パトリック・J・ブキャナン著「超大国の自殺 アメリカは二〇二五年まで生き延びるか?」(河内隆弥訳 幻冬舎 p64)には、オバマ大統領について『かれはアメリカがキリスト教国であるという見方を拒否したのである、「わが国は、キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ人、ヒンズー教徒、そして無信心の国である」。はじめて、アメリカにおけるキリスト教の優位を否定した大統領となった。一八九二年、最高裁判所は、「ここはキリスト教国である」と宣言した』と、キリスト教国「アメリカ合衆国」内部の宗教の分裂が指摘されている(『連邦政府は19世紀を通じて、先住民の文明化を推し進めるためにその宗教儀式を無くし、主流のキリスト教的価値観に同化させようと試みた。(中略)また1892年にはこれを強化するため、インディアン局長官T.J.モーガンが各保留地に「インディアン裁判所規則」を発令し、違反者に対しては食料配給停止や投獄の刑を課した。とくに当時、反乱が警戒されていた平原インディアンのサンダンスやゴーストダンス、ぺヨーテ信仰は取り締まりの対象となった』(Prucca 1990:160-61, 187-88; Irwin 2000: 295-316)。」(「アメリカ先住民と信教の自由―ローカルな聖性をめぐって―」内田綾子 『国際開発研究フォーラム』29(2005. 3))と、かつて米国は政府を挙げて原住民の信仰を弾圧している)。
さらに、「とはいえ、アメリカのカソリックには文化的な亀裂がある。ヒスパニック系カソリックの五十六%はスペイン語によるミサを希望している。英語を好むものは八%にすぎない。ヒスパニックが参加する教会では、九十一%が祈祷にスペイン語をつかい、八十二%がヒスパニックの聖職者をおき、七十九%が大規模なヒスパニック会衆を集めて礼拝を行っている。日曜日ごとのそこでのお説教を見ると、カソリック教会がアメリカでいかに分裂しているかがよくわかる。」(「超大国の自殺」p119)と、キリスト教内部の分裂も指摘されている。しかし、宗教が同じであれば、宗教を異にする場合に比べて共有できる価値観の割合が多いだろう。キリスト教プロテスタント信徒の多い茶会の人々は、同じキリスト教徒という立場からヒスパニックにトランプ大統領を支持するよう誘導しようとするだろう。かつては、「プロテスタントが主流を占めるアメリカで、アイルランド系その他のカトリック教徒は、偏見の対象となった。1960年になっても、一部のアメリカ民は、カトリックの大統領候補ジョン・F・ケネディが当選したら、ローマ法王の言いなりになる、としてケネディ候補に反対した。」(『アメリカ合衆国のメ[トレート 第8章「政教分離」』 AMERICAN CENTER JAPAN HP)というが、信仰が多様化したなかでキリスト教徒が割れるのは、信徒の比率の低下しているプロテスタント信徒としては不都合なのだろう。
ニューズウィーク日本版2017年2月7日号「リベラルが見過ごすトランプ愛の源泉」(小暮聡子)には、2016年大統領選のトランプ支持者の中の、「トランプがオバマケアを廃止すれば、従業員に保険を提供する法的義務はなくなる。小規模ビジネスの経営者にとって、オバマケアの影響は甚大だ。」(小規模保険会社経営ハル・ラウリーのケース)や『「クリントン政権はNAFTA(北米自由貿易協定)でこの国を売り飛ばしたと思う」と、彼は言う。ミラーの会社では輸入品は一切使っておらず、国内で作られ、国内で売られている。輸入したほうが安いが、輸入に頼れば国内の雇用を激減させ、新しい雇用を生み出すことができなくなる。トランプの就任演説で「アメリカ第一主義」を掲げ、「アメリカ製の物を買い、アメリカ人を雇用する」と約束したことは経営者として100%支持するという。」』(プラスチック製造機の部品の製造・販売会社経営メ[ル・ミラーのケース)という中小企業経営者の声が載せられている。自営業者の多い茶会の活動家は、同じ問題意識を持つ経営者の立場から中小企業経営者を、トランプ大統領を支持するように誘導しようとするだろう。グローバル企業の経営者より、中小企業の経営者の方が圧涛Iに数は多いだろう。
米国は今後も信仰の自由は維持するだろう。キリスト教以外の宗教は、社会の片隅で信仰を守ることは許容される。しかし、他の宗教を米国社会の主流派には入れなくすることで、信仰の自由とキリスト教を旗頭とする領域国民国家「アメリカ合衆国」の両立を図っていくと思う。ただ、他宗教の人々がそれを受け入れるかどうかわからないが。
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