ラボに明かりはない。でも夜目は利く方だ。間違いない。ターミナルを立ち上げてシステムを呼び出す。早く今読み取ってきた座標を入力しないと。また動いて追跡できなくなる。
”迎撃対象カラ除外スル衛星モシクハ記証コード”
座標を入力。
モニターに月のかけらが映し出される。まさに、これだ。
ついさっき俺が肉眼で確かめて来たペトリの忘れがたみ。
25年もヴァルハラの容赦ない放射線にさらされてきたにもかかわらず、まだ力を失ってないホタル石が50キロは内包されている。泉の石107コを全部足したより多い量だ。これは撃破させるわけにいかない。
無事にイドラに下ろさなくては。
”衛星の識別コードを入力”
アルは少し考えて、”キボウ”と命令した。パンドラの箱の最後に残っていたもの。
「ずいぶんロマンチックな名前をつけるじゃないか」
アルはコンソールにかがみ込んでいた顔を、はねるように声の方に向けた。さっきまで見ていたモニターの灯りに目がくらんで、声の主が見えない。見えなくてもわかる。他に誰がいる?
「エクルー、何の用だ?」
「何の用とはこあいさつだな、義兄さん。あんたこそ、こんな夜中に職場のコンピューターで何をしてるんだ? 姉さんが心配してるぜ?」
反対側からスオミも入って来た。アルはため息をついた。
「ここの用事はすんだ。説明するから外に出よう。ジンに気づかれる」
3人は温室ドームの様の泉に飛んだ。泉の周りに3人で座った。
「イリスとメドゥーラに頼まれたんだ。これが、2人が俺をイドラに呼びたかった理由だよ」
「ペトリの石を……ホタル石をイドラに下ろすこと?」
「でもそれってミナト達の意志を無駄にする行為じゃないの?」
エクルーが指摘した。
「ホタル石が悪用されなければいいんだろう? いずれにしろ、イドリアンにはまだホタル石が必要なんだ。彼らはずっとこの星でホタル石と共に進化して来たんだから。ホタル石を失って、イドリアンの力も失われたら、結局イドラ全体が弱ることになる」
エクルーは今ひとつ釈然としなかった。何かごまかされている気がする。
「なぜ、ジンに内緒なの? あなたとイリスとメドゥーラだけで画策しているの? なぜ私達にも話してくれなかったの?」
「メドゥーラに口止めされたんだよ。ジンは公の立場がある。事実上、イドラ代表だろう? 何か説明できない事態が起こっても、知らなければ責任を取らないですむ。メテオ・システムの責任者は俺だし」
「ウソよ。3人で何か危ないことをするつもりなんでしょう。知られたら止められるから、だから内緒にしてたんでしょう。かっこ良く犠牲になって、ヒーローになるなんて許しませんからね。残された人間がどんな思いをすると思うの」
スオミがエクルーをきっとにらんだ。
エクルーは両手を挙げた。
「反省してます。でも俺の場合は、もう決まってたんだから仕方ない。アルは違う。サクヤが50年後...もう25年後か、イドリアンが激減すると言った時、アルはまだイドラにいた。雪の中に立ってた」
「雪?」驚いてスオミが聞いた。
「今だって雪は降るよ? 北半球の極圏に。イドリアンもけっこう住んでる」
スオミはまだ混乱気味だった。
「メドゥーラが言ったのよ。アルとアズアじゃ切り札だから最後まで使わないって。サクヤとフレイヤとサユリのことも切り札だって言ってた」
「じゃあ、代わりにどの札を使うつもりだ? 誰が捨てられるんだ? 切り札を守るために?」
エクルーがアルを見た。
「そこまでは知らない。あの2人相手に腹のさぐり合いをして、俺が勝てるわけない」
スオミはアルに飛びかかって地面に引き倒すと、首をしめ上げてどなった。
「ウソ! 2人の思惑はどうあれ、あなたは自分が死んでもいいって思ってたでしょう? これでやっと楽になれるって思ったでしょう? あなたは死に場所求めてイドラに来たんですものね。おあいにく。私と一緒になって、フレイヤの父親になったんだから、そう簡単に解放してあげないわよ! イドリアンが何よ、ホタル石が何よ、何を捨てても私達のために生き延びるって、どうしてそう思ってくれないのよ」
「スオミ……星が落ちる前に、君に首をしめられて死ぬ……」
スオミは手を放すと、そのまま両腕をアルの首に巻きつけて泣き出した。アルはため息をついて、スオミを抱き寄せた。
「俺ってとんでもない女をつかまえちゃったんだな」
「俺は警告したぜ?」
エクルーがけろっと言った。
「アル1人なら命がけでも、この3人なら誰も捨て札にならないですむんじゃないか?」
スオミが泣きやんだ。
「それはいい考えね」
「スオミ! 君は母親なんだぞ! エクルーだってサクヤがいるだろう。万一のことがあったらどうする気だ?」
「それをいうなら、アルだって父親だろ。俺たちが相性いいのはアルだって知ってるだろう? 3倍じゃなく、次乗の9倍の力になるぜ? それに悪いけど俺が心配してるのはアルじゃなくてメドゥーラだ。覚悟決めちゃってる感じがするんだよ。表面上は変わらないけど。いっぱいいっぱいじゃなくて余裕で石を下ろせば、他の犠牲も防げるんじゃないか? な、義兄さん。観念して、俺たちに計画話せよ」
アルは観念した。
”迎撃対象カラ除外スル衛星モシクハ記証コード”
座標を入力。
モニターに月のかけらが映し出される。まさに、これだ。
ついさっき俺が肉眼で確かめて来たペトリの忘れがたみ。
25年もヴァルハラの容赦ない放射線にさらされてきたにもかかわらず、まだ力を失ってないホタル石が50キロは内包されている。泉の石107コを全部足したより多い量だ。これは撃破させるわけにいかない。
無事にイドラに下ろさなくては。
”衛星の識別コードを入力”
アルは少し考えて、”キボウ”と命令した。パンドラの箱の最後に残っていたもの。
「ずいぶんロマンチックな名前をつけるじゃないか」
アルはコンソールにかがみ込んでいた顔を、はねるように声の方に向けた。さっきまで見ていたモニターの灯りに目がくらんで、声の主が見えない。見えなくてもわかる。他に誰がいる?
「エクルー、何の用だ?」
「何の用とはこあいさつだな、義兄さん。あんたこそ、こんな夜中に職場のコンピューターで何をしてるんだ? 姉さんが心配してるぜ?」
反対側からスオミも入って来た。アルはため息をついた。
「ここの用事はすんだ。説明するから外に出よう。ジンに気づかれる」
3人は温室ドームの様の泉に飛んだ。泉の周りに3人で座った。
「イリスとメドゥーラに頼まれたんだ。これが、2人が俺をイドラに呼びたかった理由だよ」
「ペトリの石を……ホタル石をイドラに下ろすこと?」
「でもそれってミナト達の意志を無駄にする行為じゃないの?」
エクルーが指摘した。
「ホタル石が悪用されなければいいんだろう? いずれにしろ、イドリアンにはまだホタル石が必要なんだ。彼らはずっとこの星でホタル石と共に進化して来たんだから。ホタル石を失って、イドリアンの力も失われたら、結局イドラ全体が弱ることになる」
エクルーは今ひとつ釈然としなかった。何かごまかされている気がする。
「なぜ、ジンに内緒なの? あなたとイリスとメドゥーラだけで画策しているの? なぜ私達にも話してくれなかったの?」
「メドゥーラに口止めされたんだよ。ジンは公の立場がある。事実上、イドラ代表だろう? 何か説明できない事態が起こっても、知らなければ責任を取らないですむ。メテオ・システムの責任者は俺だし」
「ウソよ。3人で何か危ないことをするつもりなんでしょう。知られたら止められるから、だから内緒にしてたんでしょう。かっこ良く犠牲になって、ヒーローになるなんて許しませんからね。残された人間がどんな思いをすると思うの」
スオミがエクルーをきっとにらんだ。
エクルーは両手を挙げた。
「反省してます。でも俺の場合は、もう決まってたんだから仕方ない。アルは違う。サクヤが50年後...もう25年後か、イドリアンが激減すると言った時、アルはまだイドラにいた。雪の中に立ってた」
「雪?」驚いてスオミが聞いた。
「今だって雪は降るよ? 北半球の極圏に。イドリアンもけっこう住んでる」
スオミはまだ混乱気味だった。
「メドゥーラが言ったのよ。アルとアズアじゃ切り札だから最後まで使わないって。サクヤとフレイヤとサユリのことも切り札だって言ってた」
「じゃあ、代わりにどの札を使うつもりだ? 誰が捨てられるんだ? 切り札を守るために?」
エクルーがアルを見た。
「そこまでは知らない。あの2人相手に腹のさぐり合いをして、俺が勝てるわけない」
スオミはアルに飛びかかって地面に引き倒すと、首をしめ上げてどなった。
「ウソ! 2人の思惑はどうあれ、あなたは自分が死んでもいいって思ってたでしょう? これでやっと楽になれるって思ったでしょう? あなたは死に場所求めてイドラに来たんですものね。おあいにく。私と一緒になって、フレイヤの父親になったんだから、そう簡単に解放してあげないわよ! イドリアンが何よ、ホタル石が何よ、何を捨てても私達のために生き延びるって、どうしてそう思ってくれないのよ」
「スオミ……星が落ちる前に、君に首をしめられて死ぬ……」
スオミは手を放すと、そのまま両腕をアルの首に巻きつけて泣き出した。アルはため息をついて、スオミを抱き寄せた。
「俺ってとんでもない女をつかまえちゃったんだな」
「俺は警告したぜ?」
エクルーがけろっと言った。
「アル1人なら命がけでも、この3人なら誰も捨て札にならないですむんじゃないか?」
スオミが泣きやんだ。
「それはいい考えね」
「スオミ! 君は母親なんだぞ! エクルーだってサクヤがいるだろう。万一のことがあったらどうする気だ?」
「それをいうなら、アルだって父親だろ。俺たちが相性いいのはアルだって知ってるだろう? 3倍じゃなく、次乗の9倍の力になるぜ? それに悪いけど俺が心配してるのはアルじゃなくてメドゥーラだ。覚悟決めちゃってる感じがするんだよ。表面上は変わらないけど。いっぱいいっぱいじゃなくて余裕で石を下ろせば、他の犠牲も防げるんじゃないか? な、義兄さん。観念して、俺たちに計画話せよ」
アルは観念した。
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