時々、無性に銭湯に行きたくなる時がある。
そう、今も。
幼い頃、我が家には風呂はなかった。
なので、風呂はもっぱら銭湯だった。
最寄の銭湯までは、歩いて7~8分くらいだった・・と思う。
当時、毎日銭湯に行ってただろうか・・・と思い、回想してみたのだが、そのへんの記憶があいまいだ。
ただ、自宅に風呂を設置する工事をしてる時、私は親に
「家に風呂ができたら、毎日入るんだ!」
と嬉しそうに語ってたらしいので、銭湯には毎日は行ってなかったのだろう、きっと。
考えてみれば、自宅に風呂があれば、自分で沸かしさえすればいつでも入れる。
銭湯に行く手間も、帰る手間も省ける。
入れる時間帯も、家族の都合で決められる。
見たいテレビ番組(たいがいアニメだった)がある時などは、サッと入ってすぐに出ることも可能で、風呂に入ってたおかげで見たい番組を見損なった・・とか、見たい番組はすでに始まっていた・・なんてことも防げる。
便利なこと、このうえない。
今でこそ自宅に風呂があるのが当たり前になってしまって、自分の都合で風呂に入れるというありがたみがマヒしてるような気もするが、自宅に風呂ができた時は、そのありがたみを実感した・・・と思う。
だが・・自宅に風呂があるのが当たり前のようになってしまってる今、妙に銭湯が恋しくなることがある。
下駄箱に靴を入れる時、お気に入りの野球選手やアニメヒーローにちなんだ番号のゲタ箱を選んだり。
番台の人に金を払う時に、女湯がチラッと覗けそうでドキドキしたり。
広い脱衣所で、時には縁側にあったトイレに行ってから脱衣所に戻って、そそくさと服を脱ぎ。
風呂場に入れば、入り口近くに水(お湯)の流れる「小さな川」のような水路。
入り口の脇には、積み上げられた桶。
風呂場はやたらと広い。
浴槽の後ろの壁には富士山の壁絵。海とも湖ともつかぬものも描かれており、そこには時代錯誤な帆掛け船も描かれ。
浴槽に入ると、どこからともなくジェットみたいなものが噴射(?)され、お湯が絶えずボコボコいっている。
熱い湯の浴槽と、普通の温度の湯の浴槽が分かれている。
浴槽からあがって、洗い場に座れば、横長の鏡は何人分もの鏡になっている。
時々、得たいの知れない入浴客、怖そうな入浴客もいた。
そういや子供の頃は、髪の毛を洗うのが怖かった(笑)。
男湯と女湯を隔てる壁はあるのだが、その壁は天井までは続いていない。
なので、壁をへだてて、女湯の声や音が聞こえてきた。
天井は木造で、高かった。
やがて風呂を出て脱衣所に戻った時のヒンヤリ感は、湯でほてった体に心地よかった。
おもむろに冷蔵庫(?)から飲み物を取り出して、一気飲み。
もちろん、それは有料。
飲むのは、牛乳か、コーヒー牛乳か、フルーツ牛乳。パンピーなんていうのもあったような。
それを一気飲みする時は、右手でビンを持ち、左手はなぜか左腰に当てて、ポーズをとるような格好で飲んだっけ。
ふと見上げれば、高い天井には、むきだしの大きなプロペラが回っていた。
それは、銭湯ならではの、大型扇風機であった。
そよそよと風を脱衣場に送っていた。
風呂上りでは、縁側にでて、小さな池や、石の置物などを見ながら夕涼みするのも気持ちよかった。
銭湯には、そんな記憶がある。
時々、ぞれらの光景が無性に恋しくなるのだ。
それは・・・どれも自宅の風呂では望むべくもない光景・環境ばかりだからね。
思えば・・銭湯は次々と無くなっており、その代わりスーパー銭湯みたいなものはけっこう話題になったりする。
もちろん、スーパー銭湯も、楽しいことは楽しい。
でも、昔ながらの庶民的な銭湯が無性に恋しく、入りにいきたくなることがある。
スーパー銭湯はアトラクションスペースみたいな感覚があるが、昔ながらの銭湯は生活に根付いたものであり、町内のちょっとした社交場みたいな側面もあった。
銭湯が減った原因はいくつもあると思う。
家庭に風呂がある家が増えていったというのが一番大きな理由であろうが、入浴料・・・値段という理由もあったように思う。
今、いくらぐらいするのかなあ。
まあ、維持費も馬鹿にならないだろうし、仕方ないのかもね。
昔ながらの銭湯はだいぶ減ってしまったとは思うが、まだ残っている銭湯には、ぜひ頑張っていってもらいたい。
あの壁絵文化と共に。
家の近くにあれば、もっと行ってるかもなあ。
でも、家に風呂がなくて、風呂はもっぱら銭湯・・ということになると、仕事で忙しい時などは、行くのが面倒くさくなったり、行けなかったりすることも多くなるのだろうな。
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