名所図会の先鞭をつけた秋里籬島による『摂津名所図会』(9刊12冊、寛政8年(1796))の見どころが大判の図、部分図などで紹介される本です。「図典」と称するだけあって、当時の大阪の姿が生き生きと描写されている画に詳細な説明が入り、興味深く眺めることができました。まるで、ドローンによる現場中継を見ているような感覚に陥るのは私だけでしょうか。逆に言うと、そのような視点を当時の絵師が持っていたことに改めて驚かされます。
中には、異なる場所や時間的に異なる情景を同時に描き込んだシーンもあります。現実にはあり得なかった風景は、それを知り尽くしていなければ描けないわけで、豊富な知識とサービス精神の現れでしょう。写真のなかった時代に、リアルな生活の様子を描いた本が残されたことは本当に貴重と言えるでしょう。
道頓堀の興行や市場の活気、名所の人出、自然の機微などが細かい筆致で描かれていて楽しめます。
複数の絵師が分担していますが、多くは竹原春朝斎と丹羽桃渓のもので統一感があります。名所図会としてのこだわりを感じました。∎
本渡 章著『図典「摂津名所図会」を読む;大阪名所むかし案内』創元社、2020年6月刊.