Yuumi Sounds and Stories

シンギング・リン®️セラピスト「藍ゆうみ」のブログ。日々の覚え書き、童話も時々書いています💝

お話妖精ルーモと風さんインド⑧

2020-05-12 14:09:24 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月8日(月)夕月の夜 インド

ざわざわ、ざわざわ、大きな風が唸りはじめました。台風です。ルーモの旅先案内人の風さんはまだ小さな風なので、強くきかんぼうな台風の風にさらわれて、どこかにいなくなってしまいました。ルーモは仕方なく、海辺まで出て水の精に助けを求めました。

水の精は、海に住むイルカさんにルーモをインドという国へ連れていくようお願いしました。オーストラリアからインドまでイルカに乗った海の旅はとても楽しいものでした。台風のせいで波が大きく持ち上がったかと思うと滑り台のように降りていき、まるで遊園地で遊んでいるみたいでした。波が静まる頃には、水平線からの朝日が昇り、幾筋ものキラキラ輝く光の線が、世界を黄金に染めました。ルーモが初めて見る美しさでした。

ルーモはイルカさんとさよならし、ガンジス川という川からインドに入りました。大きな海のように太い川です。今度はガンジス川の精霊がルーモをお話の聞けそうなところへ案内します。それはルンビニという町でした。ブッダという人がうまれたところです。

ブッダが悟ったという菩提樹の木の下に、一人のお坊さんがいました。えんじ色の袈裟を着たまだ若いお坊さんでした。とても美しいお顔をしています。このお坊さんにはルーモが見えました。ルーモを見ることができる人間は、心に深い悲しみや寂しさを抱えた者だけです。このお坊さんはどちらかというと悲しみや寂しさにあふれているのではなく、人の悲しみや寂しさがよくわかる人といった方が良いかもしれません。悟りを開くために何年も修行をしている人でした。人間と関わるよりも、空や風や木々や草花と心を通わせるのが当たり前の人でしたので、ルーモのことも見えたのでしょう。そう言った人は意外といるものです。

お坊さんは、ルーモを菩提樹の下の自分の横に座らせて、お話をしてくれました。

~この木の下に座り続けて何年にもなります。私は全てを悟ってしまったので、ここに居るだけですべてを観通し満たされています。時々、君みたいな妖精もやってきて話すのも楽しい。普段は空や雲や風や、この菩提樹や地べたの虫と話をしていて全く飽きることはない。夜には満天の星々と交流することもできる。宇宙は広大で興味は尽きることがない。

今とは違った時代の文明では多くの人間がそうして当たり前に楽しく生きていた時もあった。そこでは競争も争いも嘆きも悲しみもなかった。

そんな時代が何万年も続いたことを知っている人たちだっている。~

お坊さんの言うことがルーモにはよくわからなくて何も言えずに困っていましたが、
お坊さんはそれをわかっていて、大丈夫ですよと優しく微笑んでくれました。

ルーモはいつからかわかりませんが妖精として人間のお話を聞くことをしてきました。そうしながらルーモの中に「心」が芽生え、悲しさや嬉しさ、喜び、勇気、ときめき、楽しさ、寂しさ、辛さ、そんなことを学んでいます。妖精なのに、少しづつ人間に近づいているのです。

そしてまたお坊さんのお話を聞いて、ルーモの心に芽生えたことがあります。

それは、自分は何者なのか?ということでした。

そして、自分はなんのためにここにいるのか?

オーストラリアのウルルの一枚岩の所で、ルーモの心に灯った哲学的な発想はここでもまたさらに形を現してきました。

それを聞いてみようと、お坊さんに目を向けますと、お坊さんは静かに遠くを見ていました。その横顔があまりにも美しく、透き通っているような気がして、ルーモは質問などとうに忘れてしばし見惚れていました。菩提樹がさわさわさわさわ鳴りました。

「ルーモ~」とどこから声がしました。台風にさらわれた風さんがやっとのことで帰ってきたようです。
「あ~、もう大変な目にあったよ。台風の大風にロシアの方まで引っ張りまわされちゃって」
「私も大変だったのよ。イルカさんや川の精さんのお世話になってここまで来たの」

風さんはまだ少し勢いがついていて、いきなりルーモを背中に乗せてしまいました。だから、ルーモは質問もさよならもありがとうも言えないまま、菩提樹のはるか真上に舞い上がりました。ルーモが急に消えたのを知っても、若いお坊さんは静かに菩提樹の下で座っていました。