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音楽学者で合唱指揮者、音楽解説の皆川達夫氏 が4月19日に老衰のため亡くなりました。92歳でした。
COVID-19で喧しく新聞にもテレビにもろくに関心を寄せていなかったので碩学の訃報を知らず、せろふえさんのブログで初めて知り驚きました。
実は、しばらく前に妻と『音楽の泉』の話題になり、皆川さんはおいくつになったのだろうか、とWikiを開いたことがあります。その存在が当たり前のように思っていただけに残念でなりません。
皆川さんと言えば、私がバロック音楽に興味を持った頃にバロックとそれ以前の音楽の専門家、大家として知りました。該博な知識と筋の通った文章で分かりやすかったものです。また、ラジオの解説も、独特の調子で語りかけ、学者にありがちな細かすぎたり押しつけがましい点がなく、親しみやすかったように思います。
皆川氏の本は『バロック音楽』(写真上)と『中世・ルネサンスの音楽』(いずれも当時は講談社現代新書)を持っています。前者が昭和48年3月の三刷(定価290円!)、後者は昭和52年2月の初版です。古い本ですが大切にしていて今も書架に並んでいます。
中世からバロックにかけて本を書くということは、音楽そのものと時代背景についての膨大な知識がないとできないことだと思います。しかも、ヨーロッパ各国にわたるので大変難しいことでしょう。皆川氏でなければ、コンパクトな新書にこのように充実した内容を盛ることはできなかったと思います。
また、当時の音楽界の雰囲気は、クラシック音楽は文字どおり近・現代のオペラやオーケストラ音楽が主流でありバロック音楽やそれ以前の音楽は未発達なもの、封建的なものとされていたように思います。実際に演奏される機会もほとんどありませんでした。ヴィヴァルディの『四季』を除いて。
そんな中で、皆川氏の2冊は私にとって中世からバロックにかけてのよきハンドブックでした。ファミリアーな現代新書から出されていたこともよかったのだと思います。
お陰で、この時代の音楽について知ることができましたし、折に触れて参照をさせていただきました。いや、今でもそうしています。(この2冊には詳細な索引、年表などがあり良心的です。)
博識ゆえに控えめで、理知的でノーブルだった皆川さん、ありがとうございました。そして、御機嫌よう、さようなら。∎
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今回、『バロック音楽』の最後に置かれた「バロック音楽と日本人」の項を読み返してみましたが、音楽を巡る状況が現在とあまり変わっていないように思いました。変わっていないどころかCOVID-19によって状況が急変し従来の悪い面が露わになりさらに深刻化しているように見えます。これから、古楽だけでなく日本の音楽、文化がどうなっていくのか不安を覚えます。
皆川達夫著『バロック音楽』(講談社現代新書291)、1972年11月刊.
ブログの紹介ありがとうございます。
僕の「バロック音楽」が見つからなくて、、、「中世・ルネサンスの音楽は」390円でした。(^^;)
皆川さん、本当に知的でノーブルでしたね。
コメント、ありがとうございます。
皆川さん、とどうしても呼んでしまいますね(上の記事でも「さん」と「氏」が混交してしまいました)。もちろん、私もお会いしたことはありませんが、こちらが勝手に親しみを感じていましたし、そう思わせる方でした。このような音楽学者はもう出ないのではないでしょうか。
今は「アイコン」と言うべきなのか、私が生涯で最も熱心に(笑)リコーダーを吹いていた頃の古楽のアイドルと言うか大御所と言うか、最後の拠り所と言うか、そういう存在だったように思います。端正な顔立ち、誠実な話し方、分かりやすい文章でした。褒め過ぎでしょうか...
いずれにせよ、日本に皆川さんがいてくださりよかった。
音楽とともに歩み、天寿を全うされたのだと思います。
新書の定価を見て私も愕然としました(笑)。現在のほぼ三分の一! 遠い昔になってしまいました...