百家集会の席で席次を乱した者に抗議した書だが、
いかにも顔真卿の一徹振りを物語る。
懇々と義を説き、滋味、人間味に溢れる書だ。
字形、線質が自在に変幻し、リズムを刻みながら流れる。
王羲之が書の造形美を完成させたのに対し、
顔真卿は外形よりも内容的な、
人間性を書に盛り込むことを大成した。
この書がその典型と言われる。
さあ、いよいよ顔真卿だ。
初めて顔真卿を目の当たりにした時のときめきは忘れられない。
強烈な生命力とでも言おうか、裸と裸がぶつかり合う様な、
生々しい迫力に圧倒されたものだ。
その一方で、
ほのぼのとした優しさ、暖かさ、豊かさが泉の如く昏々と湧き上がって来る、
そんな印象だった。
そんな顔真卿が私を虜にし、書が私の人生の一部になったと言える。
千福寺多宝塔碑(752)
残されている顔真卿の書の中で最も若い時の書。
後年の顔法の完成には至っていないが、
若さの中に強さ、豊かさが見られれ、
既に非凡さを顕らかにしている。
フンフンと頷きながら書ける字だ。