4月1日、新元号が発表された。発表会見の模様はテレビ各局でも生中継され、日本中の注目を集めていた。その発表の瞬間からわずか1時間後、ゴールデンボンバーが新元号を歌詞に盛り込んだ新曲『令和』を発表した。
彼らは新元号が発表される少し前からLINE LIVEで生配信を行い、その制作の様子を公開していた。発表されるとすぐにレコーディングとMV(ミュージックビデオ)の撮影を始め、あっという間にMVを仕上げてYouTubeで公開した。楽曲と映像はほぼ完成に近い状態にあり、新元号を連呼するサビの箇所だけを穴埋めするような形で曲を完成させたのだ。その企画力と行動力、そして楽曲やMVのクオリティの高さに称賛の声が相次いでいる。
ゴールデンボンバーはもともと「アイデアの塊」のようなバンドだった。そもそも楽器を弾かない「エアーバンド」という彼らの成り立ち自体が1つの発明だった。ボーカルの鬼龍院翔以外のメンバーはライブでも楽器を弾くふりをしているだけ。音源は打ち込みで事前に作ったものを流していた。
ボーカル以外に楽器を弾かないメンバーが3人いるステージは異様である。楽器という武器を持たない彼らは、その代わりにさまざまなパフォーマンスを矢継ぎ早に繰り出して観客を煽る。特に、身体能力の高い白塗りメイクの樽美酒研二が体を張ったパフォーマンスをするのが印象的だ。ゴールデンボンバーは大舞台に出るほど真価を発揮する。その才能が評価され、2012年から4年連続で『NHK紅白歌合戦』にも出場を果たした。
作詞・作曲・ボーカルを担当する鬼龍院翔は、もともと芸人を目指して吉本興業の養成所「NSC東京」に通っていた。在学中はしずるの池田一真とコンビを組んでいた時期もあった。だが、鬼龍院は芸人としての自分の才能にあっさり見切りをつけて、卒業後に音楽の道に進んだ。そして、お笑い的なパフォーマンスを取り入れたバンド「ゴールデンボンバー」を結成した。
2009年にリリースした『女々しくて』は2011年頃からじわじわと人気を呼び、いつしか大ヒットしてカラオケの定番曲となった。この楽曲をきっかけに彼らは世の中に知られるようになった。その後も、さまざまな企画やアイデアで人々を楽しませている。
そんなゴールデンボンバーの成功を冷静な目で見つめていた男がいる。オリエンタルラジオの中田敦彦である。中田は、ゴールデンボンバーの革新性は「本物のミュージシャンが音楽番組であえて芸人のようなふざけたパフォーマンスをする」というところにあると考えた。
そこで、彼らの方法論を自分たちに取り入れることにした。音楽とお笑いをひっくり返して、「本物の芸人がお笑い番組で真剣にミュージシャンのようなパフォーマンスをする」ということに可能性を感じたのだ。
中田は相方の藤森慎吾と4人のダンサーを引き連れて、RADIO FISHという音楽ユニットを結成。ほかの芸人たちが漫才やコントを披露するネタ番組で、オリエンタルラジオだけは『Perfect Human』という楽曲を大真面目に歌い、踊った。それが話題になり、この曲は大ヒットした。ゴールデンボンバーが音楽の世界にお笑いを持ち込んだのと同じように、中田はお笑いの世界に音楽を持ち込んでみせたのだ。ゴールデンボンバーの成功の方程式は、逆向きにたどっても通用するものだったのだ。
私はどちらかと言うと音楽よりもお笑いに興味があるタイプの人間だが、ゴールデンボンバーのことはずっと気になっていた。実際に彼らのライブに足を運んでみて感心したことがある。会場にいるすべての観客を楽しませようとする気遣いが感じられたのだ。
彼らのような人気バンドになると、大勢の固定ファンがついていて、ライブではそんな常連たちの間で独自のノリが生まれやすい。だが、鬼龍院はテレビなどで自分たちに興味を持ち、初めてライブに来たような観客にも常に気を使うようなコメントをしていた。「次の曲ではこういう振り付けをしてください。でも、何もしなくてももちろんOKです」などと言ったりして、初心者を置き去りにしない配慮が感じられたのだ。
いわば、常連を満足させながらも、新しい客を取り込むことにも一切手を抜いていない。徹底して観客目線に立っていなければそういうことはできない。そこに何よりも感心した。
彼らはどうしてもキワモノに見られがちだが、楽曲のクオリティは高い。『令和』に関しても、新元号を何度も繰り返すサビの部分はキャッチーで覚えやすいし、全体として次の時代に希望を感じさせるような歌詞になっているところもいい。
新元号が発表されて、マスコミではそれ自体が好きだとか嫌いだとか、いいとか悪いとか、ひたすらどうでもいいことばかりが語られている。
そんな中で、ゴールデンボンバーが新曲『令和』で示したのは「この時代の節目をみんなと一緒に楽しみたい」という前向きな気持ちである。それは、彼らが楽曲制作の過程を生配信したことにも表れている。彼らはただ、多くの人と一緒に、この世紀の瞬間を共有して楽しみたかっただけなのだ。何よりもその心意気を買いたい。
最高のエンターテイナーとは、自分が楽しむことで人を楽しませる人のことだ。ゴールデンボンバーはそれが実践できている。楽器を演奏する人たちのことをバンドと定義するのなら、彼らは偽物のバンドなのかもしれない。だが、彼らのエンターテイナーとしての意識の高さは、紛れもない本物である。(ラリー遠田)
<AERA dot.>
元記事はこちら。
↓
↓
ゴールデンボンバー 新曲「令和」に見た本物感
彼らは新元号が発表される少し前からLINE LIVEで生配信を行い、その制作の様子を公開していた。発表されるとすぐにレコーディングとMV(ミュージックビデオ)の撮影を始め、あっという間にMVを仕上げてYouTubeで公開した。楽曲と映像はほぼ完成に近い状態にあり、新元号を連呼するサビの箇所だけを穴埋めするような形で曲を完成させたのだ。その企画力と行動力、そして楽曲やMVのクオリティの高さに称賛の声が相次いでいる。
ゴールデンボンバーはもともと「アイデアの塊」のようなバンドだった。そもそも楽器を弾かない「エアーバンド」という彼らの成り立ち自体が1つの発明だった。ボーカルの鬼龍院翔以外のメンバーはライブでも楽器を弾くふりをしているだけ。音源は打ち込みで事前に作ったものを流していた。
ボーカル以外に楽器を弾かないメンバーが3人いるステージは異様である。楽器という武器を持たない彼らは、その代わりにさまざまなパフォーマンスを矢継ぎ早に繰り出して観客を煽る。特に、身体能力の高い白塗りメイクの樽美酒研二が体を張ったパフォーマンスをするのが印象的だ。ゴールデンボンバーは大舞台に出るほど真価を発揮する。その才能が評価され、2012年から4年連続で『NHK紅白歌合戦』にも出場を果たした。
作詞・作曲・ボーカルを担当する鬼龍院翔は、もともと芸人を目指して吉本興業の養成所「NSC東京」に通っていた。在学中はしずるの池田一真とコンビを組んでいた時期もあった。だが、鬼龍院は芸人としての自分の才能にあっさり見切りをつけて、卒業後に音楽の道に進んだ。そして、お笑い的なパフォーマンスを取り入れたバンド「ゴールデンボンバー」を結成した。
2009年にリリースした『女々しくて』は2011年頃からじわじわと人気を呼び、いつしか大ヒットしてカラオケの定番曲となった。この楽曲をきっかけに彼らは世の中に知られるようになった。その後も、さまざまな企画やアイデアで人々を楽しませている。
そんなゴールデンボンバーの成功を冷静な目で見つめていた男がいる。オリエンタルラジオの中田敦彦である。中田は、ゴールデンボンバーの革新性は「本物のミュージシャンが音楽番組であえて芸人のようなふざけたパフォーマンスをする」というところにあると考えた。
そこで、彼らの方法論を自分たちに取り入れることにした。音楽とお笑いをひっくり返して、「本物の芸人がお笑い番組で真剣にミュージシャンのようなパフォーマンスをする」ということに可能性を感じたのだ。
中田は相方の藤森慎吾と4人のダンサーを引き連れて、RADIO FISHという音楽ユニットを結成。ほかの芸人たちが漫才やコントを披露するネタ番組で、オリエンタルラジオだけは『Perfect Human』という楽曲を大真面目に歌い、踊った。それが話題になり、この曲は大ヒットした。ゴールデンボンバーが音楽の世界にお笑いを持ち込んだのと同じように、中田はお笑いの世界に音楽を持ち込んでみせたのだ。ゴールデンボンバーの成功の方程式は、逆向きにたどっても通用するものだったのだ。
私はどちらかと言うと音楽よりもお笑いに興味があるタイプの人間だが、ゴールデンボンバーのことはずっと気になっていた。実際に彼らのライブに足を運んでみて感心したことがある。会場にいるすべての観客を楽しませようとする気遣いが感じられたのだ。
彼らのような人気バンドになると、大勢の固定ファンがついていて、ライブではそんな常連たちの間で独自のノリが生まれやすい。だが、鬼龍院はテレビなどで自分たちに興味を持ち、初めてライブに来たような観客にも常に気を使うようなコメントをしていた。「次の曲ではこういう振り付けをしてください。でも、何もしなくてももちろんOKです」などと言ったりして、初心者を置き去りにしない配慮が感じられたのだ。
いわば、常連を満足させながらも、新しい客を取り込むことにも一切手を抜いていない。徹底して観客目線に立っていなければそういうことはできない。そこに何よりも感心した。
彼らはどうしてもキワモノに見られがちだが、楽曲のクオリティは高い。『令和』に関しても、新元号を何度も繰り返すサビの部分はキャッチーで覚えやすいし、全体として次の時代に希望を感じさせるような歌詞になっているところもいい。
新元号が発表されて、マスコミではそれ自体が好きだとか嫌いだとか、いいとか悪いとか、ひたすらどうでもいいことばかりが語られている。
そんな中で、ゴールデンボンバーが新曲『令和』で示したのは「この時代の節目をみんなと一緒に楽しみたい」という前向きな気持ちである。それは、彼らが楽曲制作の過程を生配信したことにも表れている。彼らはただ、多くの人と一緒に、この世紀の瞬間を共有して楽しみたかっただけなのだ。何よりもその心意気を買いたい。
最高のエンターテイナーとは、自分が楽しむことで人を楽しませる人のことだ。ゴールデンボンバーはそれが実践できている。楽器を演奏する人たちのことをバンドと定義するのなら、彼らは偽物のバンドなのかもしれない。だが、彼らのエンターテイナーとしての意識の高さは、紛れもない本物である。(ラリー遠田)
<AERA dot.>
元記事はこちら。
↓
↓
ゴールデンボンバー 新曲「令和」に見た本物感