【怪童・尾崎死す!】
今日のスポーツ紙には、
こんな見出しが躍りました。
尾崎行雄氏、
享年68歳。
早すぎる死でした。
尾崎氏を紹介する紙面には、
東映で5年間に4度の20勝をあげたことが書かれ、
その後は故障に悩まされて『太く短く生きた剛腕』
との表現がなされていましたが、
尾崎氏と言う名前でワタシが思い出すのは高校時代のこと。
その当時ナニワを代表するチームだった浪商のエースとして、
『高校野球最強』と言われた神奈川・法政二と繰り広げた死闘の数々です。
時は昭和30年代。
ワタシはまだ生まれていませんので、
伝え聞きの部分しかありませんでしたが、
関西出身で大の高校野球ファンであった祖父からは、
よくこの頃の尾崎の怪腕ぶり、
聞いたものでした。
さほど大きくない体から、
全身をバネのように使って投げられる速球は、
ギューンと伸びてきたそうです。
今日のスポーツ紙などには、
『全盛期には160キロ出ていた』
などという当時の同僚らからのコメントが出ていましたが、
計測された球の速さということではなく、
キレのある『本当の球威』を持っていたすごいピッチャーだったんだろうということが、
うかがい知れます。
まさに【記録よりも記憶に残る野球選手】だったのでしょう。
それにしても法政二と浪商のライバル対決。
【名勝負数え歌】
の趣きがあって、
当時を知らないワタシにとってもドキドキする物語ですね。
法政二のエースは、
のちに巨人で【赤手袋の盗塁王】になる柴田勲。
そして対する浪商のエースが、
この尾崎行雄でした。
両チームの初対戦は1960年夏の二回戦。
浪商は既に甲子園制覇三回を誇る【超名門】でしたが、
当時の法政二はまだ【神奈川の新興勢力】の扱い。
ちなみに、
戦前から戦後のこの年ぐらいまでは、
高校野球は『東海と関西』の二強に『四国』が加わった三地区が圧倒的な強さを誇っていました。
関東では、
東京がわずかに【強豪】のカテゴリーにかろうじて指をかけてはいたものの、
さほどではありませんでした。
神奈川と言えば、
わずかに1949年に湘南が初出場初優勝したのが残るぐらいの、
『その他大勢の県』
のひとつでした。
しかし法政二がこの流れを変え、
昭和40年代以降は、
『高校野球の強豪県』
としての地位を確立していったと思います。
そういう意味でも、
法政二の存在なしには『神奈川の高校野球』は語れない強豪です。
そしてこの法政二の『完璧なチーム』ぶりは、
長く高校野球史に輝いています。
なにしろ、
広島商、中京商(当時)に代表される【高校野球戦術】は、
『足と小技で点を奪って、堅い守りで逃げ切る』
というもの。
現在の高校野球とは一線を画しています。
しかしこの法政二高、
何しろ強力打線でよく打った。
高校野球の概念を変えるほどの強力打線だったみたいですね。
しかも守りを一手に引き受けるのは安定感抜群の剛腕・柴田。
『まず負ける姿が想像できない』
ような完璧なチームだったようです。
1960年夏、
そして1961年春。
完璧な戦いぶりの法政二は、
楽々と夏春連覇を達成しました。
その頃から怪童と言われた尾崎との対戦は二度。
まずは1960年夏の二回戦。
法政二 4-0 浪商
そして捲土重来を期した1961年の春の再戦。
法政二 3-1 浪商
尾崎はこの、
『届きそうで届かない敵』
に対して、
二度の対戦で見事に玉砕していました。
そして法政二が、
甲子園初の『三連覇(3季連続制覇)』を狙って甲子園に乗り込んできたのが1961年の夏。
この年が尾崎との、
最後の【宿命の対決】となりました。
この大会でも『完璧な勝利』を続ける法政二に対して、
尾崎も大会に入ってからは絶好調。
三試合を投げて1失点の堂々の投球を見せて、
ついに準決勝の法政二戦に挑みます。
この試合、
尾崎の速球は切れていたようですが、
そこはさすがの法政二打線。
一,四回に得点を挙げて2-0。
柴田の出来から行ってこのビハインドは重く、
『法政二がまたも逃げ切って3連覇に王手』
という空気が球場に流れ出したそうです。
もちろん甲子園という球場の地元は大阪。
『今度こそ浪商』
という期待は大きく、
回を追うごとに大声援に包まれていたようですね。
見事に『ヒール役』に回った法政二と柴田には、
じわじわと重圧がかかっていったんだと思われます。
そして9回。
法政二は、
2アウトを取って”あと一人”の状況ながらランナーは満塁。
そこで迎えたのはエースの尾崎。
【甲子園の神様】は、
心憎いばかりの『場面演出』をして、
尾崎をバッターボックスに送り出しました。
果たして、
尾崎が捕らえた打球は、
三遊間を真っ二つ!
二塁ランナーまで帰って同点!!
ついに浪商が法政二を二年越しで捕らえた場面でした。
同点となれば、
あとは球場の雰囲気にも押され『ナニワの誉れ』浪商の勝利は、
決定づけられていたも同然でした。
疲れの出るはずの9回、10回、11回。
尾崎のピッチングは、
ますます冴えわたり、法政二の強打線もその速球に全く手が出ず。
ついに延長11回に2点を挙げた浪商が、
宿敵・法政二の三連覇を阻止したのでした。
その試合を見ていた人たちにとっては、
この激闘や尾崎の怪腕、
50年経った今も、
鮮やかによみがえってくるシーンのようです。
日本の多くの高校野球ファン、
そして国民に、
『忘れられない一瞬』
を残してくれた高校野球のヒーロー。
忘れようったって、
忘れられるものじゃあ、
ありません。
何十年経っても語りつくせぬほど語られる、
それこそが『スポーツのチカラ』だと、
本当に思いますね。
また一つ、
『激闘は天のかなたに』
行ってしまいました。
しかし、
いつまでも、いつまでも、
激闘の記憶は語り継がれていきます。
ありがとうございました、そして安らかに。
尾崎投手!
その雄姿忘れません。
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