3ヶ月に一度当番がやってくるJSEPTIC多施設ジャーナルクラブ、昨日は当院救急科伊達先生が発表してくれました。
今回のお題は、“Mild Hypercapniaは院外心停止蘇生後患者の神経学的予後を改善するか?” で、
今年の7月にNEJMへ発表されたTAME trialです(N Engl J Med 2023;389:45-57)
院外心停止蘇生後の患者予後は悪く、特に低酸素脳症による神経学的予後不良をいかに減らすことができるかが課題となっています。
国際ガイドライン(Intensive Care Med 2021;47:369-421, Circulation 2020;142:S366-468)では、心肺停止後のPaCO2を35~45mmHgに
コントロールすることが推奨されていますが、先行研究からはPaCO2を高め(mild hypercapnia)にコントロールすると脳還流量を増加させ、
二次性脳損傷の抑制から患者予後を改善させることが期待されています。
そこで、Mild hypercapniaは院外心停止蘇生後患者の6ヶ月神経学的予後を改善させるかを臨床疑問としてあげたのが、今回のTAME trialです。
本論文のPICOは、
P:院外心停止蘇生後の昏睡患者
I: Mild Hypercapnia(PaCO2 50~55mmHg)
C: Normocapnia (PaCO2 35~45mmHg)
O: 6ヶ月後の神経学的予後:GOSEで良好(5~8)
で、世界17カ国、63施設のICUで2018年3月~2021年9月に行われた国際共同多施設非盲検無作為化試験です。
院外心停止蘇生後の昏睡患者に対して、上記の介入を24時間行い、無作為化から96時間以降神経学的予後評価を行いました。
主要アウトカムは6ヶ月後のGOSEが5~8、二次アウトカムは修正Rankin scale scoreが4~6、EuroQol-5D-5Lでそれぞれ評価しました。
結果は、5779名の組み入れ患者のうち、1700名が両群に割付けられ、最終的にMild hypercapnia(介入)群764名とNormocapnia(対照)群784名が
解析されました。
主要アウトカムである6ヶ月後のGOSE5~8だった割合は、Mild hypercapnia群 vs Normocapnia群 = 43.5% vs 44.6%
[OR 0.98 (95% CI 0.87-1.11), p=0.76]で両群に有意差を認めませんでした。
二次アウトカムでは、6ヶ月後の修正Rankin Scale score、ICU入室中あるいは6ヶ月胃内の死亡率でいずれも両群に有意差を認めず、
またサブグループ解析、有害事象も同様に全ての項目に両群間での有意差は認めませんでした。
この結果を基に、筆者らは“院外心停止患者の昏睡患者に対するMild Hypercapniaは、
Normocapniaと比較し6ヵ月後の神経学的予後改善へ繋がらなかった”と結論づけました。
本研究では内的妥当性に大きな問題はなかったものの、日本人を含むアジア系人種の対象が殆どいないことから、外的妥当性については
当てはまらない可能性が考えられる研究でした。
また、今回の介入が24時間と短かった可能性をはじめ、Mild HypercapniaとしてPaCO2 50~55mmHgが選択されたがそれよりも高い設定
だった場合はどうなるか、さらに院外ではなく院内心停止蘇生後を対象とした場合にどうなるか、といった新たな臨床疑問を生む興味深い
研究でした。
今回、発表してくれた伊達先生は救急科シニア1年目のフェローで、4ヶ月にわたる集中治療科ローテーション中に自主的に今回の発表を
手上げしてくれました。
普段は寡黙で穏やかですが、内に秘める闘志は熱く、とてもストイックで優秀な先生であり、将来がとても楽しみです。
発表お疲れ様でした。