2015年4月1日までに貸切バスの運賃料金制度が、新制度に移行しました。これで、高速ツアーバス問題で露呈する事になった改善すべき点は、大きなものには手術がされた事になると思います。
これまで高速ツアーバスには、どのような問題があったのでしょうか。そして、どのような対策をとったのか。私なりに振りかえってみました。
その1 利用者に対する告知の問題
「販売しているのは高速ツアーバスなの?高速乗合バスなの?」
「どんな会社のバスが来るのかわからない」
→「高速バス表示ガイドライン」の策定
一般の利用者が高速ツアーバスと高速乗合バスの違いを判別するのは容易ではありません。また、高速ツアーバスでは利用者が契約するのはバス事業者ではなく、旅行業者であるために、実際に乗車するバスの情報が不明瞭な状態でした。ガイドラインでは、インターネットや紙媒体における広告の表示、バス車両における表示など、情報の”見える化”が行われています。
その2 運転手さんの運転距離の問題
「運転手さんは無理な乗務をしていない?」
→交代運転者の配置基準見直し
高速乗合バスにおいても、貸切バスにおいても、これまで定められていた「交代運転者の配置基準」に、新たな基準が加えられました。例えば、貸切バスではワンマン運行の上限が昼間で一運行500kmまで(条件により600kmまで)、夜間で400kmまで(条件により500kmまで)といった具合に定められています。
その3 停留所の問題
「駐停車禁止の場所でツアーバスが乗降している」
「停留所がなくて乗合移行出来ない」
→大都市では、協議会が道路管理者や既存のバス事業者、自治体、警察などと調整し、停留所を確保
高速ツアーバスの乗合移行で、難航したのが停留所の確保だったそうです。大都市では自治体や警察が停留所の新設に難色を示した事もあり、既存停留所の共用化や、大型バス駐車場を停留所として活用するなど、乗合移行への準備が進められました。
その4 市場競争の問題
「高速ツアーバスと高速乗合バスは同じ土俵で勝負していない」
→高速ツアーバスは乗合化
2地点間の移動を目的とした高速バスでは、旅行業法に基づいて自由度の高かった高速ツアーバスと、道路運送法に基づいて制約の多かった高速乗合バスの2つの制度が混在していました。新高速バス制度では、幅運賃制度を高速乗合バスに採用。需要に応じた柔軟な価格設定が可能となりました。また、高速ツアーバスが乗合バスに移行した事により、自らがバス事業者となり、安全面でも責任を持つ事になります。貸切バス事業者への乗合委託も同様に委託者の責任が明記されました。
その5 貸切バス運賃の問題
「ダンピングによって、貸切バス事業者が十分な利益を得ていない」
→貸切バス運賃料金制度の見直し
2000年の規制緩和によって貸切バス事業者の数は増加しました。そのうち旅行会社が企画してパンフレットやインターネットで集客する「メディア販売」が増えてくると、貸切バス事業者は旅行会社の影響を大きく受ける事になります。結果的に皺寄せを受けたのは貸切バスの運賃で、高速ツアーバスに限らず、貸切運賃の市場価格は大きく下がり、公示された運賃以下での契約も行われました。
新しい運賃料金制度では、コストを適正に反映した運賃・料金をバス事業者が受け取り、安全運行に必要な措置をとれるようにしています。また、貸切バスの運送契約における「書面取引の義務化」や、運賃・料金制度を守らないと「行政処分」の対象となるのはバス事業者だけではなく、関与が疑われた″旅行事業者″にも旅行業法に基づく措置がとられるなど、著しい運賃や料金の値下げ等の安全を阻害する行為を防止する仕組みも設けられています。
・・・ここまでまとめてみましたが、「こんな問題点もあるよ!」とか、「こんな改善もされたよ~」、なんてご意見もあるかと思います。他にも「高速ツアーバスの登場で、経営の苦しい地方バス事業者に影響が出た」というのも浮かびましたが、これに関しては2002年の規制緩和から他の乗合バス事業者の参入も可能となったので、競争相手の登場は想定出来るものでした。結果的に競争相手としては乗合バスよりも、高速ツアーバスの方が影響が大きかったので「高速ツアーバスのせいで・・・」となるのも理解できるものの、本質を見るには、規制緩和を考慮する必要もあると考えます。
最後に、高速ツアーバスは違法だったのか?合法だったのか?
当時の国土交通省の見解では、「正規の貸切契約に基づき運行されている限り、企画・実施旅行業者に道路運送法の問題は生じない。」とされています。すなわち、旅行業者による高速ツアーバスという運送形態は認められている状態でした。ただ、これには続きがあり、「道路運送法や労働基準法、道路交通法等の関係法令への違反行為の教唆、幇助となるような行為は行わないこと(重要なところを抜粋)」と記されています。裏をかえすと、貸切バスの営業区域外での契約や、労働基準法違反となるような長時間の運転を強いたり、定められた最高速度を違反する速度での走行を強いるような行為が行われていたケースも存在しました。
結局のところ、高速ツアーバスという行為自体には問題はなく(当時)、法令を逸脱した行為に問題があり、中には質の悪い商品も存在し、そのような商品でも消費者が気が付かず購入出来てしまうシステムが、高速ツアーバスの根となる問題だったのではないでしょうか。
改善すべき点に手術は行われましたが、術後には経過を診る事も重要であり、監査能力がどこまで対応出来るのかという課題は残ると思います。インバウンド需要の増加や、東京オリンピックへの対応など、これからバスが担う役割は増えていきます。バス業界がより良いものへと進化していく事を願い、今回の記事を終わります。
追伸:4月30日文章を一部直しました。
これまで高速ツアーバスには、どのような問題があったのでしょうか。そして、どのような対策をとったのか。私なりに振りかえってみました。
その1 利用者に対する告知の問題
「販売しているのは高速ツアーバスなの?高速乗合バスなの?」
「どんな会社のバスが来るのかわからない」
→「高速バス表示ガイドライン」の策定
一般の利用者が高速ツアーバスと高速乗合バスの違いを判別するのは容易ではありません。また、高速ツアーバスでは利用者が契約するのはバス事業者ではなく、旅行業者であるために、実際に乗車するバスの情報が不明瞭な状態でした。ガイドラインでは、インターネットや紙媒体における広告の表示、バス車両における表示など、情報の”見える化”が行われています。
その2 運転手さんの運転距離の問題
「運転手さんは無理な乗務をしていない?」
→交代運転者の配置基準見直し
高速乗合バスにおいても、貸切バスにおいても、これまで定められていた「交代運転者の配置基準」に、新たな基準が加えられました。例えば、貸切バスではワンマン運行の上限が昼間で一運行500kmまで(条件により600kmまで)、夜間で400kmまで(条件により500kmまで)といった具合に定められています。
その3 停留所の問題
「駐停車禁止の場所でツアーバスが乗降している」
「停留所がなくて乗合移行出来ない」
→大都市では、協議会が道路管理者や既存のバス事業者、自治体、警察などと調整し、停留所を確保
高速ツアーバスの乗合移行で、難航したのが停留所の確保だったそうです。大都市では自治体や警察が停留所の新設に難色を示した事もあり、既存停留所の共用化や、大型バス駐車場を停留所として活用するなど、乗合移行への準備が進められました。
その4 市場競争の問題
「高速ツアーバスと高速乗合バスは同じ土俵で勝負していない」
→高速ツアーバスは乗合化
2地点間の移動を目的とした高速バスでは、旅行業法に基づいて自由度の高かった高速ツアーバスと、道路運送法に基づいて制約の多かった高速乗合バスの2つの制度が混在していました。新高速バス制度では、幅運賃制度を高速乗合バスに採用。需要に応じた柔軟な価格設定が可能となりました。また、高速ツアーバスが乗合バスに移行した事により、自らがバス事業者となり、安全面でも責任を持つ事になります。貸切バス事業者への乗合委託も同様に委託者の責任が明記されました。
その5 貸切バス運賃の問題
「ダンピングによって、貸切バス事業者が十分な利益を得ていない」
→貸切バス運賃料金制度の見直し
2000年の規制緩和によって貸切バス事業者の数は増加しました。そのうち旅行会社が企画してパンフレットやインターネットで集客する「メディア販売」が増えてくると、貸切バス事業者は旅行会社の影響を大きく受ける事になります。結果的に皺寄せを受けたのは貸切バスの運賃で、高速ツアーバスに限らず、貸切運賃の市場価格は大きく下がり、公示された運賃以下での契約も行われました。
新しい運賃料金制度では、コストを適正に反映した運賃・料金をバス事業者が受け取り、安全運行に必要な措置をとれるようにしています。また、貸切バスの運送契約における「書面取引の義務化」や、運賃・料金制度を守らないと「行政処分」の対象となるのはバス事業者だけではなく、関与が疑われた″旅行事業者″にも旅行業法に基づく措置がとられるなど、著しい運賃や料金の値下げ等の安全を阻害する行為を防止する仕組みも設けられています。
・・・ここまでまとめてみましたが、「こんな問題点もあるよ!」とか、「こんな改善もされたよ~」、なんてご意見もあるかと思います。他にも「高速ツアーバスの登場で、経営の苦しい地方バス事業者に影響が出た」というのも浮かびましたが、これに関しては2002年の規制緩和から他の乗合バス事業者の参入も可能となったので、競争相手の登場は想定出来るものでした。結果的に競争相手としては乗合バスよりも、高速ツアーバスの方が影響が大きかったので「高速ツアーバスのせいで・・・」となるのも理解できるものの、本質を見るには、規制緩和を考慮する必要もあると考えます。
最後に、高速ツアーバスは違法だったのか?合法だったのか?
当時の国土交通省の見解では、「正規の貸切契約に基づき運行されている限り、企画・実施旅行業者に道路運送法の問題は生じない。」とされています。すなわち、旅行業者による高速ツアーバスという運送形態は認められている状態でした。ただ、これには続きがあり、「道路運送法や労働基準法、道路交通法等の関係法令への違反行為の教唆、幇助となるような行為は行わないこと(重要なところを抜粋)」と記されています。裏をかえすと、貸切バスの営業区域外での契約や、労働基準法違反となるような長時間の運転を強いたり、定められた最高速度を違反する速度での走行を強いるような行為が行われていたケースも存在しました。
結局のところ、高速ツアーバスという行為自体には問題はなく(当時)、法令を逸脱した行為に問題があり、中には質の悪い商品も存在し、そのような商品でも消費者が気が付かず購入出来てしまうシステムが、高速ツアーバスの根となる問題だったのではないでしょうか。
改善すべき点に手術は行われましたが、術後には経過を診る事も重要であり、監査能力がどこまで対応出来るのかという課題は残ると思います。インバウンド需要の増加や、東京オリンピックへの対応など、これからバスが担う役割は増えていきます。バス業界がより良いものへと進化していく事を願い、今回の記事を終わります。
追伸:4月30日文章を一部直しました。