キューバの首都ハバナの米大使館などで、聴覚障害や吐き気、頭痛を訴える外交官が相次いでいる。調査した米政府は「高度な音響装置」による攻撃だと結論付けたものの、装置がどのようなものかが分かっておらず、犯人像や目的についても明らかになっていない。米メディアが「謎の事件」、「謎の兵器」などと報じる事案は、謎が謎を呼ぶ展開となっている。(外信部 住井亨介)
深刻な症状が次々
米CNNテレビ(8月20日、電子版)によると、謎の攻撃が始まったのは昨年11月中旬。10人以上の米外交官と、その家族が治療を受け、そのうち外交官2人は難聴など長期治療が必要な症状だった。今年6月には、カナダ外交官5人とその家族も同様の症状を訴えた。
米CBSテレビ(8月23日、電子版)は、被害を受けた外交官らの診療記録を入手したとして、症状を詳報。難聴、吐き気、頭痛、平衡障害が訴えられており、軽度の脳損傷や中枢神経の損傷が見られると伝えた。診断した医師の一人は、将来にわたって健康上のリスクが現われる危険性があると指摘したという。
CNN(9月2日、電子版)によると、謎の攻撃による被害の訴えは8月にもあり、被害を受けた米外交官は計19人に上っている。
事件を数カ月にわたって捜査した米政府は、人が聞き取れない領域の音を発する高度な音響装置が外交官らの自宅の内外で使われたと結論づけ、ティラーソン米国務長官は8月11日、記者団に「キューバ当局は犯人を捜し出す責任がある」と述べた。
これに先立つ今年5月、米政府は事件に絡んで首都ワシントンにあるキューバ大使館の外交官2人を国外追放。一方でキューバ外務省は声明を出し、「徹底的かつ最優先で、緊急の捜査を始めている」と原因究明に協力する姿勢を示したうえで、「外交官の追放は不公正で事実無根だ」とし、非難合戦の様相も帯びてきている。
被害にあった外交官らはいずれもキューバ政府が所有・管理する物件に住んでいた。ところが、米捜査当局が住居を捜索したものの、それらしい装置は見つからなかったことから、捜査自体が混迷を深める結果となっている。
第三国関与説かキューバ謀略説か
そもそも、誰が、何のために「攻撃」を仕掛けたのか。
CNNは、第三国の関与が疑われるとし、米国とカナダに対する何らかの報復、もしくは両国とキューバとの間にくさびを打ち込む狙いがある可能性を指摘。米捜査当局が、ロシア、中国、北朝鮮、ベネズエラ、イランといった米国に敵対する国の工作員の関与を慎重に調べているとしている。
CBSは関係筋の話として、そのほかにも米国の外交官がキューバで車両破壊、常時監視、家宅侵入などの嫌がらせを受けているとも伝え、事件との関連性を暗におわせる。
「米・キューバの関係正常化を頓挫させることをもくろむ、意図的な策略だったのではないか」
CNNにこう語ったのは、米・キューバ外交についての共著があるアメリカン大行政大学院のウィリアム・レオグランド教授。レオグランド教授は「キューバ治安当局が友好国の諜報機関のためにやったものの、指揮系統内でしっかり情報共有がなされていなかった可能性が高い」との見方を示して“謀略説”を取る。
だが、いずれの見立ても決定的な証拠が示されない中で、不気味な事件の真相に迫り切れていない。