毎日新聞 2013年02月26日 21時14分(最終更新 02月26日 21時19分)
熊本県水俣市出身の女性(87)=大阪府=が水俣病患者としての認定を求めた訴訟の控訴審で、「女性は水俣病」と法廷で述べる予定だった医師に環境省が、認定申請を棄却した県側の判断は妥当と証言するよう要請していた疑いがあることが分かった。医師が拒否したため出廷は見送られ、大阪高裁は別の医師による「水俣病ではない」とする意見書を採用した。
高裁は昨年4月、女性を水俣病患者と認めるよう熊本県に命じた1審・大阪地裁判決を覆して請求を棄却。女性は上告しており、代理人弁護士は「国は虚偽証言をさせようとした」として26日、医師本人が経緯を説明した文書を最高裁に提出した。
この医師は、千葉県市川市の国立精神・神経センター国府台病院院長などを務めた神経内科医の佐藤猛さん(80)。原告側が最高裁に提出した書面などによると、佐藤さんは70年代、関東地方の水俣病の検診などに携わり、環境省は11年6月、医師証人としての出廷を要請した。佐藤さんが検診結果などを基に「水俣病」とする症例検討記録を提出したところ同省職員らが何度も自宅を訪問。「申請を棄却した熊本県認定審査会の判定が間違っていたとなるのは困る」として「判定は妥当だった」と証言するよう要請したという。
佐藤さんは拒否。同年9月に省内であった面談でも拒否後、接触は途絶えたという。結局、佐藤さん作成の記録は高裁に提出されなかった。判決後、佐藤さんが「明確に水俣病と診断できる症例が否定され同情を禁じ得ない」と弁護団に訴え発覚した。環境省は「要請した事実はない。係争中でありコメントできない」と述べた。佐藤さんは「取材は受けない」としている。
女性は78年、県に認定申請したが棄却され、07年に大阪地裁に提訴。亡くなった母親の認定を求める別の裁判とともに係争中で、いずれも国の認定基準の是非を争点にしている。2件の原告と被告双方の意見を聞く弁論が3月15日、最高裁である。【西貴晴、石川淳一】