本日の多施設ジャーナルクラブは、当院救急シニア1年目の小森谷先生がCOVID-19の急性呼吸不全に対してNIVは有効か[RECOVERY-RS Trial; JAMA 2022;327(6):546-58] について発表してくれました。
COVID-19に対して様々な治療を評価してきた英国の臨床研究シリーズですが、 医療資源が限られた中で侵襲性人工呼吸を減らすためにNIV(CPAPやHFNO)が 果たして有効な代替手段となりうるかどうかを調べた研究です。
これまで、重症COVID-19に対する酸素療法から侵襲性人工呼吸に至るまでの 中間的な役割を担ってきたNIVに関するエビデンスは弱く、国内外でも使用が 割れる治療でした。
本研究では、英国とジャージー(国のようです)の急性期48病院において、
P: 急性低酸素性呼吸不全(FiO2≧0.4かつSpO2≦94%)をきたしているCOVID-19
確定もしくは疑いの成人(18歳以上)入院患者
I: CPAPもしくはHFNO
C: 従来の酸素療法
O: 無作為化後30日以内の複合アウトカム(気管挿管もしくは死亡)
について、並行群間、非盲検、アダプティブ、3群間無作為化比較試験がされました。
研究は、複合転帰を15%、有意差を出すために最低3000名(余裕を持って4002名) の研究参加を見込んで2020年4月から開始しました。
結果は、目標症例数に達する前に患者数が減少し21年5月に打ち切りとなり、 13名の除外患者を除く1273名(CPAP:380名、HFNO:418名、酸素療法:475名)で 解析されました。
患者の平均年齢は57.4歳、男性が66.3%、白人が65.3%でFiO2中央値は0.6、発症から無作為化までの中央値は9日、CPAPの平均8.3cmH2O、HFNO52.4L、腹臥位実施率はCPAP(63.3%)、HFNO(71.3%)、酸素療法(67.4%)でした。
気管挿管直前の酸素化は、CPAP群でFiO2 0.8(0.65-0.98)、P/F89(69.5-111)、 HFNO群でFiO2 0.9(0.7-0.99)、P/F75(60-98.1)、酸素療法群でFiO2 0.9(0.8-0.98)、P/F76(60-98)でした。
30日以内の気管挿管と死亡を複合アウトカムとしたプライマリーアウトカムは、
以下に示すようにCPAP群で酸素療法群と比較し有意に改善したのに対して
HFNO群では有意差を認めませんでした。
- CPAP 36.3% vs 酸素療法 44.4% (P=0.03)
- HFNO 44.3% vs 酸素療法 45.1% (P=0.83)
CPAP群と酸素療法群を比較したセカンダリーアウトカムは、以下へお示しするように気管挿管とICU入室はCPAP群で有意に減少し、気管挿管までの時間はCPAP群で有意に延長しました
- 30日以内の気管挿管: CPAP 33.4% vs 酸素療法 41.3% [OR:0.71 (0.53-0.96)]
- ICU入室: CPAP 55.4% vs 酸素療法 62.9% [OR 0.73(0.54-0.99)]
- 気管挿管までの時間: CPAP 2日(1-4) vs 酸素療法 1日(0-4)
HFNO群と酸素療法群を比較したセカンダリーアウトカムはいずれも有意差を認めませんでした。
クロスオーバーの結果が与えるバイアスを補正する逆確率加重を用いた二次探索的分析では、CPAP群でプライマリーアウトカム(30日以内の気管挿管あるいは死亡)が有意に減少しました。
重篤な有害事象はCPAP群で7名(うち4名が介入を必要)、酸素療法群で1名でした。
Discussionでは、プライマリーアウトカムがCPAP群で有意に減少した理由が主に気管挿管の減少に伴うものだったこと(死亡は変わらない)、HFNO群で有意差が出なかった理由として検出力不足の可能性が指摘されました。
今回の研究で気管挿管を行う判断やタイミングについて標準化されていなかったことも問題点として挙げられていました。
その一方で、ヘルメット型NIVを用いたイタリアのHENIVOT Trial(n=109)やHFNOを用いたコロンビアのHiFLO-Covid Trial(n=220)では、いずれも気管挿管を有意に減らし臨床予後も改善しましたが、逆にプロトコル化されているが故にグローバルでの標準化は難しい可能性も挙げられていました。
今回の研究では、COVID-19による急性低酸素性呼吸不全の初期治療として、CPAPは酸素療法よりも30日以内の気管挿管や死亡を有意に減少させた一方、HFNOはいずれも有意差を認めなかったが、サンプルサイズの不足を始め各群間でのクロスオーバーを勘案する必要があるという結論でした。
内的妥当性では、マスキングがされていない、研究の早期中止とサンプル数不足が問題点として挙げられました。
外的妥当性では、アジア人種の参加が少ない(<20%)、気管挿管の閾値が高い(FiO2 0.8-0.9)、対象が若く(平均年齢56-7歳)、健常だった患者が多い(Frailty scale 1-3が90%以上)という点が問題点としてあがりました。
私見となりますが、CPAPを行いながら腹臥位が果たして可能なのかどうか?経管栄養との両立が可能なのかどうか?また、国内ではHFNOに比較してCPAP使用が極めて少なく(21.5% vs 1.5%)、気管挿管までの時間が極めて遅く予後も改善しないことからそのような診療が許容されるのかということが疑問視され、当科は現時点でCOVID-19の初期診療に対するCPAPの積極的な使用は行わないという結論に至りました。
今回、発表した小森谷先生は英検1級を持つ帰国子女のイケメンで、大学時代はアイスホッケーをしていたスポーツマンです。一見、近寄りがたい雰囲気を感じさせますが 実はゆるキャラで同僚からは“こもりん”と呼ばれて愛されています。
ぜひ、これからも応援してあげてください。