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『若き日の思ひ出』とは何の曲だったのか

2022年04月18日 | ぼくのとうかつヒストリア
「焼けビルに薫る旋律」の記事中、Tさんが空襲で焼けたビルでバイオリンで練習をしている『若き日の思ひ出』という曲が何であるか探していたのですが、これぞという曲はわかりませんでした。

クラシックでバイオリン曲の「思い出」と言えば、私には次の2曲しか思い浮かびません。

「若き日の」Drink to Me Only with Thine Eyes (イギリス民謡)
「思い出」Souvenir(ドルドラ[František Alois Drdla]作曲)

しかし、どちらもタイトルからの類推に過ぎません。この2曲(のうちのいずれか)が「若き日の思い出」として流布していた(現在の曲名とは異なっていた)と考えることも難しい。また、2曲同時に練習していたわけでもないでしょう。

そんな中で、タイトルが見事に一致する曲が見つかりました。戦前の歌謡曲です。

若き日の思い出 上原敏


この曲なら弾いていても石を投げつけられることもなかったでしょう。
動画によれば昭和12年3月頃の作品とあるので、記事の8年ほど前の新譜です。ヒットしたとは言えなかったらしいので、世間が覚えていたかどうかは一抹の不安があります。

昭和12年(1937)と言えば満州事変の年です。青春歌謡のような曲調は時流に合わなくなっていたでしょう。明るい中にもどこか哀調を帯びた曲、詞は時代の影響でしょうか。「スーベニヤ」(偶然、ドルドラの英語名と同じ)が繰り返されモダンな感じを印象付けます。

歌っている上原敏は、秋田県大館町(現大館市)出身。野球が得意の一方で音楽の素養もありバイオリンにも熱中しました。専修大学卒業後は会社に勤め、知人に認められて歌手の道に入ります。素朴な声が受けてヒットを連続し、一時は東海林太郎とも肩を並べる勢いでした。しかし、役所のミスで召集されてしまいます。それでも、猶予をよしとせず戦地に赴き、昭和19年夏頃ニューギニア方面で戦没しています。(Wikipedia〈上原敏〉から)練習していたTさんもこの事実は知らなかったことでしょう。

いずれにせよ、当時の新聞はすべて軍の検閲が入りましたから、この記事についても何らかの意向が反映されているものと考えられます。それがどのようなものであったのかは私には手に負えない問題です。また、これ以外の曲ということも、可能性としてはまだ残ります。


ご参考までに。

若き日の(イギリス民謡)YouTube動画
思い出(ドルドラ)YouTube動画


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