Bokutoh ICU Blog

墨東病院集中治療科の日々の活動を広めていきます

多施設ジャーナルクラブ 2023年9月

2023-09-13 21:21:19 | 日記

3ヶ月に一度当番がやってくるJSEPTIC多施設ジャーナルクラブ、昨日は当院救急科伊達先生が発表してくれました。

 

今回のお題は、“Mild Hypercapniaは院外心停止蘇生後患者の神経学的予後を改善するか?” で、

今年の7月にNEJMへ発表されたTAME trialです(N Engl J Med 2023;389:45-57)

 

院外心停止蘇生後の患者予後は悪く、特に低酸素脳症による神経学的予後不良をいかに減らすことができるかが課題となっています。

 

国際ガイドライン(Intensive Care Med 2021;47:369-421, Circulation 2020;142:S366-468)では、心肺停止後のPaCO2を35~45mmHgに

コントロールすることが推奨されていますが、先行研究からはPaCO2を高め(mild hypercapnia)にコントロールすると脳還流量を増加させ、

二次性脳損傷の抑制から患者予後を改善させることが期待されています。

 

そこで、Mild hypercapniaは院外心停止蘇生後患者の6ヶ月神経学的予後を改善させるかを臨床疑問としてあげたのが、今回のTAME trialです。

 

本論文のPICOは、

P:院外心停止蘇生後の昏睡患者

I: Mild Hypercapnia(PaCO2 50~55mmHg)

C: Normocapnia (PaCO2 35~45mmHg)

O: 6ヶ月後の神経学的予後:GOSEで良好(5~8)

 

で、世界17カ国、63施設のICUで2018年3月~2021年9月に行われた国際共同多施設非盲検無作為化試験です。

 

院外心停止蘇生後の昏睡患者に対して、上記の介入を24時間行い、無作為化から96時間以降神経学的予後評価を行いました。

 

主要アウトカムは6ヶ月後のGOSEが5~8、二次アウトカムは修正Rankin scale scoreが4~6、EuroQol-5D-5Lでそれぞれ評価しました。

 

結果は、5779名の組み入れ患者のうち、1700名が両群に割付けられ、最終的にMild hypercapnia(介入)群764名とNormocapnia(対照)群784名が

解析されました。

 

主要アウトカムである6ヶ月後のGOSE5~8だった割合は、Mild hypercapnia群 vs Normocapnia群 = 43.5% vs 44.6%

[OR 0.98 (95% CI 0.87-1.11), p=0.76]で両群に有意差を認めませんでした。

 

二次アウトカムでは、6ヶ月後の修正Rankin Scale score、ICU入室中あるいは6ヶ月胃内の死亡率でいずれも両群に有意差を認めず、

またサブグループ解析、有害事象も同様に全ての項目に両群間での有意差は認めませんでした。

 

この結果を基に、筆者らは“院外心停止患者の昏睡患者に対するMild Hypercapniaは、
Normocapniaと比較し6ヵ月後の神経学的予後改善へ繋がらなかった”と結論づけました。

 

本研究では内的妥当性に大きな問題はなかったものの、日本人を含むアジア系人種の対象が殆どいないことから、外的妥当性については

当てはまらない可能性が考えられる研究でした。

 

また、今回の介入が24時間と短かった可能性をはじめ、Mild HypercapniaとしてPaCO2 50~55mmHgが選択されたがそれよりも高い設定

だった場合はどうなるか、さらに院外ではなく院内心停止蘇生後を対象とした場合にどうなるか、といった新たな臨床疑問を生む興味深い

研究でした。

 

今回、発表してくれた伊達先生は救急科シニア1年目のフェローで、4ヶ月にわたる集中治療科ローテーション中に自主的に今回の発表を

手上げしてくれました。

 

普段は寡黙で穏やかですが、内に秘める闘志は熱く、とてもストイックで優秀な先生であり、将来がとても楽しみです。

 

発表お疲れ様でした。

 


ローテーターの声 #6

2023-09-05 14:51:24 | 日記

飯塚です。

今年もとてつもない猛暑のため、当院含め日本全国で熱中症の方が連日受診されているようです。

今回はそんな真夏にローテしてくれた鈴木先生からのコメントです!


8月1か月間ICUをローテートさせていただき、大変お世話になりました。毎日が充実していてあっという間に感じました。
私は外科を志望しているため、周術期管理、特に循環動態の考え方、by systemに沿ったアセスメントの方法について学習したいと思い、ICUローテを希望しました。当初抱いていた目標はおおむね達成できたのではないかと思います。
個人的に最も良い経験だったのが心エコーです。ICUでは意識的に心エコーを行うことを心掛け、COの測定方法だけでなく、心エコーに対する苦手意識が改善しました。また、フェローの先生方はじめ上級医の先生方が質問に対し丁寧にご指導してくださり、朝カンファでは自分では全く考えが及ばなかった点に関してご指摘くださり非常に勉強になりました。他診療科ではなかった、多職種カンファでは朝のうちに情報を共有することで、一日の動きがスムーズになるだけでなく患者の早期回復につながると感じました。さらに、隙間時間を利用して先生方にレクチャーをしていただき、輸液管理、抗菌薬の適正使用、PONV、輸血管理などを勉強させていただきました。
有意義な研修をさせていただき、誠にありがとうございました。ICUで学んだことを生かせるように復習を頑張ります!


鈴木先生は外科志望なだけあり、日々の疑問点をこちらの目をみて真っ直ぐに聞いてきてくれました。

自分たちもレクチャーしているうちに理解があやふやな点を再確認させられ、貴重なアウトプットの機会になりました。

驚かされたのは、月末の症例ベースでのプレゼンクオリティでした。作り込み方がとんでもなく、スタッフクラスからも感嘆の声が挙がるほどでした。あれを初期研修医で作れるなんて信じられません。

あまりの素晴らしさに「寝る間を惜しんで作業したのだろう」クオリティに感じましたが、この表現は働き方改革目線では好ましくないですね。

おそらく彼女らしく効率良くテキパキと作ってくれたのでしょう。部門の勉強会に留めるには惜しい内容でした。

来月からは地域医療研修との話でしばらくは院外研修になりますが、またパワーアップして帰ってきてくれることが楽しみです。

鈴木先生、1ヶ月間お疲れ様でした!