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気ままな雑記帳です。話題はあれこれ&あっちこっち、空を飛びます。別ブログ「時代屋小歌(音楽編)(旅編)」も、よろしく。

「フォトガラ屋 彦馬」   by 三山のぼる&壮野睦

2010年03月24日 | 漫画・アニメ、そして特撮

「フォトガラ屋 彦馬」。

脚本、壮野睦さん。
作画、三山のぼるさん。


幕末の写真家・上野彦馬を主人公として描いたコミックである。

もう、大好きな作品。


上野彦馬は、日本初のプロカメラマンとして知られ、今も残される幕末の写真集などでは、彦馬の撮影した写真が数多く紹介されている。
幕末の写真を見たことがある人は、ほとんどの人が、彦馬の撮った写真を見たことがあるであろう。

坂本龍馬の写真を見たことがある人。その写真は、彦馬が撮ったものだ。
(ただし、あの有名な立像写真は、彦馬の弟子が撮ったという説も有力。)
また、高杉晋作の写真、桂小五郎などの写真も、そうだ。


以前私は、亀山社中を見に長崎に旅したことがある。
その時、丘の上の龍馬像まで行った時、その龍馬像のすぐ近くに上野彦馬の墓があって、びっくりした覚えがある。
龍馬と彦馬・・なにやら名前も似ているが、その関係もすごく近しいものであったようだ。

じゃなかったら、あんなに何枚も龍馬の写真は残っていないだろう。

当時の写真は一枚撮るだけでもけっこう時間がかかったはず。
撮る前や、撮ってる最中に会話もあったはず。

ましてや、彦馬の写真館のあった長崎は、龍馬の亀山社中の拠点だった。

彦馬の写真館には龍馬は何度も通っただろう。

長崎の町を歩いてて、町の中で竜馬と彦馬がバッタリ出くわすこともあったかもしれない。
で、他愛ない会話をすることもあったりしたかもしれない。

さらにいえば、名前まで似ている。

龍馬と彦馬が近しい関係ではなかった・・と思うことのほうが難しい。
むしろ親しかったと考えるほうが自然。


彦馬が開業した、長崎の写真館。

それがあったからこそ、そこに彼がいたからこそ、龍馬や高杉晋作をはじめ、幕末の人物の写真を我々は今も見ることができるのだ。

もちろん、彦馬以外にも写真家は当時もいたし、外国人の写真家が残した写真も多い(特にベアトなどは有名だろう)。

だが、上野彦馬が日本人の写真家として、写真技術という点だけでなく、資料的にも歴史的にも、大いにその後の日本に貢献した人物であるのは間違いない。

そんな彦馬を主人公として選ぶなんて、なんて素敵な着眼点!


彦馬の残した写真を見ても、後に幕末・維新の主要人物として名を残した多数の有名人と彦馬がつきあいが・・少なくても関わりがあったことは明らか。

写真家の視点で見た、幕末・維新の多数の人物のドラマが、この漫画には描かれている。
彦馬自身は歴史を動かしたり変えたりしたわけではないが、歴史を動かしたり幕末維新の時代に輝いた人物を、写真家の視点で見た・・という点が、このコミックの面白いところであり、独自性である。

被写体となった人物を見る彦馬の目は、優しい。また、愛情もある。そこが、この作品を良質のものにしている。
実際の彦馬も、そうであったことだろう。
だからこそ、あの時代の著名人は、こぞって彦馬に写真を撮らせたのだろう。
人に嫌われる人物だったら、あれほど写真は残せなかっただろう。

なにせ、写真というものに対する誤解も、あの時代にはあったはずだから。
例えば「写真を撮られると、魂を抜かれる」みたいな迷信など。



作品内には坂本龍馬をはじめ、お龍、高杉晋作、桂小五郎、勝海舟、徳川慶喜、伊藤博文、近藤勇、その他、きら星のごとき有名人が登場する。

その他にも、沖田総司、西郷隆盛、岡田以蔵などのように、写真が残されていない人物も出てくる。
そのへんは、写真家としてのかかわり方として、非常に面白く描かれている。
もちろん、写真が残っていない人物と彦馬がかかわりがあったかどうかは今となっては分からない。なかったのかもしれないし、本当はあった可能性だってある。

また、上で名前を挙げた人物には、彦馬以外の写真家が写真を撮った人物もいる。
だからといって、それらの人物と彦馬の関わりがなかったと言い切れない。
そんな点を、このコミックはうまく突いている。


写真が残されていない人物は、もしかしたら、こういう事情で写真が残されていないのかな・・などと想像しながら読むと実に楽しい。
残されていないのは、それなりのドラマがあったからなのだ・・・と思って。


もしかしたら・・
龍馬と妻・お龍のツーショット写真、龍馬に恋焦がれた千葉佐那の写真、西郷どんの写真、沖田総司の写真、岡田以蔵の写真は本当は撮られていたのかもしれない、でも、こういうドラマがあったからそれらの写真は公開されないまま、歴史の影に埋もれていったのかもしれない。

ということは、何かの拍子に、隠されてたそれらの写真が発見されたり、公開されたりする日が来るのかもしれない。

なにやら、そう思いたくもなってくる。


普通プロのカメラマンに写真を撮ってもらう場合は、撮られる人がカメラマンにお金を払う。

だが、プロのカメラマンが自ら金を支払ってでも写真を撮りたくなるような人物・・・そんな人物が、あの時代には数多く存在し、このコミックに次々と登場し、彦馬と関わった。
ああいう時代に生きて、ああいう人物たちの写真を撮ることができて、カメラマンとして彦馬は幸せ者だったかもしれない。

日本史上まれにみる激動の時代に、歴史を動かしたり彩ったりした、個性的で優れた人物が次々と現れ、そういう人たちを後世に残すことができたのだから。

たびたびドラマ化されたり映画化されたり、漫画化されたり、小説で描かれる、あの時代の人物たちの実像を写真で見ることができる我々は、彦馬に感謝しなければいけないのかもしれない。




私は、このコミックを映像化してほしい・・・と、ず~~っと思ってきた。

今からでも遅くは無い。どこかで、映像化してもらえないものだろうか。


09年に「JIN ~仁~」というコミックがドラマ化され、大ヒットしたのは記憶に新しい。

この「フォトガラ屋彦馬」も、「JIN」に負けないほど面白いドラマになる可能性をひめていると思う。

この作品は、激動の幕末・維新の時代を生きた熱き男たちの、青春群像編でもある。



「JIN」は、21世紀の医者が幕末にタイムスリップして、当時の人たちと関わった。
そこに、医者ならではのヒューマンドラマが生まれた。

「彦馬」は、幕末・維新の時代の景色や人物を、タイムカプセルのように未来に残した。
で、それらの写真には、一枚一枚に、熱いドラマが隠されている。


ある意味それは、彦馬が幕末・維新の人物を連れて、現代にタイムスリップして来たようなものなのかもしれない。「JIN」とは逆に。





三山先生の画風は、非常にさわやかである。
読んでて、実に心地よい画風である。
そんな点も、魅力的なのだ。

この作品は、単行本でたったの2巻しかない。一応2巻で完結している。
だが・・
もっともっと続けて欲しかった作品だし、続きがもっともっと読みたかった作品だ。

もう今となっては、それを望むべくも無い・・というのが、本当に残念でならない。


もしもドラマ化したら、彦馬の残した写真をもっと他にも検証して、更なるドラマを生み出すことも可能かもしれない。
彦馬は、もっと他にも幕末維新の人物の写真を残しているから。


「フォトガラ屋 彦馬」。
脚本・壮野睦さん、作画・故・三山のぼるさんの、名作コミック。
もっともっと広く読まれてほしい。
面白さ、保証します。

読後、さわやかさと切なさと共に、当時の人物の心意気や熱さ、作品の根底にある明るさや暖かさが読者を魅了することでしょう。

個人的には、彦馬を主人公にして描いてくれた壮野睦さんと三山のぼるさんには感謝しています。


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