PCエンジンでの衝撃と言うと、なんと言ってもCD-ROMだろう。
今だとCD-ROMは全然最新メディアではなく、むしろクラシックで時代遅れのメディアになってしまったが、PCエンジン時代では本当に衝撃的だったのだ。
PCへのオプションとしてCD-ROMが初めて登場したのは1985年、今でいうWindows機であるIBM-PC/AT向けだったんだが、あまり覚えていない。多分あんま売れなかったと思う。
そして、次に出たのが1988年、Macintosh向けとしてCD-ROMドライブが出た・・・との事なんだけど、これも全然印象なし。んなモンあったかなぁ・・・ってなカンジ。
同年にいきなり、家庭用ゲーム機、PCエンジンのペリフェラルとしてCD-ROMが登場する。パソコンでマイナーな周辺機器だったのに、いきなりゲーム機用として登場したんだから、ぶっ飛び具合が半端じゃ無かったのは想像に難くないだろう。もう一回言うけど、IBM-PCやMacintosh向けのペリフェラルとしては正直、知名度ゼロ、ってなモンだったからだ。
PC/Macintoshの場合、当然である。そもそも周辺危機として値段がそんなに安いモノじゃない。そして標準搭載じゃない以上、ソフトが無い。ソフトが無い以上んなバカ高いモンに金を払うユーザーはいない。
正直、当時のCD-ROMってのは「大容量」以外に何もメリットが無かったのだ。この時代のPC用ハードディスクの容量ってのは実の事言えば100Mbに到達してなかったのだ。信じられないかもしれないけど、今のUSBメモリとかSDカードとか「ギガバイト」なのが当たり前なんだが、当時のハードディスクはその容量に全然達してなかった。そんな中で700MB程の容量を誇るCD-ROMは確かに「大容量」だったんだけど、だから何?ってなカンジ。700Mbも必要とするソフトなんざ想像付かんかったし、PC本体のRAMなんか多くて1Mb〜2Mbってレベルだったし、HDDがあってもそれよりもデカい容量のソフトなんざインストールしようがない。大容量以外にメリットがない、ってのがお分かり頂けただろうか?
そもそもCD-ROMは、その名前が示すように「ROM」なんで、読み出し専用だ。って事はHDDのデータがいっぱいになってきたからデータを退避させる、なんつー用途にも使えない。値段が高いだけのマジで使えない周辺機器だったのだよ。
つまり、PC周りとして全く運用実績がない周辺機器がCD-ROMだったのだ。それをいきなり家庭用ゲーム機の周辺機器として導入する、と言うのは物凄く冒険である。
述懐に依ると、PCエンジンをCD-ROM機にしたい、と言う計画を初めから持ってたのはNECの方で、NECのアタマの中では将来、CD-ROM付きのPCがどんな画になるか、算段が整ってたのだろう。つまり、お世辞にも知名度がある、たぁ言えないCD-ROMの認知度をPCエンジンで一気に上げる作戦だったに違いない(もっとも、パソコンに於いては次の年、1989年に初めてのCD-ROM標準搭載機の名誉は富士通のFM-TOWNSに奪われてしまう)。
いずれにせよ、こうして、「全く誰もノウハウがない」CD-ROM機はPCエンジンによって初めて運用がスタートした、と言って過言ではない。そして、CD-ROMの知名度に於いてはNECの目論見通り、PCエンジンは良い広告塔になっていくのである。
さて、ところで、である。
本当にゲーム機に於いてCD-ROMってのは必要だったんだろうか?
こう書いちゃうと、この記事いきなり全否定なカンジになるが(笑)、いやそれでも結構不思議である。
実際当時でも、ゲームで☓☓実現したいんだけど、容量が足りない!って話は良く出てた。確かに良く聞いた話である。
当時だとゲーム機はカートリッジが主流であり、PCでゲームをする場合、700Kb〜1Mbのフロッピーが主流である(まだ1Mb以上のフロッピーはメジャーじゃなかった)。ここでは後者の話に絞るが、日本だとHDDは全くと言って良い程普及してなかったので、「ある程度の容量が必要なゲーム」を想定すると、フロッピーが5枚組前後くらいで、そいつらをスワップ(抜き差しして交換)しながらプレイする、ってのが「大容量な」ゲームだったのだ。計算してみれば明らかだろうが、ゲームとしては5Mb前後で充分だったんだな(それでもファミコンで考えると「超巨大な」容量である)。
つまり、当時のゲーム屋が「容量が足りない、もっと容量が欲しい、容量さえあれば実現が・・・」って言ってたのは恐らく多くても10Mbもあれば実現可能だったのだ。
ところが、そこに最大で700Mbも使えるモンスターマシンが登場したのだが・・・・・・ホントにそこまでの容量が必要だったの?
1つの答えは、ジャンルによる、だろう。
大体、シューティングやアクションゲームにCD-ROMみたいな「大容量」が必要なのか・・・と言えばそうでもない。
確かにPCエンジン版パロディウスみたいに「容量が間に合わない」から面が削られた、なんつー事はアーケード移植版を考慮するとしばしば存在する。かと言って、「700Mbもの大容量」があっても、今度は逆に「余りまくる」わけだ。
CD-ROMドライブの値段から考えると、コスパが「割に合わない」ってのが1つの解になる。意外と、CD-ROMじゃなくって、そこそこ普及してて単価が下がってるフロッピードライブの方が最適解だったんじゃないか?
少なくとも、アクションゲームやシューティングにそこまで容量が必要なのか、っつーと殆ど必要無かったのである。
と言うことは、「映画的」な演出で容量をジャカジャカ使うジャンルの方が相性が良さそうだ、と。CD-ROMに最適なジャンルと言うのは、例えばADVなんかの方が向いてるだろう、と。当然そうなるわな。
さて、数え間違いが無ければ、PCエンジンのCD-ROMが発売された1988年から最後のソフトがリリースされた1999年まで、11年と言う長期間でPCエンジンのCD-ROMゲームは351本出ている。これは任天堂のファミリーコンピュータ用周辺機器、ディスクシステムのソフト数が200本にも満たない、トコを考えると大成功と言えるだろう(ディスクシステムも7年保ったので、ある意味成功ではあるが)。
その中でアドベンチャーゲームは計50本である。多いのか少ないのか・・・百分率に直すと14%程度である。メーカーの内訳は以下の通り。
こう見てみると、意外とメーカーの参加率、と言うか参加本数が少ない。
つまり、実際はADVの映画的演出、なんぞにはソフトウェアメーカーは興味がなかった、って事が分かる。何が何でも大容量を使いこなしたゲームが作りたい、ってわけでもなかったのだ。やっぱ最初書いた通り、一般メーカーの考える「容量をたくさん使いたい」と言うのと、「CD-ROMの大容量」と言う現実には相当乖離があったんじゃないか。
なお、ハドソンとNECと冠が付いてる会社は、PCエンジンのサードパーティでも何でもない。と言う事はここに挙げられた50本のうちの19本、つまり実に38%はPCエンジン内製、って事なんだよな・・・いや、別にそれ自体は責めるべき事じゃないんだけど、「作業量から言うと結構大変だよな」って事だ。
もう一回繰り返すけど、ソフトウェアハウス側から言うと、別に「何がなんでもアニメ的演出を加えたADVを作りたいわけではない」と言う内情が数値からは伺えるのだ。
もっとも、PCエンジンのCD-ROMのお陰で、ADVの技術的なアプローチが広がった、って事は事実だろう。例えばまずは実写取り込み。これ以前でもパソコンなんかでは、実験的に行われてたりはしたが、「容量を気にせず」出来る、と言う事をハドソン自ら第一弾ソフトとして証明してみせている。No・Ri・Koと言うゲームがそれだ。
小川範子って誰やねん、って思う向きもあるだろうが、当時はそこそこ人気があるアイドルだった筈だ。・・・自信なし。当時は全くアイドルに興味なかったしな。いや、訂正する。南野陽子以外には興味がなかったのだ。
それはともかく、このゲームでは小川範子も喋りまくるし、「CD-ROMで何が出来るのか、どんなゲームが作れるのか」と言うデモとしてはまぁまぁ成功だったんじゃないだろうか。売れたかどうかは知らんけど、一応アピールは出来た筈だ。取り敢えず小川範子はそこにいる。ファミコンディスクシステムの「中山美穂のときめきハイスクール」と画のクオリティが全然違うのだけは分かるだろう。
ところが、この路線はパッと飛びつくヤツらが居なかった。このフォロワーとしてはのりピー使ったゲームなんかも出たが、メーカーは意外と今までオーソドックスだった、例えば以下のよな、殺人事件モノなんかのADVをリリースするのを好んだんだな。
しかし、このゲーム、オープニングシーケンスが結構凝った作りになっていて、アニメと言うよりは劇画的なんだけど、音声付きのイントロとしては盛り上がるようになってる。
気分はもう「土曜ワイド劇場」、俺らはもう愛川欣也状態である(謎
そしていわゆる「CD-ROMを利用したアニメなADV」として初めて登場するのが「うる星やつら STAY WITH YOU」。これもハドソン製である。
しかし、このゲームのアニメ表現は何とも中途半端で、かなりの確率で「音声つき静止画」である。また、「うる星やつら」のアニメの本放送も1986年に終わっているので、割に「何で今更・・・?」感も強かった。旬を外している以上、企画意図が良く分からん。
なにより、実はさっきの「西村京太郎ミステリー」もこの「うる星やつら」も1990年リリース。つまり、PCエンジンCD-ROMが登場してから2年近く経ってるわけだな。
意外と「映画的」ないしは「アニメ的」演出込のADVと言うジャンルには、各ソフトウェアメーカーの食いつきは良くなかったのだ・・・・・・。
じゃあRPGはどうなのか・・・これが実は難しい。一体アニメ的演出がRPGに「必要」ってなったのはいつからなのか・・・?これはキチンと調査せんとアカン問題である。
前から指摘してるけど、国産RPGのターニングポイントになったのは「ドラクエI」なのだ。それ以前のPC上の国産RPGはぶっちゃけ、RPGの体を成していない。クオリティが低いし、誰も「作り方」を良く分かってなかった、って言って良い。ドラクエが国産RPGを変えたのだ。
ところが、ドラクエがアニメ的演出を導入したのか・・・?と問われるとそうではねぇんだよな。いや、正確に言うと、ドラクエIIで導入してみたい、て言う「実験」が試みられた形跡がある。ただ、それこそ容量の問題で削られているのだ。
英語版の「Dragon Warrior II」はある種ドラクエII完全版で、スクエアのファイナル・ファンタジーIVばりな「二頭身キャラの演技によるイントロ」が観れる。ファミコン版で仮にリリースされていたら、「映画的演出を取り入れようとした初の国産RPG」にもなってただろう。
上の写真を見れば分かるが、本来ならドラクエIIはムーンブルグ城が強襲されるシーンから始まっていたらしい。これがカットされたお陰で、このテの「二頭身キャラによるドラマ的やり取り」は、ある意味スクエアの専売特許になってしまった。
いずれにせよ、ドラクエII登場が1987年、PCエンジンも1987年登場、で、この時点ではまだ、「アニメ的演出のRPG」と言うのはどっちにせよ、ドラクエからでも学べなかったのだ。
と言う事は、アニメ的演出を持ったRPGと言うのは、意外とそれこそ天外魔境がルーツだったのかもしれない。PCでアニメ的演出で大ヒットしたRPG、エメラルドドラゴンが出るのが1989年12月22日だし、天外魔境のゲーム性はともかくとして、天外魔境のデビュー、1989年6月30日より半年ほど後なのだ。
つまり、時系列的に並べると、「RPGにアニメ的演出を加えれば面白くなる」と、ADVの改良より先にそっちに感づいたのがハドソン(と言うよりREDなのか?)であり、スクエアがファイナル・ファンタジーII辺りで導入した「二頭身キャラによる演技」を無視して、直球的にアニメを使用したRPGを作り出したのだ。
仮に、スクエアがPCエンジンに参入していたら、とっくの昔に「映画的演出」に興味があったスクエアはアニメを駆使したファイナル・ファンタジーシリーズを作り上げていたんじゃないか。なかなか思うようにはいかないものである。そしてなによりコストがかかってたのかもしれん。
ここで例によってデータを見てみよう。PCエンジンのCD-ROMで出たRPGの数は総計54本で、実はADVより多い。百分率に直せば15%程度である。
会社の内訳は次の通り。
ここでもハドソンがトップであり、NECアベニューとNECホームエレクトロニクスを合わせると、内製が37%である。
ちなみに、日本テレネットの9本、ってのはかなり異常な数で、実際問題、ゲームメーカーとしての日本テレネットはどっちかっつーとクソゲーメーカーに近い。この他にもメガドライブ/メガCD用ゲームなんかも出してる(しかもRPG以外も出してる)んで企業規模で考えると明らかに粗製濫造メーカーである。よってマトモに受け取らなくて良い。
ここでも結局、「まともな」サードパーティの参加率ってのは実はあまり良くないのだ。そもそもRPGを作るのも時間がかかるのに、CD-ROMの容量活かしてアニメを入れて声優呼んで・・・なんつーのはハードタスクでコストがかかるだけだった、って事である。当時のスクエアでさえなかなか手を出せなかっただろう。
結局そういう「豪華な」演出が可能なメーカーはPCエンジン陣営ではハドソンとNECだけだった、と言う事だ。だからこそ、PC-8801やPC-9801での有名作を出しながら資金的に怪しいソフトハウスからPCエンジンへの移植権を買い、せっせとPCエンジンへ移植する・・・これを自転車操業的、と呼ばずに何と言おうか。
断っておくが、ハドソンとNECを褒めてるのだ。セガだったらほったらかしだった。だからPCエンジンの方が当時は支持を受けてたのだ。間違いない。
今だと映像的演出込み、のゲームは珍しくなくなったが、その辺を切り開いたのはPCエンジンであり、ハドソンであり、NECだった、ってまずは考えて良いだろう。どう見てもその他のサードパーティは参加しながらその辺にはあまり熱心ではなかった、と言うのが数値から見ると伺えるから、だ。
例えば、シミュレーションゲームにCD-ROMが必要で、アニメ的演出が必要なのか、ってのは意見が分かれるとは思うが(シミュレーションの場合、「一本道」なADVやRPGと違って、途中分岐が予測出来ないので、それに合わせたアニメを前もって作るのは難しいと思う※)、いずれにせよ、PCエンジンCD-ROMのゲームのうち247本くらいは、「映像的演出」が直接関係ないゲームであり、いわば既存のそのままのゲームだった、って事なんだよな。多分700Mbとかフルに使ってるシューティングゲームとか、アクションゲームとかねぇだろ。無いと思う。
そしてプレステに続く「映像的演出過多」なゲームの基礎は、もう一度言うが、ハドソンとNECがPCエンジンで独力で作り上げたのだ。
それが良い流れになったか悪い流れになったかは別問題として。
※: あとはシミュレーションゲームに必要なのは「データ」で、CD-ROMは当然「膨大なデータを詰め込む」のは確かに向いてるが・・・・・。ただ、ファミコンでもシミュレーションが「出てた」と言う事実からすると、ROMカセットで充分に賄えるし、特にCD-ROMの大容量が必要になる、って程でもなかったんじゃないか。
結局、CD-ROMで一番容量を食うのは「ムービー」と「音声」になるのだ。