投資家の目線

投資家の目線979(イスラエルと米国)

 イスラエルの人口は約950万人である(2022年5月現在、日本外務省HP)。駐日イスラエル大使館HP ユダヤ人社会によれば、ユダヤ人社会はセファルディ系ユダヤ人(イベリア半島からの離散者に由来)、アシュケナージ系ユダヤ人、ホロコースト生存者で構成されるグループと、北アフリカや中東のイスラム諸国から新たに移民してきたグループの2つに大別されるという。イスラエル人口の約24%(約170万人)が非ユダヤ人で、アラブ人のムスリムが約100万人、アラブ人のキリスト教徒は約11万7000人で、ギリシャカトリック教会、ギリシャ正教会、ローマカトリック教会の属する人が大半を占めるという(駐日イスラエル大使館HP 多様な民族と文化)。

 

 「西アジア史 Ⅰ アラブ 新版世界各国史8」(佐藤次高編 山川出版社p.473)によれば、1882年以前のユダヤ人のパレスチナにおける人口は全人口約50万人のうち人口比5%の2万4000人だったという。したがって、イスラエルは「よそ者」であるヨーロッパとアラブ諸国からの大量の移民によって構成されていると言える。

 

 イスラエルのユダヤ人のうち超正統派の「ハレディム(Haredim)」はシオニズムに反対しておりする人が多く、米国のイスラエル・ロビーはプロテスタントの福音派だ(投資家の目線444(イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策))。したがって、シオニズムへの反対は反ユダヤ主義とは言えない。そうでなければ反ユダヤ主義のユダヤ人がいることになってしまう。また、プロテスタントではないイスラエルのキリスト教徒はシオニズムに賛成なのだろうか?。さらに、イスラエルではネタニヤフ首相に対する退陣デモが発生しており、国内のユダヤ人も一枚岩とは言えない(『「ネタニヤフ退陣」イスラエルで10万人がデモ…ガザ戦争6カ月の民意』 2024/4/2 ハンギョレ新聞)。

 

 「帝国以後」(エマニュエル・トッド著 石崎晴己訳 藤原書店p.167)には、『例えばフランス在住のユダヤ人は、二〇〇二年春にフランスの都市郊外で起ったユダヤ教会堂への襲撃にも拘わらず、彼らアメリカのユダヤ人が実感するほどの恐怖をいささかも実感していないアシュケナージ系のフランスのユダヤ人にとってホロコーストとは、アメリカのユダヤ人にとってとは比べものにならない具体的な家族にまつわる現実であったが、彼らははるかに冷静であり、はるかに将来に信頼を抱いている。ところが大西洋の彼方からは、ユダヤ人共同体の自覚を持たぬ変節漢ども、との告発が飽きもせず繰返し投げつけられ、フランスは未来永劫ユダヤ嫌いの国であるから、いずれはお前たちもその犠牲になるぞと、予告されたりするのである。自称「全能のユダヤ・ロビー」を持つ国であるアメリカのユダヤ人が、このように執拗に続く恐怖感に取り付かれているのは、いささか逆説的である』と書かれている。ユダヤ人の社会でも、欧州より米国の方が不安感は大きいように見える。米政府のイスラエル支援に抗議して、国防情報局所属の陸軍少佐が辞任したが、「辞表には、欧州系ユダヤ人の子孫であることが自らの見解に影響を及ぼしたと記した」(「米軍将校が辞任、イスラエルへの軍事支援に抗議」 2024/5/14 ダウ・ジョーンズ配信)ことからも、欧州と米国の温度差が感じられる。

 

 「ベトナム戦争 誤算と誤解の戦場」(松岡完著 中公新書)には、ホー・チ・ミンは共産主義者であったが、ベトナム戦争は民族解放の側面があったこと。ベトナムは仏教徒が8割から9割を占めるのも関わらず、ゴ・ジン・ジェム時代の村落支配の先鋒が少数派のカトリック教徒やよそ者である北からの難民だったこと、外国暮らしが長かったジェムは、一族支配に頼り、カトリック教徒、同郷の中部出身者を優遇したこと、ジェム後の政権も蓄財に耽り、汚職が絶えなかったことが書かれている。南ベトナムの国家予算の70%~90%はアメリカが賄ったという(もっとも、その大部分は米国からの商品輸入に使われたというから、米国の損失は少なかったとは言えるが…)。

 

 現在、米国は汚職の絶えないウクライナを援助していうこともあり、巨額の財政赤字を積み上げている。そのうえに、よそ者である移民とムスリムのような先住民の対立が続いているイスラエルに援助し続ける米国は、ベトナム戦争にのめり込んだあの当時と同じような状況に陥る可能性はないだろうか?

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「政治」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事