投資家の目線

投資家の目線549(日本は転落するのか)

 エマニュエル・トッド著「最後の転落 ソ連崩壊のシナリオ」(藤原書店 石崎晴己監訳)はソ連崩壊を取り扱った本である。この本を以って、彼は1970年代にソ連の崩壊を予言していたとされ、その中には次のような趣獅フことが書かれていた。

1.経済的危機等によって安定を失った社会では、社会的緊張の抑制に役立つより、自ら敵を探し求めるような、警察による統制権の奪取が発生する。
2.社会主義政体の労働組合の役割は、労働者を守ることではなく、生産を向上させることである。
3.帝国の保持と民族としての誇りを満足させるための高い代償を、生活水準を犠牲にして支払っている。
4.軍事支出は生産活動が消費部門へ転換するのを阻止する。軍事支出は中央集権部門の優位の維持に、特に有効である。
5.青年を兵役に就かせることで秩序の維持に役立たせる。
6.全体主義システムでは、スケープゴートを選ぶことができる。
7.出生率の低下。これは生活条件の改善が要望されているときに発生する。
8.乳児死亡率の上昇。これは医療を通して観察される生活水準の低下である。
9.男性の高死亡率。特に死亡率が高い年齢層が25歳~35歳なので、死因はアルコール中毒ではなく自殺や暴力であろうと推測されている。

 これを日本に当てはめてみる。
1.については、特定秘密保護法などの警察の権限拡大に関わる法案が施行された。
2.の労働組合問題については、連合は以下のように原子力発電所の再稼働容認など、産業優先の傾向が見られる。
「その際には、定期点検等による停止中原子力発電所について、周辺自治体を含めた地元住民の合意と国民の理解、安全性の強化・確認を国の責任において行うことを前提に、その活用も含めて検討する必要がある。」(出所:2014〜2015年度 政策・制度 要求と提言 日本労働組合総連合会
3.について、集団的自衛権の行使やODA予算の増額は国民負担を増やし、少なくとも一部の人々にとっては「国の誇り」を満足させる行為と言える。
 また「南京虐殺」や「従軍慰安婦」の否定も、彼らにとっての「国の誇り」を満足させようとする行為と言える(外国で認められるとは思わないが)。
4.5.について言えば、防衛予算が5兆円を超えている。また、集団的自衛権の行使で海外派兵の機会が増加すれば、兵員が不足するために「経済徴兵制」など実質的な「徴兵制」をとる可能性がある。さらに中央集権体制は、巨大な資本と設備を必要とする重化学工業に向いていると思う。
日本政府は中華人民共和国を6.のスケープゴートにしようとしているように見える(「中国包囲網」など、日本の妄想にすぎないと思うが…)。
7.8.9.は、社会の荒廃を示すものである。乳児死亡率は低下したままだが、出生率の低下は日本にも当てはまる(先進国全般にあてはまる傾向ではあるが・・・)。また、自殺は若年層の死因の1位となっている(出所:若年層の自殺がG7でトップ。日本の若者はなぜ死を選ぶ?週刊SPA!2015.05.12 )。

 まだ乳児死亡率の上昇傾向はみられないが、現在の日本と当時のソ連の間には類似性がある。ソ連同様に日本も「転落」する可能性があるのではないだろうか?
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