アジアのアクション映画最前線を伝える本が出版されました。タイトルは「激闘!アジアン・アクション映画大進撃」です。出版社が洋泉社、と聞けば「ああ、『映画秘宝』の」と肯かれる方も多いと思いますが、「洋泉社MOOK/映画秘宝ex」シリーズという秘宝系の衣をまといながらも、編者が夏目深雪、浦川留、岡本敦史の三氏なので別の広がりも期待させてくれていました。そして出来上がった本は・・・・映画よりも面白い!! ラインアップが充実している上に、ものすごく内容豊富、そして、この間『イップ・マン 継承』(2015)の紹介記事で力を入れてご紹介した張晉(マックス・チャン/下の表紙の左下)のインタビューまである! 読んでから個々の映画を見ても、映画を見てから読んでも面白い「激闘!アジアン・アクション映画大進撃」、本の詳しい情報はこちらをご覧下さい。
編者のうち夏目深雪さんは慶応大学の非常勤講師であり、私も編者の1人となった「インド映画完全ガイド」(世界文化社/2015)や「アジア映画の森」(作品社/2012)のほか、「アジア映画で<世界>を見る」(作品社/2013)、「アピチャッポン・ウィーラセタクン」(フィルムアート社/2016)等々の編者兼執筆者という、新進気鋭の編集者&ライターでもあります。映画や演劇の批評家としての仕事も多く、ネット上でもいろんな執筆記事が読めますが、そのお仕事は彼女のブログでよく紹介されているので、興味のある方はこちらをご参照下さい。(今回のご本は、夏目さんから頂戴しました。多謝晒!)
浦川留さんは、香港映画ファンならもうディープにお馴染みの人(知らない人は初心者かモグリと断言してよろしい)で、中国語圏のアクション映画、特に武侠映画にやらためったら詳しい人です。著作も多く、”宇宙最強”のアクションスター甄子丹(ドニー・イェン)の原稿を翻訳した「ドニー・イェン アクションブック」(キネマ旬報/2005/うわ~、アマゾン沼で10万円の値がついてる!)や、早稲田大学の岡崎由美先生との共著「武侠映画の快楽」(三修社/2006)などは、アジアのアクション映画を知るための必読文献です。私はもう20年来の顔見知りですが、ここ10年ほどはご自身も合気道に精進しており、ブログに「稽古」というタイトルで掲載される「師父(しーふー)」ネタは私の愛読記事の1つです。
岡本敦史さんは映画秘宝編集部に所属するライターで、「アジア映画の森」ではまだ大人しい(?)執筆ぶりだったのですが、今回の「激闘!アジアン・アクション映画大進撃」では編集の傍らいろんな原稿を書きまくって、八面六臂の大活躍。特に韓国映画の部分の熱量は圧倒的で、香港のアクション映画史に詳しい人として知られる知野二郎さん(韓国のアクション映画にもお詳しいことを今回知りました)との対談「知られざる70年代韓国アクション映画の世界」は、アジアのアクション映画ファンなら必読です。
岡本さんはこの本の中で、「インド・アクションの新潮流(ニューウェイブ)--肉体美よりも格闘美を!」という文も書いておられるのですが、そこで本格派アクション俳優としてイチオシされているのが、上にポスター画像を付けた(我が家に貼って撮った写真なので、シワがあってスミマセン)『Baaghi(反逆者)』(2016)のタイガー・シュロフ。さらに、『Commando: A One Man Army(コマンド:たった1人の軍隊)』(2013)と『Commando 2: The Black Money Trail(コマンド2:ブラックマネー追跡)』(2017/下写真)のヴィドゥユト・ジャームワールの名前も挙がっており、インド映画のアクションについてもまとまったものが読めます。残念ながら字数の関係か、南インド映画に関してはラジニカーントと『バーフバリ』以外ほとんど触れられていないのですが、華麗な蹴りを見せるダヌシュ始め、タミル語映画やテルグ語映画のアクションが得意なスターたちについても、いつか書いて下さることを願っています。インドの場合、ごく最近までジャンル映画が存在しなかったため、「アクション映画」というジャンルが定着するまでにはまだまだ長い年月がかかると思いますが、映画のラサ(潤い=娯楽要素)としては欠かせないアクションの設計は、『バーフバリ 伝説誕生』(2015)を見てもわかるようにますます重要になってきています。そのうち、インド版チョン・ドゥホンのような人が生まれてくるかも知れません。
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それから、この本の出版を記念して、5月3日(水・休)夜には新宿のイベントスペースで「『映画秘宝EX 激闘!アジアン・アクション映画大進撃』刊行記念 打ち上げトークライブ!」という催しが行われました。2部制となったこの催しは、第1部が「アジアン・アクション宣伝死闘篇」で、宣伝会社フリーマン・オフィスの社長筒井修さんをメインゲストに、岡本敦史さんとライターの藤本洋輔さんがお話を聞く、というもの。また第2部は、「アジアン・アクション女子部」で、前述の夏目深雪さん、浦川留さんに加えて、本の中で「知られざる台湾女性アクション映画の世界」という興味深い文を書いておられる結城らんなさんが登壇し、女子トークを炸裂させるというものでした。
女子トークの中心は、やはりドニー・イェンでしたが、そう言えば私はどの作品で一番最初にドニーさんを見たんだっけ、と考えたらこの作品↑『タイガー刑事』(1988)でした(上の画像は、「銀色世界」1988年7月号より)。香港で見たのだと思いますが、途中で死んでしまうドニー・イェンと、ラストの張學友(ジャッキー・チョン)と鄭裕玲(ドゥドゥ・チェン)の見事な連係プレー・アクションがすごく印象に残り、その後『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ(略称:ワンチャイ) 天地大乱』(1992)の敵役でドニーさんが登場した時は、「あの時の人が大化けした!」と思ったものでした。女子トークはなかなかシビアで、「笑顔がかわいい」「でも、あんまり笑うと歯が出る(笑)」とか、さすがのドニーさんもたじたじのコメント続出。浦川さんが探し出してくれた「ダンシング・ドニー」の映像がとっても愉快でしたので、付けておきます。
DONNIE YEN Breakdance HD
報告が後先になりましたが、香港映画界に詳しいので我々が「ツツイ・ハーク」と呼んでいる筒井さんの数々のマル秘話は、1980年代・90年代が中心だったものの、当時の事情もわかってとても面白かったです。また、ジャッキー・チェン、徐克(ツイ・ハーク)、王羽(ジミー・ウォング)、茅瑛(アンジェラ・マオ)らのレア写真や映像を見せていただけたりもして、1980年代から現在に到るまでの日本における宣伝と公開の歴史の一端を知ることができました。フリーマン・オフィスは現在『バーフバリ 伝説誕生』の宣伝も担当しているため、岡本さんが何度か水を向けて下さったのですが、やはり現在進行形だとオフレコ話もしにくいらしく、めぼしいお話は出ずじまい。ただ、「『バーフバリ2』ですが、配給会社としては年内にできれば公開したい、と考えています」という情報はぽろっと漏れて、私は内心拍手パチパチ。配給会社のツインさん、今度は劇場を最低4週間はブッキングしてから公開してくださいね。
Making of Baahubali | S.S.Rajamouli | Prabhas | Anushka | Rana | Tamannaah - BW
『バーフバリ』はメイキングを見ているだけでも面白いので、スチールをいっぱいもらってメイキング本を作ってみたいなあ、と思う私。という野望を秘めて、上にメイキング映像の1つを貼り付けました。今回の『バーフバリ 伝説誕生』はいいスチールが本国からなかなか来なくて、宣伝のフリーマン・オフィスさんも苦慮なさったようですが、私は別途、タミル語版を配給したAPインターナショナルからもらったりもしたので、いろんなつてを頼ればもっと手に入るかも。てか、本国でメイキング本を作って、日本版翻訳をさせてほしい!
そういう野望を抱きつつ、これから『バーフバリ 伝説誕生』絶叫上映@丸の内TOEIに参戦してきます!