蓬 窓 閑 話

「休みのない海」を改題。初心に帰れで、
10年ほど前、gooブログを始めたときのタイトル。
蓬屋をもじったもの。

『風の影』 

2017年11月24日 | 読書

『風の影』上・下 カルロス・ルイ・サフォン(木村裕美訳)


 ミステリーかと思ったが、壮大なラブ・ストーリーだった。
 まず「風の影」という小説を書いた作家の恋、その本を「忘れられた本の墓場」で見つけた古本屋の息子の恋のふたつが織り合わされて、物語が進んでいく。
 
 すばらしい文章と直喩・隠喩の上手さにもかかわらず、物語にのめりこめなかったのは、登場人物の多さと、脇役の脇役の人生までが延々と語られるせいだろう。
 面白くなり始めると、別の話が入ってくるので前の話を忘れてしまう。
 しかしそれを克服してこそ、この小説が理解されてくる。
 
 もうひとつ読みにくかった点は、登場人物のキャラクターが濃いのである。主人公はほとんどナイーブなのだが、脇役のキャラも人生も、かなり強烈である。
 以前読んだ『グノーシスの薔薇』ほどではないが、雰囲気がよく似ている。
 現ヨーロッパ風の時代小説は、こうなのか。
 ミステリーも、イギリスとアメリカでも雰囲気は違っていて、私はイギリス派である。英米のそれともまた違うのである。

 
 名文はいっぱいあるが、たとえば、

──大雨は、日暮れを待たずに歯をむきだした。
──小説に逃げ場をもとめる者にとって、自分の愛したいと思っている人たちは、知らない人間の魂に住む影でしかないからだ。
──戦争は、忘れることをえさにして大きくなっていくのですよ。
──ベアは、本を読む行為がすこしずつ、だが確実に消滅しつつあるんじゃないかと言う。読書は個人的な儀式だ、鏡を見るのとおなじで、ぼくらが本のなかに見つけるのは、すでにぼくらの内部にあるものでしかない、本を読むとき、人は自己の精神と魂を全開にする、そんな読書という宝が、日に日に稀少になっているのではないかと。


他ブログの再掲。2013年03月17日