Yuumi Sounds and Stories

シンギング・リン®️セラピスト「藍ゆうみ」のブログ。日々の覚え書き、童話も時々書いています💝

お話妖精ルーモと風さんマレーシア⑦

2020-05-13 14:08:12 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月7日(日)夕月の夜 マレーシア

風さんは空の高いところへとルーモを運び、マレーシアのキャメロンハイランドという高原の真上に来ました。フィリピンはマニラのムッとする熱気を払い、この高原は一年中爽やかで涼しい場所です。その気候を生かしてお茶の葉やお野菜の栽培が盛んでした。

ルーモは広い茶畑に降りました。夕月が茶畑の葉の一枚一枚を艶々と照らして、うっとりするほどに綺麗です。

するとどこからともなく、小さなささやきが聞こえてきます。

さわさわ、さわさわ、さわさわ、さわさわ…

ルーモが耳を澄ますと、それははっきりとお話になって聞こえてきました。高原の精霊がお茶の葉の娘さんたちにお話をしていたのです。精霊は白いひげを生やした優しそうなおじいさんでした。

「いいかね。高原の水と土の養分は、君たちの緑色をつややかにしてくれた。
 高原の空気と香りは君たちに上品さと高貴さをもたらした。
 高原の光と温かさは君たちに優しさと喜びを与えた。
 高原に降る月のしずくは君たちに輝きを授けた。
 明日は待ちに待った茶摘みの日だ。
 君たちはキャメロンハイランドの美しい茶娘として堂々と世界中の人々の喉を潤すのである」

なにやら明日の茶摘みの前におじいさん精霊が、茶葉の娘さんたちに別れの言葉を告げていたようでした。

茶葉の娘たちはその緑色の頬を艶めかせ、明日の茶摘みに思いを馳せて朝日が昇るのを待っていました。

ルーモは一人の茶娘さんに言いました。
「あなたの緑色は本当に綺麗。そして、良い香りがするわ。でも、ここから離れて、みんなとバラバラになってどこか知らない場所に行くのは怖くない?」

娘さんは言いました。
「私たちは自然からいろんなものをもらったの。お蔭で今私たちはこんなに美しい!今が私たちの一番幸せなときね。明日から冒険の旅が始まるわ。何が起きても大丈夫。ここまでで十分に幸せ。そして、これから誰かを幸せに出来たらそれはおまけの出来事よ」

茶娘さんたちはウキウキだけでなく、とても勇敢で、そしてすべてを知っていました。ルーモは茶娘さんたちの凛とした美しさがまぶしくて目をしばたたかせました。そして、その勇気はルーモの目から心へと流れ、今まで知らなかった力を与えました。

「お幸せに!ありがとう」

ルーモはそう言って、さぁ~っと吹いてきた風さんに飛び乗りました。空の高いところから広大な茶畑を見下ろします。茶娘さんたちの希望の光が茶畑全体を水面の輝きのようキラキラさせていました。それは月の光の反射だったかもしれませんが……。

茶娘さんたちは、明日摘み取られ、選別され機械で蒸されて、乾かされてから、缶に詰められて、紅茶として世界中のどこかのお店に並ぶのです。そして、どこかの誰かさんに買われていくのでしょう。ルーモは茶娘さんたちが、美味しく飲まれ、人々の喉を喉を潤す時に彼女たちの希望という艶めきで潤すことを想像して、茶娘さんたちの幸せを祈りました。



お話妖精ルーモと風さんオーストラリア⑥

2020-05-13 14:07:07 | 童話 ルーモと風さんのお話
8月6日(土)夕月の夜 オーストラリア

さあ、次はどの国に行くか、風さんはルーモと相談しました。

「昔からの人が住んでいるすごく大きな島があるよ。行ってみる?」
「昔からの人ってなに?」
「古くからのお話を語り伝えている人たちさ。オーストラリアっていう大きな島があって、そこには僕みたいな自然霊や君みたいな妖精と普通に話ができる人が今でも住んでるんだ。ほんの少しだけどね」

風さんとルーモは、ウルルという一枚岩でできた大きな山の上に降りました。ここは聖なる山です。人は登ることはできません。このウルルの麓のレッド・センターで、たき火の周りに人が円になって座っています。

今日は、大昔からこの大陸に住んでいる一つの民族アナング族の語り手が、自分たちのことを現代の人にお話しています。

~我らは、6~7万年前にこの大陸に降り立った。この広い大地のいくつもの場所に我らは散らばり、それぞれが、全く違う習慣、食文化、芸術を育てた。言葉は大きく分けても25種類以上ある。基本的に文字は持たず、狩猟をし農業は行わない。だが、食べるための動物は食べるだけしか採らない。伝統的に酒を飲むことはない。

我らは代々「ドリームタイム」という天地創造の神話を語り継いできた。ドリームとは、「夢」のことではなく、「生活する、旅をする」の意味だ。 人間が旅をすれば、そこに足跡が残るのと同じように、エネルギーやスピリットが残る。そのエネルギーやスピリットを残すことを「ドリーミング」、そのドリーミングが行われた時間を「ドリームタイム」と呼ぶ。

「ドリームタイム」は3つの時代に分けられる。「始まりの時代」は何も存在しない暗黒の時代。「創造の時代」はドリーミングにより天地や動植物が生まれた時代。そして最後の「伝承の時代」が現代だ。 我々は「創造の時代」のことを、 絵を描いたり歌を歌うことで語り継ぎながら生きてた。「伝承の時代」は、これまでのドリーミングをたどっている。~

ルーモにはちょっと難しいお話でしたが、いつもと違う気持ちが芽生えました。アナング族の人には懐かしさを感じました。

たき火の隅っこでお話を聞いていたルーモに、アナング族の語り手が話しかけました。その人はルーモを観ることが出来ました。

「小さな時の旅人よ。どこから来てどこへ行く?」
「世界中の子どもたちの所に行ってお話を聞く旅をしています」
「これまで何を見てきた?」
「まだ旅は始まったばかりだけど、人の心の優しさや温かさ、面白さを私は探しているのかもしれません」
「なかなか楽しそうな旅だ。旅は宇宙とともにある。どんな人の旅も宇宙の呼吸だよ」
「宇宙の呼吸?」

そう言って、語り部は笑いながら元居たところに戻りました。


この旅で、ルーモはどんな足跡を残すでしょう。ルーモはどこから来て、どこへ行くのか、なぜ生まれて何のために生きているのか、答えのない問いが浮かびました。

このアボリジニと呼ばれる何万年も前からオーストラリアに住む人たちもどこから来たのでしょう。なんのために「創造の時代」のことを語り伝えているのでしょう?

そんな問いがルーモの心にあぶくのように浮かびましたが、それは形をなさないまま心のどこかに消えていきました。

大陸の大きな風がお話を聞くみんなの顔を優しくなぜていきました。ルーモはその風に抱きかかえられてまた空へ舞い上がっていきました。 そばには小さな風さんが寄り添っています。