Bokutoh ICU Blog

墨東病院集中治療科の日々の活動を広めていきます

【JC】集中治療室における終末期および緩和ケアに関する欧州集中治療学会ガイドライン

2024-12-12 21:56:39 | 日記

初投稿です。集中治療科三井です。


全国約30施設で行われているJSEPTIC多施設ジャーナルクラブ、今回は当院救急科シニアレジデント1年目の津田先生と集中治療科フェロー吉村先生が発表してくれました。

今回は普段のジャーナルクラブとは異なり、”集中治療室における終末期および緩和ケアに関する欧州集中治療学会ガイドライン”[Intensive Care Medicine (2024): 1-27]について扱いました。

ガイドラインについてということで、初版のスライドは150枚近い大作でした!

そこから発表する内容を取捨選択し、当日を迎えました。

 

 

”集中治療室”と”緩和ケア”に正反対というイメージを抱く方もいらっしゃると思います。

しかし、そもそも”緩和ケア”とは、”生命を脅かす疾患に起因した諸問題に直面している患者と家族のクオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチ”と定義されており、集中治療室は緩和ケアが必要な患者さんばかりということになります。

また、救命を目的とした治療から、終末期・緩和ケア中心に移行することは、延命治療の中止もしくは差し控えを伴うため、特有の難しさがあります。

患者の死の質(Quality of Death/Dying:QOD)を高めること、家族ケア、医療従事者ケアなどを目的に、今回のガイドラインは作成されました。

 

 

①国ごとのばらつき②意思決定③ICUにおける緩和ケアと終末期ケア④コミュニケーション⑤家族中心のケア⑥専門職間の意思決定⑦コンフリクトの管理と燃え尽き症候群 についての7つのドメインからなり、8つのエビデンス(6つはlow level、2つはhigh level)と19のエキスパートオピニオンに基づく推奨事項が提示されました。

その中から、高いエビデンスレベルとして提供された文書ツールについてと、筆者らが重要とした5つの項目に絞り、発表しました。

 

 

文書ツールについては、重篤な患者の家族に病状などを説明できるリーフレットや、ICUで亡くなった患者の家族にリーフレットを用意することは、高い推奨レベルとなっていました。

また、緩和ケアの訓練を受けた集中治療医チームがICUで死にゆく重篤な患者家族とコミュニケーションとること、ICUスタッフ向けに終末期コミュニケーションのトレーニングプログラムを実施することが、低い推奨レベルとなっていました。

ACPについては家族が患者の状況を十分に理解していることが前提条件であること、延命治療の制限を可能にする法的規制を検討すべきであること、TLTが有用である可能性があること、などについて発表しました。

 

 

質疑応答では当院の集中治療室における緩和ケアの取り組みについて質問をいただき、①院内全体で導入されているACPシート ②心外術前ACP  ③入院時重症患者対応メディエーターの活躍 などについて、紹介させていただきました。

 

 

今回のガイドラインを受けて当院としては、リーフレットの作成と、ICU医療者向けの緩和ケア講習会を開催することなどに取り組みたいと思っています。


落ち着いていて、わかりやすく聞き取りやすい発表でした。

津田先生、お疲れ様でした!あと2週間程度ですが、残りの研修も頑張ってください!

 

 


多施設ジャーナルクラブ 2024年9月10日

2024-09-10 13:44:40 | 日記

全国約30施設で行われているJSEPTIC多施設ジャーナルクラブ、本日は当院救急科シニアレジデント1年目の堂前先生と集中治療科フェロー西村先生が発表してくれました。

 

本日のお題は、

静脈内アミノ酸投与は人工心肺を要する心血管手術患者において腎保護効果をもたらすか

で、イタリアのPROTECTION Study Groupによる研究です[NEJM 2024;391(8):687-98 ]。

 

心血管周術期患者でAKIは頻回に見られる事象であり、短期・長期予後へ悪影響を及ぼすことが知られています。

 

その主な機序として心血管術後の腎灌流低下が知られており、過去の基礎研究ではアミノ酸投与がAKI予防に有効である可能性があることから複数の先行研究が行われました。

 

先行研究では、術後AKIの期間やeGFR、尿量増加については有効である可能性が示されましたが、対象患者数が少なくAKI発生低下は証明できておらず今回の研究へ至りました。

 

本研究は、イタリアを中心とする国際間二重盲検無作為比較試験で、人工心肺を要する定時の心血管手術患者を対象に2019年1月~2024年1月まで行われました。

 

患者はアミノ酸投与(介入)群とリンゲル液投与(対照)群へ割り当て、タンパク投与量は2g/kg/day(最大100g/day)となるよう設定し、最長72時間まで投与を継続しました。

 

主要アウトカムは術後1週間以内に新規発生したAKI(KDIGO分類stage1以上)の割合、副次アウトカムはAKIの重症度(血清クレアチニン値のみ使用)、入院中の腎代替療法、ICU滞在期間と入院期間、人工呼吸期間、ICU退室時、退院時、30日・90日・180日時点での死亡率(%)と設定しました。

 

統計解析は一次解析としてITT解析、その後Per-protocol解析、As-treated解析を行い、それぞれのアウトカムはχ2検定とFisher正確確率検定で行い、相対リスク比と95%信頼区間を計算しました。

結果は4931例が組み入れ基準を満たし、そのうち除外基準の1279例、同意の得られなかった140例を除く3512例をアミノ酸投与群1759例、対照群1753例に割付け、以後ITT解析、per-protocol解析、as-treated解析を実施しました。

 

患者背景は両群間に有意差はなく、平均年齢は66歳、性別は男性が70%、術前血清クレアチニンは0.95mg/dL、NYHA分類はII群が最多、白人が98%、ACEI/ARBの内服歴は50%、術中ループ利尿薬の使用は40%、血管作動薬・強心薬の使用は65%、大半が冠動脈バイパス術と弁膜置換術、平均手術時間は230分、人工心肺時間は90分、大動脈遮断時間は70分、メチルプレドニン使用は13%、研究期間中の血圧や心機能に差はなく、アミノ酸の投与量は1260mL(126g)、投与時間は平均で30時間程度、介入中止の大半はICU退室でした。

 

主要アウトカムである術後1週間以内のAKI発生率はアミノ酸投与群で有意に低く(26.9%vs31.7%, 95%CI 0.77-0.94, p=0.002)、AKIの大半がStage1でした。

 

副次アウトカムでは、腎代替療法導入とその期間, 人工呼吸期間, ICU滞在期間, 入院

期間、死亡率、有害事象いずれにおいても両群間で有意差は見られませんでした。

 

以上の結果から、心血管手術が施行された患者において短期間の静脈内アミノ酸投与がAKIの発生率を低下させることが示唆されました。

 

本研究は、内的妥当性はいずれも満たしており、外的妥当性でも評価項目や投与薬剤が広く用いられており再現性に優れるものの、本研究でアジア系人種は殆ど含まれていないことがlimitationとして挙げられました。

 

また、私見として今後はより重症リスクのある患者に対する研究が望まれると考えられました。

 

今回発表をしてくれた堂前先生は、実は英論文の本格的な読み込みが初めての経験だったので驚くばかりです。

 

大学ではサッカー部で大型センターフォワードとして活躍していたとのこと、そのガッツで頑張ってくれました!今後の研修と活躍も乞うご期待です


第8期クリティカルケアセミナー(BTCCS)

2024-07-23 21:40:37 | 日記

後藤です。

今回は、第8期クリティカルケアセミナー(BTCCS)について投稿します。

これはBokutoh Critical Care Seminarのことで、集中治療を専門としない医療者を対象に院内急変対応や重症管理を学んでもらうものです。

「院内で」かつ「勤務時間内に」、きっちりとコアとなる考え方を学べて、受講者・見学者のアンケートで好評を頂いています。

集中治療科から生まれたコースですが、期を重ねる毎に内容がブラッシュアップされ、今では多職種で教え学び合う場となっています。

今期からはmoodleを使用した事前学習を導入し、参加者の方に効率よく学んでもらえています。

既に6月に第1回、7月に第2回が開催されました。集中治療科のスタッフも講師として活躍しています。

セミナーの様子は墨東人財育成センターのホームページに取り上げられていますので、こちらから是非チェックしてみてください。

https://bokutoh-career.jp/medical_training/record

(その他研修→研修・勉強会記録→2024年7月と2024年6月に写真が沢山あります)


多施設ジャーナルクラブ 2024年6月

2024-06-29 11:34:48 | 日記

報告が遅くなりましたが、6/11(火)に当院救急シニアレジデントである田代先生が多施設ジャーナルクラブでの発表をしてくれました。

 

今回のテーマは、“敗血症関連急性腎障害患者に対する遺伝子組換えヒトアルカリホスファターゼの第3相試験(REVIVAL trial)” (Intensive Care Med 2024;50:68-78)です。

 

敗血症でICUへ入室される患者のAKIの発生率は60%と高く、これまで対症療法しかありませんでした。

 

現在様々な薬剤の研究が進んでおりますが、今回のテーマであるアルカリフォスファターゼは、ATPの脱リン酸化による炎症抑制作用が示されており、Phase IIbまでの研究結果からは長期生存効果が期待されています。

 

今回の臨床試験は、大陸間をまたいだ107施設で行われた第三相二重盲検無作為化比較試験で、遺伝子組み換えヒトアルカリフォスファターゼであるイロフォターゼαを3日間投与した群とプラセボ群で28日間の全死因死亡率が比較されました。

 

当初1400名を目標に組み入れが行われましたが、400名での中間解析でイロフォターゼα群(61/208: 29.3%)vsプラセボ群(52/203: 25.7%)で28日死亡率の有意差が 出なかったことから研究は中止となりました。

 

最終的にも、イロフォターゼα群(92/330: 27.9%) vs プラセボ群(89/319: 26.9%)で95%CI[-6.9%;6.9%],  P=0.5と両群間に28日死亡率に有意差を認めませんでした。

 

その一方で、腎代替療法やCKDなどのアウトカムを示すMAKE(Major adverse kidney event)のうち、今回MAKE90Aはイロフォターゼα群(187/330: 56.7%) vs プラセボ群 (206/319: 64.6%) 95%CI[-15.4;0.42] 、P=0.019でイロフォターゼα群において有意にその発生が減少しました。

 

今回の臨床試験では、イロフォターゼαによる28日予後の改善は示せなかったものの、腎のエンドポイントを改善させる(特に敗血症関連腎障害発症前のeGFRが悪い場合)可能性が示唆され、今後の更なる臨床試験が期待される結果となりました。

 

田代先生は、見た目の通り穏やかで、物事に対して一つ一つ丁寧かつ確実にこなすところがとても素敵な先生でした。

 

引き続き、救急の臨床研修を頑張って下さい!

 


コアレクチャー「麻酔科医視点での心臓血管手術①」

2024-06-07 22:09:59 | 日記
後藤です。
先日行われたコアレクチャーをご紹介します。
題して「麻酔科医視点での心臓血管手術①」
今年度より入職の西村先生に発表してもらいました。
人工心肺の目的を以下の3つに分けて説明してもらいました。
①循環の確立
②臓器の保護
③無血視野の確保 
ダイジェストでお届けします。参考にしてください。
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①循環の確立
送血管どこから入れる?
上行大動脈:順行性、頭部に近い、送血量が安定しており、選択されやすい
その他(総大腿動脈、腋窩・鎖骨下動脈など):血管性状が不良、低侵襲手術の場合
脱血方法でECMOとの違い?
ほとんどがECMO同様に落差脱血法
違いは貯血槽があること(貯血槽を陰圧にする吸引脱血法もある)
②臓器の保護
最優先で守りたい臓器は?
心臓と脳
心保護はどうやって行う?
主たる方法は心筋保護液による電気的心停止(高K)
手段は2通り:大動脈遮断後の上行大動脈からの心筋保護液の投与
 、低体温循環停止後に上行大動脈切開し直接冠動脈に心筋保護液を投与
脳保護:体温管理、pH管理、選択的脳還流と逆行性脳還流
 評価するパラメータとしてNIRSなど
③無血視野の確保 
おおまかな術野を知った後に、開心術では右心系と左心系で分けて考える
右心系の流入血管:SVC、IVC、冠静脈洞、テベシウス血管
基本的にSVC、IVCそれぞれにカニュレーション必要(2本脱血)
左心系の流入血管:肺静脈、(気管支静脈、テベシウス血管)
肺循環の停止と左室ベント回路で無血視野を得られる
右房からの脱血のみで良い(1本脱血)
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西村先生は北海道から異動された、経験豊富な麻酔科 & 集中治療医です。
自身の経験も踏まえながら、初学者や手術室に関わりが少ないスタッフに、わかりやすく説明してもらいました。
たくさん質問も出ましたね。
周術期管理をする上で、背景知識を深めることは大切ですね。
今年度はコアレクチャーの紹介や文献紹介などもしていこうと思いますので、チェックしてみてください。