アルファロメオと小倉唯

ペッピーノをお迎えした!

今日、新しい「家族」を迎えました。

こちら。



アルファロメオ156のV6セダンです。

うちでは「ペッピーノ」と呼びます。

もしくは「ペッペさん」かな。

私の愛車「メメ」と並行して使います。

父の介助や、父を乗せての医者通い、母のお見舞いなど週に4、5回は車を出さなくてはならない生活になって。

30年も乗っているご老体、メメ(アルファロメオ155 2.0TS 8V)に全て頼り切るのは少し心配。

それでなくても、妻も駅からすごく遠い実家に、独居している義母に会いに行く用事があったりするので、やはり彼女も運転できる車が必要です。

でも左ハンドルでマニュアルのメメは、彼女には運転が厳しい。

ということで、ドナドナになったロロ(アルファ156 2.0 スポーツワゴン)の代わりに買いました。

メメと同じイタリアの車ですが、中古で購入したので国産の軽自動車の中古と変わらないぐらいの、安い買い物でした。

イタリア車は、メメみたいに「当たり」の個体をつかめばいいのですが…

廃車にした「前任車」のロロみたいに、やたらトラブルの多い個体もあって。

その辺が原因で、リスキーだということで、中古になるとガクンと価格が下がるんです。

なので、当たればもの凄いお買い得。

定期的に整備して、消耗部品を予防交換しておけば、そんなに壊れたり、手がかかったりしません。

現にメメは新車で購入してから約20年は、車自体の故障は全くといって良いほどありませんでした。

最初に壊れたのはデンソー製のエアコン。

次に壊れたのはパイオニアのオーディオ。

いずれも日本製のコンポーネントだったという、皮肉な話。

ほんとですよ、これ。

ただロロみたいに外れたら残念でした、ということで。

外れる確率は、確かに国産車より高いですけど…

でもメメの時代以降のアルファロメオは、実はドイツ車なんかとそんなに変わらない「はずれ率」なんですけどね。

「イタ車は壊れる」伝説が買うのをためらわせている……でもそのおかげで中古車がこんなに安く手に入るんですけど。

今度買ったペッピーノの車歴は、ほぼ30年選手であるメメの半分ぐらい。

デザインは当時アルファのスタイルセンター(チェントロスティーレ)のチーフだったヴァルテル・デ・シルバのベースに…

高名なカーデザイナーのジョルジェット・ジウジアーロがフェイスリフトを施したもの。



ジウジアーロのバッジが付いているのが、妻にはうれしいみたいです。

でもこの車の「売り」はなんといってもエンジン。

数々の栄光の歴史を刻んだ、アルファロメオのレーシングチームでも活躍した…

名エンジニア、ジュゼッペ・ブッソが設計した、60°のバンク角を持つV型6気筒エンジン。

通称「ブッソV6」(ブッソーネV6)と呼ばれるもので、世界の自動車の歴史に名を刻む、レジェンド級の名機です。

音や振動など現代の車のエンジンと比べると、古典的で粗削りな印象のエンジンですが、その音がなんともすばらしくて……

「走る楽器」などと称されています。

回転の上がり方、パワーとトルクの出方にも新しいエンジンでは味わえないエモーショナルな魅力があるのです。

こんなガソリンエンジンは、もう二度と作られないでしょうね。



これからはもう、ハイブリッドから、次は電気自動車、水素自動車の時代になりますから。

EUは2035年までに、生産されるすべての自動車を電動もしくはその他の脱炭素モーターの車にすると決めています。

ブッソV6エンジンは、古き良き時代の内燃機関の記念碑的存在ですが、いずれ消え行く運命にあります。

アルファロメオ社オリジナルの設計によるエンジンも、このブッソV6エンジンが最後になりました。

ペッピーノが生産された翌年以後に生産されたアルファロメオは、アルファの親会社となった、フィアットのエンジンをベースに改造したものを積んでいます。

いわばペッピーノは「アルファ純正エンジンを積んだ最後のモデル」というわけです。



ちなみに、アルファロメオのエンジンといえば、ブッソV6と並んで名高い名機として…

1950年代終わりにルーツを持ち、その後改良を重ね発展した「アルファツインカム」と呼ばれる直列4気筒エンジンがあります。

アルファロメオのファンでも意外に知らない人が多いのですが、実はこちらも、ジュゼッペ・ブッソの設計です。

その最終バージョンを搭載しているのが、実はうちのメメ=アルファ155TSの初期型(8バルブ)なんです。



155も、メメの翌年のモデルからはフィアットベースのエンジンになってしまいました。

アルファロメオの誇る、そして名エンジニア、ジュゼッペ・ブッソの手になる「二大名機」エンジンを積んだ…

その最後の型である、メメとペッピーノがうちに揃ったのは、偶然なんですけれどね。

メメを買ったとき、友達は「こんなの趣味の車だよ。実用には向かない」と言いました。

でもそれから実際に30年も乗り続けることができたのは、メメが実用車として十分なスペックと、信頼性をもっていたからです。

そうでなきゃロロの場合みたいに、耐えられなくてすぐに手放していますよ。

そもそも、どうしてそんな変わった車に乗ってるの?と訊かれることもありますけど。

そうですね…。

メメの同時代でも、アルファ155よりも速い車なんてその辺にゴロゴロしてましたし…

乗り心地がいいとか、燃費がいいとかいう観点から見ても、まあ当時としては、いたって普通な車ですよ。

デザインは唯一無二、という感じでもちろん気に入っていますけど。

でも、全般的にアルファロメオには、そういう問題じゃない、人を「沼にハマらせる」魔力があるんです。

ひとことで言うと「生き物みたい」な機械、というところですかね。

クラッチのつなぎ方とか、カーブでブレーキやアクセルを踏むタイミング、ハンドルの切りかた、そうしたものが適切でないと…

車の方が「お前、運転下手くそだな」と指摘して来るんですよ。

そしてどこかぎくしゃくした動きになる。

逆に、それがぴたりとハマると「おお、やるじゃん!」とすごく褒めてくれる。

つまり、五感で感じるものすごく気持ち良い走りができる。

乗り手と車の間に、双方向のコミュニケーション、一種の「会話」がいつもあるんです。

それが、慣れるとたまらなく面白い。

日によって、オーナーにしかわからない微妙な「機嫌」の差があるし。

機嫌が良くても、扱いが悪いとだんだん気分を損ねて来るし、逆に最初今ひとつでも、うまい運転を重ねていると上機嫌になってきたり。

機械を操作しているというよりは、生きたものを扱っている…そう、馬を駆っている感じ、でしょうか。

スポーツカーやそれに準ずるよく出来たスポーティーカーは、飛ばさないとその魅力がわかりません。

でもアルファの場合は「馬」みたいな生き物ですから、ポクポク歩くようなスピードでもギャロップ程度でも、操る面白さがある。

街中で周りの人に迷惑をかけず、免許に傷がつく心配もない十分な安全運転をしていて…

その中で、ここまで面白い車、楽しめる車って、他にないと思います。

自動車に移動の道具としての役割だけを求める人には、アルファよりもっと運転が楽ちんで、便利な車がいくらでもあります。

純粋にスピードを出してスポーツドライビングをしたい人には、ポルシェとか、フェラーリとか、スカGとかをお勧めします。

でも、のんびり走りながらでも車と対話して楽しみたい人、運転と車そのものが好きな人には、ぜひ一度アルファロメオに乗ってみてほしいです。

乗ってすぐには、感動がないかもしれません。

とくにメメやペッピーノみたいな古いアルファに乗ると、最初は「時代遅れ」としか感じないと思います。

でも本当に車好きな人が、アルファ、特にちょっと古いアルファを一日乗り回したら「これ、意外にいいかも」となり…

一週間付き合ったら、もう離れられなくなるんじゃないかと思います。

まさに自分の愛馬みたいに「情が移って」しまって。

そして、それが車遍歴の終着点になってしまうかもしれません。

いろんな車を短い期間で乗り替えたいタイプの人には、危険すぎる選択だとも言えますね。

ペッピーノは基本的に妻の車ですけど…

妻とペッピーノの付き合いが、長くて楽しいものになることを願ってやみません。

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