アジア映画巡礼

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シンガポール・キャセイ80周年映画『新四千金(Our Sister Mambo)』

2015-08-18 | 東南アジア映画

シンガポールでは、最後にとっても素敵な映画を見てきました。『新四千金(Our Sister Mambo)』です。このタイトルに関しては、ちょっと説明の必要があります。

中国語をご存じの方はおわかりでしょうが、「千金」とは「お嬢様」という意味です。「お嬢様」にもいろいろ意味がありますが、「お宅のお嬢様」と言ったりする時に使う表現ですね。

それが四姉妹となると「四千金」となるわけですが、このタイトルの映画がかつて大ヒットしました。キャセイ、つまり國泰(別の名前もあり)というシンガポールがベースの映画会社が、香港にも進出したあと1957年に作った作品です。男やもめのお父さんと奥手の長女、色っぽい次女、元気いっぱいの三女、おとなしい四女が楽しいドタバタを繰り広げるホームドラマ・コメディとなっています。三女を演じたのが林翠(リン・ツイ)で、彼女がいわば主役的存在となるため、英語題名は彼女の役名を取って「Our Sister Hedy」と名付けられています。


今回の『新四千金』はそれを下敷きにしていますが、まったくのリメイクではありません。今回はお父さんがキャセイの劇場勤務で、キャセイが香港で作った映画の中でも葛蘭(グレース・チャン)作品の大ファンという設定です。お父さんは子供が生まれると、最初の娘にはグレースという名前を、二番目の娘には葛蘭のヒット映画『曼波女郎(マンボ・ガール)』からマンボという名前を、三番目の娘には『野玫瑰之恋(ワイルド・ワイルド・ローズ)』からローズという名前を、そして四女には『六月新娘(ジューン・ブライド)』からジューンという名前を付けます。これで「四千金」ですね。さらに、お母さんは不動産会社でバリバリ働く韓流ドラマ好きの気の強い女性で、一家の台風の目という、オリジナルにはない面白いキャラが登場します。

Our Sister Mambo

ポスターでは、お父さんの右がお母さん、左下から時計回りに四女ジューン、長女グレース、三女ローズ、次女マンボです。マンボは大学の法学部を卒業し、弁護士事務所に勤めていたのですが、料理への情熱やみがたく、有名なシェフのいるタイ料理店勤務に仕事替えをしてしまいます。お母さんはもちろん大反対で怒り心頭。さらにその上、長女は離婚して子供もいる中国人男性を好きになるし、三女は夜ごと西洋人男性とデート、一体誰が本命なのか見当もつきません。四女はデヴィッドという広東語を話す青年とつきあっているようで、安心していたらこの人がインド系の人だった、と、自分の家と同じように英語を母語とするシンガポール華人の婿を臨んでいたお母さんには次々と心配事が。そんな中、キャセイ80周年の記念行事が開かれることになり....。

葛蘭の映画の一部がたくさん使われ、また記念行事には葛蘭ご本人(何と82歳!まだまだおきれいでした)がビデオメッセージで出演するなど、キャセイ映画のファンには大サービスの内容になっています。冒頭、陸運濤(ロク・ワントー)というキャセイ全盛期の社長や、そのあとを継いだ朱國良(チュー・コクリョン)らへの献辞が出てくるのですが、80周年場面では今の社長メイリーン・チューも出演(多分ご本人だと思います)、本筋以外の部分でも大いに楽しめる作品です。予告編はこちらです。

OUR SISTER MAMBO IN SG CINEMAS 15 JULY 2015

一方本筋の方でも、英語が中心なのですが、広東語、普通話、福建語、マレー語、韓国語まで使われている日常会話など、マルチリンガルな暮らしを見ることができますし、さらに、金儲けだけがすべてではない、自分の好きなことをしてこその人生、というマンボの生き方も肯定的に描かれていて、とってもさわやかです。また、彼女を支持し、いつもポジティブなものの考え方で一家をなごませていくお父さんも魅力的。エンディングにはミュージカル・シーンも出てきて、大満足の1本でした。日本での公開は難しいと思いますが、シンガポール映画上映特集とかがあれば、ぜひ入れたい作品です。


これを見たのは、シネコンだけの建物と言っていいキャセイ・オーチャードという映画館(上の写真)。GV(ゴールデン・ヴィレッジ)や、ショウ・ブラザースという他の映画興行チェーンとも競いながら、キャセイは今後もシンガポールの映画シーンに大きな足跡を残していくに違いありません。いろいろ大変なことが多かったシンガポール滞在ですが(物価がすごく高くなっているのも痛かった。映画は平日夜や休日だと12.5シンガポールドル(約1,100円)も取られ、また5.6キロの小包を船便で送ったら80シンガポールドル(約7,000円)もかかった!)、宝くじがあたったら(笑)もうちょっといいホテルに泊まって、また魅力を満喫したい街ではあります。



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4 コメント

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すばらしい! (せんきち)
2015-08-19 15:49:37
こんにちは。
予告編を拝見して、思わず拍手してしまいました。
暮れにシンガポールに行きたいと思っているので、その頃にはDVDが出ていないかなあと願っています。
返信する
せんきち様 (cinetama)
2015-08-19 20:14:07
早速のコメント、ありがとうございました。

せんきちさんがご覧になったら、もっともっと細かいところまで楽しんでいただけると思います。
お父さんはキャセイの博物館の責任者という設定にもなっていて、あのギャラリーで北京語映画からマリア・メナードの『ポンティアナック』まで、いろいろ解説してくれます。

暮れにシンガポールにいらした時にDVDが出ていたら、私のお買い物代行もぜひお願いします。私もDVDで保存しておきたい作品です。
返信する
Unknown (maiko)
2015-08-21 11:20:50
葛蘭ご本人ですと!
大ファンなので見たいです!
返信する
maiko様 (cinetama)
2015-08-22 00:14:08
コメント、ありがとうございました。

そーなんですよ、ご本人が長々と話されるのですが、彼女のビデオメッセージだけを写しているわけにもいかないせいか、画面が切り替わったりするのでちと残念です。

もう一人のご本人かと思ったメイリーン・チュー女史ですが、こちらは俳優さんが扮していたようで、下のメイキングにご本人が出てきます。
https://www.youtube.com/watch?v=ikKq4Mav6fA

そういえば、女強人のメイリーン・チュー女史にしては、ちょっとやさしい感じすぎだったかな....。

葛蘭のビデオメッセージ、DVDの特典映像でフルに入ってたりすると嬉しいんですが。
どなたかキャセイに進言しておいて下さいませ。
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