通り働けばV争いに絡んでくる力を持つ。4番を打つ北川はプロ注目の打者。球を捕らえる感覚は抜群で、しかも驚きの飛距離、打球の速さを持つドラフト候補だ。伝統的に『攻撃的な守備』の精度は他校を圧倒しており、しっかり点を取って守る野球に入ることができれば、対戦校が明徳を攻略するのは至難の業だ。甲子園で初戦負けがないほど甲子園での戦い方を熟知する馬渕監督のもとで、どんな快進撃を見せるか。レベルの高い九州から出場するのは、九州国際大付属。大型チームの魅力にあふれた好チームだ。チーム打率4割、41試合で36発の長打力と、他校を圧倒するだけの破壊力を持つ打線はチームの大きな特徴。エース三好の安定感にやや課題は残るものの、『打って支える』若生監督のチーム作りは面白い。
Aクラスとそん色ないチームが並ぶセンバツ。決め手を持ったチームも続々
ダークホースに上がるチームも多いのが、今年の選抜の特徴だ。近年著しいレベルアップを見せる東北勢では、東北と光星学院の両名門が出場。東北は昨年のチームから『グラウンド内での全力疾走』をやりだして、チームカラーが変わった印象を受ける。選手の素材で勝負していたチームカラーからは一変し、全員で獲物を倒しに行く迫力の感じられるチームになった。戦力的に傑出したものはないが、注目していい面白いチームだ。逆に光星学院は、圧倒的な『素材』勝負。全国から集まったシニア・ボーイズらの俊英たちが、甲子園で暴れまわれるか。特にスラッガー田村に注目している。150キロ越えを秋の時点で果たしたエース釜田の金沢は、エースにすべてをかける。明治神宮大会で見たチームは、守備、打撃ともにややひ弱な感じを抱かせたが、冬場のトレーニングでどこまでその力をアップさせているか。九州では昨夏ベスト8の九州学院の評判が高い。甲子園帰りで遅れた新チームで何とか秋の地区大会を勝ち抜き選抜に出場した力は本物。まだ底を見せていない力がどこまで伸びてきているのか。今大会屈指と評判のエース松田を擁する波佐見も面白い。菊池雄星のいた花巻東の姿をだぶらせるのは酷かもしれないが、そこまでのポテンシャルは持っているのではないかと考える。
そのほかでは、出来不出来の差が激しい玉熊の北海は、豪雪に見舞われた冬をどう越してきているのか。夏春連続で初出場を射止めた水城は谷井を中心とした打線の力は水準以上。初勝利を狙う。前橋育英は初出場で冷静に戦いたいところ。久々甲子園の国学院久我山は、1年生のエース・川口の出来がカギ。静清、日本文理はなかなか力を持ったチーム。目標はまず1勝だろうが、波に乗るともしかしたら・・・・もありうるか。大物食いの加古川北と安定した戦力を誇る京都成章は地元の大声援に乗って戦い切りたい。1年生だけの異例のチーム、創志学園と、広島から初出場の総合技術に注がれる視線は熱い。香川西は、四国大会決勝での大敗がちーむに影を落とさなければいいが。21世紀枠の3校、大館鳳鳴、佐渡、城南には、それぞれ力を出し切ってもらいたい。特に悲願を手繰り寄せた大館鳳鳴の戦いぶりに注目している。
さて、”何が起こるかわからない”選抜の開幕ももうすぐ。
各校の健闘に期待しつつ、どこが”春の嵐”を巻き起こすのか、頭の中で32校の名前がぐるぐる回っています。
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やっぱり”春はセンバツから”これだけは何年たっても変わりませんね。夏の大会と違って、暖かな風が吹く中での試合も、たまらない魅力があります。
今年は日大三の評判が高いですね。神宮大会優勝ですから当然なんですが、『地元』に在住のワタシとしては、ともすれば豪快というだけで語られがちだった三高の『野球部としての良さ』が最近語られだしたのが、なんとも嬉しいことです。
どうしても地元の高校にはやや辛めの評価になってしまうワタシですが、『何かを持っている』今年の三高には期待しています。そして、すべての高校の野球が見たいなあ、と録画の準備に余念がありません。
*吉永君、精神的にタフになれればやれると思います。そしてリリーフの横手投げの投手、一度見てみたいといつも思っています。
センバツと選手権の時期は、大げさではなく仕事が手に着かない程落ち着きません。
さて、早実に延長戦の末敗れたあの西東京大会以来、昨春の対興南戦、昨夏の西東京大会での対日鶴戦と、延長にもつれ込んだ大一番は三高に不利、と感じられてなりません。
このセンバツは、先手必勝で頂点に駆け上がってくれることを願っています。
不安は、万が一吉永が撃ち込まれたあとのリリーフ、でしょうか。