朝、下階のリフォームの騒音にたたき起こされて、スマホを見ると着信が。
愚弟からかと相手の電話番号を見ると、ホームからでした。
直ぐにホームに電話をすると、「昨夜遅く、血尿と共に腹痛を訴えて救急搬送された」と言います。
ゲッ!
施設に移ってよかったのか悪かったのか。
その上、区役所の手続きで保険証は愚弟の手元に。
よって愚弟が深夜、搬送先の病院へ保険証を届けに行ったそうです。
ふむ。
蟷螂にはできない芸当です。
あっちの親子の絆は固かった。
こっちだって親父との親子の絆は固い。
親父は73歳で死んでしまったけれど、遺影は毎場所テレビ桟敷へご案内し、初日と千秋楽には発泡酒か合成酒を供えています。
「親父の73歳までもう3年、こっちは無理かもしれない」
と電話で言ったら「あれ、76歳じゃなかったっけ?」です。
親父との愚弟の絆は薄かった。
いずれにしても、親父が分骨されている熱海を、骨が埋まったまま売ると言った愚弟への、あの世の親父からの最終通告でしょう。
蟷螂は断固として売却に反対するつもりです。
50年前、元ガラス屋のシゲちゃんと一緒に植えた桜が大木に育った熱海の家の庭のカドで、風に揺れるコブシの花の咲く木の根元に埋めるように家族に命じた親父。
遺言ひとつ残さず急死したのですから、「コブシの木の下に埋めろ」という言葉が唯一無二の遺言なのです。
愚母に遺した1.6億は、親父の墓守代だったのです。
ところが愚母は親父が急死すると、熱海に移してあった住民票をさっさと浅草に戻し、一度も行こうとしません。
「薄気味悪くて」
だそうです。
元ガラス屋のシゲちゃんと埋めた、分骨した親父がいるからでしょう。
蟷螂が熱海へ行った時、激しい雷雨に見舞われたことがありました。
「怒ってる怒ってる」
雷鳴を聴きながら、蟷螂は心の中に親父を意識しました。
その熱海を売る?
バカなこと言っちゃいかん。
「テレワークで案外いい値で売れるかもしれない」
「彼らはフットワークが軽いから、土地なんか買わないよ」
愚弟は不満そうでしたが、そこで今回の血尿です。
親父の逆鱗に触れたのでしょう。
高齢者の止まらない血尿は良く無い兆候です。
愚弟には「膀胱炎、昔っから起こしていたから」と慰めてやりましたが、腫瘍の可能性大です。
シャトーブリアンの食べ過ぎかもしれません。
しかし愚弟はもし腎臓がんだったら、自分の片方の腎臓をくれてやる勢いで、怖い。
サイコ、恐るべし。