半澤正司オープンバレエスタジオ

20歳の青年がヨーロッパでレストランで皿洗いをしながら、やがて自分はプロのバレエダンサーになりたい…!と夢を追うドラマ。

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第70話

2020-06-18 07:52:29 | webブログ

おはようございます、バレエ教師の半澤です!再開です
平日の朝は11時から、夕方は5時20分から、夜は7時から
レッスンをやっております。
土曜日は朝11時から、夕方は6時からです。
日曜日は朝10時から、昼の12時からです。どうぞ宜しく
お願い致します。

ホームページ半澤正司オープンバレエスタジオHP http://hanzanov.com/index.html
(オフィシャル ウエブサイト)

私のメールアドレスです。
rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp
http://fanblogs.jp/hanzawaballet3939/
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ルイースと写真.jpg






創業36年、本場博多のもつ鍋・水炊き専門店【博多若杉】


連絡をお待ちしてますね!

2020年12月23日(水)寝屋川市民会館にて
半澤正司オープンバレエスタジオの発表会があります。


Dream….but no more dream!
半澤オープンバレエスタジオは大人から始めた方でも、子供でも、どなたにでも
オープンなレッスンスタジオです。また、いずれヨーロッパやアメリカ、世界の
どこかでプロフェッショナルとして、踊りたい…と、夢をお持ちの方も私は、
応援させて戴きます!
また、大人の初心者の方も、まだした事がないんだけれども…と言う方も、大歓迎して
おりますので是非いらしてください。お待ち申し上げております。

スタジオ所在地は谷町4丁目の駅の6番出口を出たら、中央大通り沿いに坂を下り
、最初の信号を右折して直ぐに左折です。50メートル歩いたら右手にあります。

連絡先rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第70話
ショージが中まで入って行き、着替え中の
マエストロを上目づかいで見ると監督は上半身
裸で着替えをしながら言った。「何だ?ちゃんと
食っているか?」ショージはおずおずと「はい
マエストロ、ご飯ならちゃんと食べています…
あの…今月でバレエ団を辞めても良いですか…?」
と切り出してみた。

すると…「ワハハハ!何を言い出すかと思ったら、
誰かと喧嘩でもしたのか?ん?それとも身体の
調子が悪いのか?大体お前は痩せ過ぎだぞ!
ちゃんと食わないからだ!」と、てんで話に
ならない。

「あの…、実はそんなんじゃないんです…」
マリネル氏は「ふっ…!疲れているんだお前は!
今日はもう帰れっ!」と言われ全く理解して
もらえないまま終わった。「どうしたらいい
のか…」ショージはそのままアパートに帰ると、
ランドルが聞いて来た。「交渉は成立したのか?」
ショージは「へ…交渉?あーっ!」ランドルは
給料の交渉をしに行ったのだろうと勘違いしたのだ。
「ん~、流石は自称ビジネスマン!」

だが、暫くはランドルにもロバートにもその話の
全貌は言えなかった。話したところで誰も共感
などしてくれない事は判り切っているし、逆に
冷たくされるのも嫌だったのだ。 ショージは
ただ首を横に振るとランドルは「いや~、
失敗か…。しかしお前に先を越されるとは、
夢にも思わなかったよ…!そうか、失敗か…」
暫く考え込んで続けた。「ショージ、絶対に
俺はやって見せるさ!俺には第一、ちゃんと
説き伏せる思案がずーっと前から考えてあったん
だからな!」なるほど…。流石は自称ビジネス
マンだ。

聞いているうちにショージとロバートの給料も
彼の歩調に合わせながら上がって行くに違い
ないと確信させられそうだ。ショージは
ランドルに一つだけ助言させて貰う事にした。
「ランドル、でもね君も言われるよっ!そんな事を
言うのはお腹を空かせているからだろうって…。
ちゃんと食わないからだって…」

 ランドルは眼をギラつかせながら、「俺を甘く
見るな!アイ、アム、ビジネスマンさっ!」
ショージはランドルの自信たっぷりの横顔を
見た後、向こうに座ってテーブルに付いている
ロバートが静かに食べている。そう、ロバートは
静かにあの「ロバートの豆」を食べているのだった。

リリアーナとマリネル…2人の芸術監督の応えは…

マリネル氏の更衣室のドアーを叩いてから、
数日が過ぎた。リハーサルが無い日のレッスン後、
マエストロのマリネル氏が「ショージ、2階の
面談室に来なさい…」ショージは何か嫌な予感が
した。「何故、面談室なんだろう…?」いずれに
しても、言われるままに、「先生、分かりました…」

初めて2階に面談室などという部屋が有るのを
知ったが、綺麗なイタリア独特のインテリアで
施され大理石の床は勿論、ソファーの見事さと
大テーブルに驚いた。更に凄いのは、マリネル氏と
同様にこのレッジオエミリア・バレエ団を経営・
監督をしているリリアーナ・コージ女史までもが
いた事だ。「何故だ?どうしてリリアーナまで
ここにいるのだろう!?」
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第69話

2020-06-17 07:55:13 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第69話
ショージは日本からイギリスに留学し、そこから
イタリアに来たのだが、ヨーロッパの色々な
バレエ団を実際に自分の目で見た時、ショージが
働いているイタリアの小さな田舎町のバレエ団との
大きな違いを感じた。

スイスやドイツの殆どのバレエ団は劇場の中に
稽古場を持ち、とても華やかな環境の中でプロ
ダンサーとしての仕事内容も大変充実していると
感じたのだ。また、給料の多さにも驚いた。
ショージは彼らの半分も貰ってなかった。 

そしてバレエ団の中で働くダンサーたちの精神面
の違いにも気付かされた。ショージが働くイタリア
のバレエ団は元々、バレエ学校から始まり、その
卒業生を使ってバレエ団が出来上がったのだ。
生徒がそのままプロとして僅かな給料を貰って
働いている訳だが、ダンサーたち全員は自分達の
先生であり、監督でもあるマリネルを極端に恐れ、
監督も子供をあしらう様な態度でダンサーたちに
接した。ショージはこのような環境が好きになれ
なかった。

この頃からショージは近い将来、今のイタリアの
バレエ団を辞めてスイスかドイツの大きなバレエ団
で活躍したい、腕を更に磨けばそれに見合った報酬
が貰えるだろう…と夢見るようになった。そして
武者修行して他の有名なバレエ団の素晴らしい
ダンサーたちを見ているうちに彼らにはあって、
ショージには無い、ダンサーとしての技術や表現の
違いにも気付いた。だがその違いをどう乗り越えて
いけば良いのか見当が付かない。

そんな中、ショージはロシアにまで潜り込み、
そのダンサーたちの素晴らしさや徹底された
教育に度肝を抜かされた。当時ロシアはまだ
共産主義国であり、日本人どころか他所の国の
人々をも絶対に寄せ付けない鉄のカーテンに
包まれた国であった。
 
それでも、何とか侵入に成功してその片鱗を
束の間だけ見ることが出来た。「ああ…僕も
ロシアで勉強がしたい…」そんな想いから
ショージが北欧で仕事を見つける事さえ出来れば、
いつかまたロシアに潜り込み、勉強が出来る日も
来るに違いない…と、フィンランド国立バレエ団
でオーディションを受けたのだ。駄目で元々の
気持ちで挑戦したオーディションは、意外にも
芸術監督に気に入られ受かった。しかし難問は、
ショージがまだイタリアのバレエ団と契約中で、
辞める手続きなど執っていない事であった。

勇気を出して監督に…

リハーサル後にランドルとロバートがバレエ団の
建物を出て行くのを確認してから、芸術監督の
マリネルの更衣室へ向かった。心臓が飛び出そう
なほど緊張した。何故ならショージは彼が怖い
のだ。威厳に満ち溢れ、絶対的な権力とパワー
を持ったそんな芸術監督の前で「ちゃんと話せる
のだろうか…」心配でいっぱいだった。

取り敢えずノックをすると中からイタリア語で、
「誰だ!」ショージは上擦った声で「ソノ、イヨ…、
マエストロ!ショージ!!」(私です、先生、
ショージです!)ショージたちダンサーは芸術
監督のマリネルをマエストロと呼ぶ習慣になって
いた。「ショージだと!?何をしている。中まで
入って来い!」初めて入るマエストロの部屋
となっているドアーを開けるとそこは長い廊下に
なっており、その先はカーテンで見えない。
ショージがこのバレエ団に来て以来、このドアーを
ノックしたダンサーを見た事がなかった。皆、
監督を怖がっているからだ。
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第68話

2020-06-16 08:00:42 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
イタリアへダッシュ!怪しい豆
第68話
ロシアからフィンランド、スウェーデン、デンマーク、
ドイツ、スイスを通過してやっと懐かしいイタリアへ
と帰って来た。長かった夏休みの武者修行の後の
レッジオエミリアは新鮮に見えた。やはりイタリアは
賑やかで目に飛び込んで来る色は他のどの国よりも
ずば抜けて綺麗だ。

 アパートの中で一緒に共同生活をしている黒人
ダンサーのランドルと白人ダンサーのロバートが、
既に明日から始まるバレエ団のリハーサルのために
戻って来ているだろうと予想しながら「ハーイ!
アイムホーム!」(ただいまー!!)と声を出して
玄関に入って行った。すると案の定ロバートが
出て来てロックを外してくれたが、エプロンを着けて
いて何やら良い匂いがする。

キッチンで赤ちゃんが入れるほどの特大の鍋を
使ってロバートが料理しているのだ。「ロバート、
一体何作ってんの?」と聞くと、「豆だよ!
明日からのリハーサルでは体力が物を言うからな!
体力が最後まで残っている者が、結局は勝ちって
事さ!」ロバートは豆をかき混ぜながら言った。

「ショージ、考えてもみろよ…、仮に、仮に
だけどな?あのフランチェスコがさ、休み明けで
怪我でもしてみろよ、(フランチェスコは、
プリンシパルでバレエ団で最も格が上のダンサー)
ディレクターはさ、誰を彼の代役にするかな~?」
ショージは思わずロバートの横顔を「え…!?」
凝視した。ロバートは至って平然と味見しながら、
豆を一つ口に放り込み、「この豆はね、そう言う
夢の豆でもあるんだ…!」
 
 どちらかと言えば、ずんぐりむっくりのこの
ロバートがフランチェスコのパートを踊っている
事を想像するとショージはブルブルと武者震いが
出たが、「そう言う豆なら僕も一つ…」と手を
出すとパチンと叩かれショージが摘まんだその
豆を鍋に戻してしまった。

ロバートは、黙々と彼の怪しげな豆をかき混ぜて
いる。「ショウジはこの休みに何処で何をして
いたの?」ショージはニヤニヤと笑いながら、
ロシアからの土産を黒人ダンサーのランドルと
白人ダンサーのロバートに手渡した。二人とも
暫くバッジを見ると、目をまん丸くさせて
USSRの意味に唖然としていた。日本人に
だけでは無く、西側の何処の国の人々にとっても
ソビエト連邦には入る事は出来ないからだ。この
ショージを含めた3人は、その晩は遅くまで
ロシアのレーニングラードの話で盛り上がった。

1986年 11月上旬 胸に仕舞ってあるこの思い…

イタリアの小さな街、レッジオエミリアにある
バレエ団に初めてプロのダンサーとして 雇って
貰ってから1年半の歳月が経った。アパートには、
ショージとランドル…そしてロバート…と仲良く、
時には極度のストレスのせいの口争いなどもあったが、
それでも3人ともバレエが何より大好きで可笑しな
共同生活をした。

そんな中、ショージはバレエ団が休暇の度に
あちこちの他のバレエ団に武者修行をして周った。
自分の想像を絶する世界がある事を目の当たりにした。
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第67話

2020-06-14 07:16:37 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第67話
 運転手は「悪いけどちょっとホテルから少し
離れた場所でお金もらうからね…」と、200
メートルほど離れた路地裏でタクシーを止めて、
5ドルの他に3ドルを追加料金として請求して
来た。ショージはこのジプシーが5ドルでさえ、
ふっかけているのを知りつつも更に3ドルを
支払うとタクシーはすっ飛ばして去って行った。
 
何食わぬ顔でホテルの薄暗いガラスの自動ドアーの
中に入って行ったが内心はドキドキだった。
たくさんの監視官や軍服を着てマシンガンを
腕に挟んだ兵士の間を縫うように歩いた。非常に
厳しい顔をした女性がロビーで受付をしている。
「私の部屋番号は604です、鍵をください…」
部屋の鍵を尋ねると「さっき渡したでしょう…」
とにべもない。  ショージは「あっ、そうで
したね…」と答えておいたが、多分、あの酔っ払いの
フィンランド人の男が先に部屋へ帰ったのだろう。

ショージはエレベーターの中に入った瞬間に
ロビーの人々がショージの事を不審に思って
いないかどうかを目視でさっと確認した。
エレベーターのドアーが閉まる5秒ほどの時間が
なんと長く感じた事か。

ロミオとジュリエット…感動の舞台!!

まだ時間にはゆとりがある事から、ショージは
再びホテルを忍び出た。そして路面電車に乗った。
今度はしっかりとホテルの場所を書いた案内や
レニングラードの地図などを持って出たので心強い。
劇場に着いて直ぐに今宵催される「ロミオとジュリ
エット」のチケットを買いに行くと、数枚かしか
残っていない内の一枚を手に入れる事が出来た。
「ラッキーだ!」

ロシア人ダンサーだけによる舞台を見てダンサー
たちの素晴らしい技術に目を見張った。芝居の
表現力や演出は特筆すべきものがあった。しかし
最も驚いたのはその振り付けから客に訴え掛ける
その力強さだ。ショージは唸ってしまうほどに
見入った。1幕後の休憩が終わると2幕が始まった。
目の前で催されている舞台に完全に魅了され、
気がつけば頬が涙でグショグショになっていた。

このダンサーたちの無言の表現から感じたものは
「我々はロシア国民の希望と夢をしっかりとこの
胸に刻んでいる!今を必死に生きている…そして
これからもまた力を振り絞って生きて行くのだ!」
と強いメッセージがこの悲劇のバレエから観客に
訴え掛けて来る本当に素晴らしい作品であった。
幕が閉まっても暫くの間は動く気にもなれないほど
ショージは打ちのめされた。

そして帰りがけにショージは固く決心した。「いつか
絶対にこの素晴らしい芸術の国で勉強をしたい…!
必ず僕はまた来る!」と。それほどまでに魅力ある
舞台だったのだ。こうしてレニングラードを一週間
ほど体験した訳だが、最終日にガイドが「今回の
ツアープランのコースには含まれていないけれど、
私とあなた二人でバレエ学校を見に連れて行って
あげましょう。中には入れないと思うけれど…」
と誘ってくれた。ショージは喜んでガイドと一緒に
出掛けた。

バスに乗り込むウォッカツアーの男たちは飲み過ぎて
更にやつれた顔をしていたが、その彼らもお土産を
買うのを忘れてはいない。これでもか!と言うほどの
ウォッカボトルを胸に抱えていた。ショージは
その男たちの滑稽な姿に大笑いした。

こうしてショージは無事にフィンランドへと帰って
来て、バスの中では余計な事を喋らずにガイドに
顔の表情だけでお礼を伝えた。するとガイドも
ニッコリ笑いながら無言の笑顔の中に言葉を見出した。
「良かったわね…思いが遂げられて…」
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第66話

2020-06-13 08:05:35 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
モスコウスキーバレエ団(モスクワ国立バレエ団)
第66話
キーロフ劇場と道一本を挟んだ反対側の劇場…。
ここの関係者入り口には誰も立っていなかった。
ハラハラしながら中へと進んだ。何食わぬ顔を
装いながら廊下で門衛らしき人物にすれ違う
瞬間に例の呪文「ズドラストブツィエ…」を。
「…?」相手は不思議そうにショージを見ていたが
ショージはさも当然であるが如く中へ進み舞台
付近にダンサーたちを発見した。

「やっぱりこれからレッスンがあるんだ!」
ショージは急いで近くのトイレでレオタードに
着替えた。自分がダンサーなのだという主張を
するにはこの姿が一番だからである。

 早速舞台に上がって、そこでウォーミングアップ
をしている女性ダンサーにロシア語で話しかけてみた。
バスの中で習った、「どこ?」と言う単語に
「ディレクター」を付けただけであるが。すると、
女性ダンサーは「こっちよ…」とショージを
ディレクターのいる部屋へ連れて行ってくれた。
丁度ディレクターは部屋から出て来たところで
ショージは英語で捲くし立てた。

「私は日本人です!イタリアで仕事をしていますが
このロシアで勉強したくてやって来ました!是非
レッスンを受けさせてください!」 ディレクターは
しばらく呆然とショージを見た。多分英語は通じて
いないのかもしれなかったが、ニッコリと笑い何か
ロシア語で言った。ショージはそれを「どうぞ、
存分にやってください…」と言っているように
勝手に解釈した。舞台に戻るとプリエが始まって
いた。空いてる場所にツツツ…と割って入りレッスン
第一号の開始だ。舞台の一番前に老婦人が椅子に
腰掛けて指導しているが椅子から立ち上がる事は
無く、淡々と言葉のみをダンサーたちに伝えた。
エクササイズを説明しているのであろうがショージ
にはチンプンカンプンだ。

隣の女の子に小声で「あれ、誰?」とロシア語で
聞くと、一言、「ドジンスカヤ!」と言った。「え?
ドジンスカヤってあの有名な?うへーっ!天下の
ドジンスカヤのレッスンを受けちゃってんの!?
すんげ~!凄い人数のダンサーたちに挟まって、
いきなり舞台上でレッスン出来るなんて幸せだな…」
そしてレッスンが終わって劇場を出た。「えーと…
あれっ?どうやったらホテルに帰れるんだ…?」

タクシーを待つ人々の列から100メートルほど
離れた場所に立つと不思議に目の前にタクシーが
止まった。「あれ?どうしてかな?」左ハンドルの
運転手は助手席の既に開いている窓から身を乗り出し
低い声で、「ドルか?ドル払い出来るのか?」
ショージは人々が並んでいる列を見るとその
たくさんの人々がショージの方をを凝視している。
 ショージは意を決して「そうだ…ドル払いだ!
ホテルへ帰るけど幾らか?」運転手は「5ドル!」
と言った。多分レニングラードの現状では5ドル
と言うのはべらぼうな料金なのであろうが、英語を
少し話せるこの色黒のジプシー風な運転手にショージは
賭けてみた。

 タクシーに素早く乗り込むと、並んでタクシーを
待っている人々がショージの目に入った。ぼやいて
いる人や明らかに怒りの形相を表している人もいた。
「なんだ!あのアジア人はドル払いをしたのか…!」
とどの顔にも諦めた表情がショージの乗ったタクシーの
窓の外を流れて行く。

 運転手から「何処のホテル?」と聞かれてドキリと
した。「実は分から無くなってしまったのだけど…」
とショージが言うと、運転手は「はあ?」暫く走り
続けて「ここじゃない?」「あ、ここだ!やった、
着いたっ!なんで、どうやってこのジプシー運転手は
分かったんだろう!?」
(つづく)