TIFF前日の今日は、コンペ作品の香港=中国映画『夢遊 スリープウォーカー』と、<アジアの風>部門のシンガポール映画『TATSUMI』の試写を見て来ました。そのうちの、ユニークなアニメーション映画『TATSUMI』のご紹介をちょっと。
タイトルになっている「TATSUMI」とは、漫画家の辰巳ヨシヒロのことです。辰巳ヨシヒロは1935年生まれなので現在76歳。私たちの世代にとっては貸本屋マンガの描き手としてのイメージが強く、その後いろんな大人向け漫画雑誌で彼の作品を目にすることになります。日本では読者が限られている辰巳ヨシヒロですが、海外では早くから評価され、彼の作品のいくつかが英語、フランス語、スペイン語等に訳されて、人気なのだとか。今回の映画を作ったシンガポールの監督エリック・クーも、彼の作品に触れて感動し、さらにご本人に会ってすっかり心酔してしまってこの映画を作った、という経緯のようです。
『TATSUMI』
2010年/シンガポール/カラー/96分
監督:エリック・クー
出演・ナレーション:辰巳ヨシヒロ
声の出演:別所哲也、他
取り上げられた辰巳ヨシヒロ作品:「地獄」「いとしのモンキー」「男一発」「はいってます」「グッドバイ」他
予告編 メイキング 辰巳ヨシヒロ&エリック・クーへのインタビュー
映画は辰巳ヨシヒロ自身の語りで始まり、彼の歩んできた道を追う形で話が進んでいきます。尊敬する手塚治虫のこと、その追悼式に出席する自分、幼い頃の兄”おきちゃん”(漫画家で出版社を経営する桜井昌一)とのやり取り等々、辰巳ヨシヒロの過去と現在が彼の絵によるアニメーションで展開していきます。
この自伝アニメの合間に、彼の作品をアニメ化した映像が上記5作品を中心に散りばめられているという、辰巳ファンにとってはこの上なく贅沢な作品なのですが、作品部分も含めた主人公6人の声が全部別所哲也によって吹き替えられている、というのも話題です。そして最後に、制作中の辰巳ヨシヒロの実写映像が出てきて、これまで目にしたあのユニークな線が描かれる現場が、少しだけですが見られます。まさに、辰巳ヨシヒロ一代記であり、彼の作品のショーケースともなっているアニメーションです。
私は原作の漫画はいずれも読んでいないのですが、かなり忠実なアニメ化だという話を聞きました。それだけに、辰巳ヨシヒロの漫画そのままでしかない、という辛口批評もあるものの、私が見た限りでは作品アニメは「劇画」(この用語も辰巳ヨシヒロが名付け親だとか)風味が薄れ、とても見やすいものになっている感じを受けました。きわどいシーンもありますが、暗さがなく、キレイにアニメ処理されている、という感じです。これはエリック・クー監督の、辰巳作品への崇拝の念がそうさせたのでしょうか。
このアニメーションに対して辰巳ヨシヒロはインタビューの中で、「とても気に入った。この作品が完成したことを、監督と世界中の神様に感謝している」と述べています。それというのも、辰巳ヨシヒロ作品を映画化したいという話は20年ぐらい前からあったそうで、それも日本からではなく、ハリウッド等欧米からのオファーがたくさん来ていたのだとか。でも、どの話も途中で立ち消えになり、従って今度のエリック・クー作品も、完成するとは全然期待していなかったそうです。
『TATSUMI』は今年のカンヌ国際映画祭の<ある視点>部門でも上映されましたが、それからもわかるように、欧米での関心は高く、ザ・マッチ・ファクトリー社が世界配給を担当しています。ただ、残念ながら日本では、公開がまだ全然決まっていないとのこと。この映画を記念して、映画で取り上げられた作品を集めた「TATSUMI」という本も青林工藝社から出版されていますし、ユニークな試みのアニメ映画としても話題になるのではないでしょうか。TIFF上映の間に、配給が決まることを願っています。
TATSUMI | |
辰巳 ヨシヒロ | |
青林工藝舎 |
なお、エリック・クー監督はすでに来日して、10月23日(日)の舞台挨拶に備えているらしいです。この日は、辰巳ヨシヒロ、別所哲也らも登壇の予定。チケットをお持ちの方はお楽しみに。
それから、同じ日に上映がある『夢遊 スリープウォーカー』も、オキサイド・パン監督始め、主演女優の李心潔(アンジェリカ・リー)、楊采[女尼](チャーリー・ヤン)らが来日する予定。22日(土)のオープニングに続き、日曜日もTIFFは華やかになりそうですね。では、TIFF会場でお会いしましょう!
あと原作の「劇画漂流」はインドネシアでも翻訳されているのですが、何故かグラフィックノベル扱い。定価で1巻約1600円(全4巻)とこちらの物価ではかなり高いです。書店ではなかなか見つからず友人でもある訳者に問い合わせたところ、出版社には返品の山でたくさん在庫があるとのこと。日本の漫画はインドネシアでも大人気ですが、残念ながら歴史的に重要な漫画が紹介されてなかったり、あるいは一般的に認知されておらず、学術的な研究も遅れているのが現状のようです。
11月から12月にかけてはジャカルタ国際映画祭があるので、そこで上映されることを期待しています。
日比谷会場のシャンテのスクリーン1、
いや~、背もたれが低くてちょっとつらいですねえ明日もがんばります
中国映画週間で「赤い星の生まれ」を見ましたが、内容はまさに原題の「建党偉業」のとおり。私的にはいろんな有名俳優さんがわらわら出てくる前半だけで満足でした
「TATSUMI」は、去年10月に日本映画撮影監督協会主催の日・シンガポール映画人シンポで、エリック監督の講演の中で内容が少し上映されて、それで初めて知りました。辰巳ヨシヒロさんという漫画家を全然知らなかったので、ここまで熱を入れて自伝的映画まで作ってしまうファンの熱意ってすごいなあと思いましたが、逆に海外で知られている漫画家さんなんですね。
今回日程が重なっていて見られないのですが、日本の漫画家の話なんだから、日本で公開されてほしいですよね~
辰巳ヨシヒロの自伝「劇画漂流」もあげて下さってすみません。本作の自伝アニメは、この本を元にしている、というのを書き忘れてましたね。またご覧になったら、コメントをお寄せ下さい。
<中国映画週間>は時間がうまく合わず、かろうじて水曜日の「少年岳飛」だけ見られそう、という状態です。劇映画は全滅で残念至極。「雪花と秘文字の扇」とか、公開してほしいんですけどね~。
TIFFレポートを期待しております!