今日六本木ヒルズに行ったら、ヒルズはもうすっかりTIFF仕様に変身していました。いつものグリーンの地球が所狭しと躍っています。植え込みには、グリーン地球の旗と共に何やらかぼちゃ色の旗が。ハロウィーンの旗かな? と思って見たら、「Cinema October in Roppongi Hills」の旗でした。「ヒルズの映画祭へようこそ」の旗が、グリーンTIFFの旗と一緒に皆さんを迎えてくれます。東日本大震災のあった今年のTIFF、こんな時だからこそ映画と一緒に泣き、笑い、感動して、元気になりたいですね。
さて今日は、TIFFの試写ではなく、配給会社の行っている試写で、韓国映画『哀しき獣』を見てきました。この作品も、TIFF<アジアの風>部門で上映されます。映画のデータは下の通りですが、結論から先に言ってしまうと、ものすご~い力作でした、しかも私好みの。「座席の背もたれに体を押しつけられる」という感じ、久々に味わいました。あれ? 前回それを味わったのは、同じナ・ホンジン監督の『チェイサー』 (2008)だったかも。しかも、主演も同じくハ・ジョンウとキム・ユンソク。現在の韓国映画界で、最強のトリオです。
2010年/韓国/カラー/シネマスコープ/140分/原題:ファンヘ(黄海)/The Yellow Sea
監督・脚本:ナ・ホンジン
キャスト:ハ・ジョンウ=グナム(中国延辺朝鮮族自治州延吉のタクシー運転手)
キム・ユンソク=ミョン(延吉の犬ブローカー。裏の顔はヤクザのボス)
チョ・ソンハ=キム・テウォン(ソウルのバス会社社長)
提供:クロックワークス、ハピネット
配給:クロックワークス
2012年1月7日全国ロードショー(シネマート新宿、横浜ブルク13、TOHOシネマズ川崎、伏見ミリオン座、シネマート心斎橋、梅田ブルク7、T.ジョイ京都、TOHOシネマズ西宮OS、ディノスシネマズ札幌劇場、T.ジョイ博多)
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物語は、中国の延吉から始まります。幼い娘を実家の母に預けて働くタクシー運転手のグナム。妻は韓国に出稼ぎに行ったまま、送金も音信も途絶えてしまったのですが、彼女が韓国に行く時の莫大な借金が残り、グナムはヤクザの取り立てに責められる日々を送っています。そんな時、ヤクザの紹介で犬ブローカーのミョンと出会ったグナムは、ソウルに行って人を1人殺してくれば借金を帳消しに出来る報酬をやると持ちかけられます。「奥さんにも会ってくればいい」の一言に背中を押され、黄海(ファンへ)を渡って韓国に密入国するグナム。しかし、そこに待ち受けていたのは、とんでもない罠でした...。
映画は、1.タクシー運転手、2.殺人者、3.朝鮮族、4.黄海、の4部に分かれ、どのパートでも緊迫感溢れるストーリーと映像が展開していきます。脚本がとても緻密に出来ていて、小さなご都合主義はあるものの(例えば、盗んで逃走用に使う車がどれもロックされていなかった、とか)、人物の性格描写もしっかり盛り込んだ厚みのある脚本が映画をがっちりと支えています。
映像処理も、『チェイサー』の色を抑えた画面処理は継続しているものの、さらにカットの切り替わりがスピーディーになり、アクション・シーンの迫力が倍増しました。『チェイサー』と同じく主人公たちが疾走するシーンがよく登場するのですが、その撮り方のうまさに、見ていてこちらも心拍数がどんどん上がるぐらい画面に引き込まれます。後半には凄惨な殺しの現場がこれでもか、というぐらい登場しますが、それすらもよく計算された演出になっていて、監督の力量にうならされました。
そして、この脚本や演出の冴えにさらなる輝きを加えているのが、出演者たちの演技。ハ・ジョンウとキム・ユンソクはもちろんですが、裏の顔を持つ社長役のチョ・ソンハから、山ほど出てくるヤクザやチンピラ役の人まで、何かが乗り移ったかのような入魂の演技です。やっぱりすごいな~、韓国映画界。
個人的に嬉しかったのは、キム・ユンソクの演じるミョンが、ただのヤクザのボスではなく、バケモノであること。このボス、子分ども以上に肉体派で、とてつもない動物的カンを持っているのです。キム・ユンソク、チェ・ミンシクに並ぶ、というコピーが脳内を駆け巡り、手に汗握って彼の活躍を見ていました。
まだほとんどの作品を見てないというのに、「この映画、今年のTIFFの個人的ベストワンかも...」と思い始めています。TIFFでの上映は1回きりですが、公開されたらぜひご覧になってみて下さいね。上記のように全国一斉ロードショーなので、お近くの映画館でどうぞ。