アジア映画巡礼

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ドキュメンタリー映画のチカラ①『インディペンデントリビング』

2020-01-19 | 日本映画

私はドキュメンタリー映画も好きで、結構見ています。先日も力作ドキュメンタリー映画を2本、続けて見せていただいたので、ご紹介しておこうと思います。撮られた場所も、登場する人たちもまったく違う作品なのですが、どちらも生きていくことの大変さと、生きていることの喜びを心に刻んでくれた作品でした。ではまずは、友人の鎌仲ひとみさんがプロデュースした作品『インディペンデントリビング』からどうぞ。

 

『インディペンデントリビング』 公式サイト
 2019/日本/98分/ドキュメンタリー/日本語字幕上映
 監督:田中悠輝
 プロデューサー:鎌仲ひとみ
 製作・配給:ぶんぶんフィルムズ
※大阪・第七藝術劇場で先行上映中/東京・ユーロスペースで3月14日(土)より公開、ほか全国順次公開

いつもなら、ストーリーの説明等をしてから最後に予告編を見ていただくのですが、今回の作品ではまずは予告編をお見せします。そして、登場する人たちとお馴染みになって下さい。

自立生活を選んだ障害者たち/映画『インディペンデント リビング』予告編

舞台は大阪。登場するのは3つの自立生活センターで、まず大阪市阿倍野区にある「NPO法人ムーブメント」の代表渕上賢治(フチケン)さんが、カッコいい電動車椅子で登場します。顔も雰囲気も坂上忍そっくり。「今でもあるやんか、テレビで。家族だけで介助してきて一家心中みたいなんなあ。そんなん、すごいもったいない」と言う渕上さんの言葉は、本編を見るとよーく意味がわかります。予告編ではほかに、お好み焼きを食べさせてもらう姿と、タバコをプカーとふかす姿が登場。えー、この人、ほんまに障害者なん? と思ってしまうのですが、ブイブイ言わせていたであろう若い頃にオートバイ事故に遭い、首から下が動かせない人なのです。「ムーブメント」からはほかに、茶パツの若者山下大希(たいき)くんとヘルパーの川崎悠司さんが登場。川崎さんはバンドをやっていて、その熱唱シーンが大迫力です。大希くんは脳性麻痺と知的障害があるとのことですが、フツーの若者と変わらぬ自立生活をするために、18歳までいた山の中の施設を出てきたところです。下の写真の左が大希くん、右が渕上さんです。

(C)ぶんぶんフィルムズ

南海電鉄住之江駅が写ったところからは、大阪市住之江区にある「夢宙センター」が紹介されます。くも膜下出血で高次脳機能障害と右半身麻痺、そして失語症がある車椅子の若者木下浩司郎(トリス)さんが、説明を受け部屋を借りて自立する姿や、このセンターを立ち上げた社長平下耕三さんが、骨格形成不全を発症した子供時代を述懐する姿が登場します。トリスさんは、コーディネーターの小角元哉(ペーター)さんから「何をやりたいの?」と聞かれて、「俳」とボードに書きます。それを見て「俳優になりたいんですか?!」とびっくりする小角さんですが、何と「その夢叶えたろか」になってしまう映画出演シーンも予告編に使われています。「いやー、社長ってなんか、ナニワ金融道の人みたいやなぁ」と思っていた平下社長は、劇中劇の映画にはヤクザの親分役で出演(ピッタリや!)、失語症を克服したトリスさんが「兄キ!」と叫んで殴られるシーンは、おかしくておかしくて、感動するはずが大笑い。兄貴分役は、「夢宙センター」のHPを調べたら、「生活介護すぺーすしゃとる」のスタッフ、はやぶさんのようでした(ユ・ヘジンにちょっと似てる)。ほかにも「夢宙」からは、アメリカ留学を果たす大橋ノア(ララ)さん、知的障害がある阿部明日香(あっすー)さんとそのお母さん、二人を見守る事務局長でシャルコー・マリー・トゥース病の内村恵美さんらも登場します。下の写真、左端がトリスさん、右端が平下社長、社長の左が小角さんです。

(C)ぶんぶんフィルムズ

あと、予告編には登場していないのですが、住之江区のちょっと南の泉大津市にある「NPO法人リアライズ」の代表三井孝夫さんや、重度の障害があって、ひと言もしゃべらない池本博保さん(ヒロくん)と、そのヘルパーの川端延昌さん(ノブくん)も登場します。ヒロくんは実家で、お母さん、そしてお姉さん一家と一緒に暮らしているのですが、幼い姪御さん達が「おっちゃん、好き~」という感じでじゃれつく姿がとてもかわいいです。ノブくんがヒロくんをお風呂に入れる姿を見て、こうやってヘルプするのか、と勉強になったりもします。見ているうちに、こちらも何かヘルプしたい、という気持ちになってしまう作品です。下が、お風呂タイムのヒロくんと介助のノブくんです。

(C)ぶんぶんフィルムズ

途中、ララさんが旅立つ関空での見送りシーンで、車椅子が邪魔だと言われたりするシーンもあるのですが、あとは街頭での訴えのシーンでも、夜の町を歩くというか車椅子でふらつくシーンでも、そこにいて当たり前、という感覚に映画を見ているうちになっていきます。特別な人たちという感覚が抜け落ちて、フツーにいる人たちと思え始めるのです。道路の段差とか階段とかで困っているシーンも出てきませんし、昔の思い出を平下社長が話す時に、家の中に引きこもらされていた渕上さんを外に出そうと渕上さんの家に日参したのだが、門から家の敷地への3段ほどの階段が大変で這って登った、という話が出てきた程度です。そのあっけらかんとした明るさ、あまりにも普通であることに、こちらの心もどんどん解放されていって、「私もお手伝いしに行きたいわ~」と思ってしまうこと請け合いです。下の写真は関空でみんなと別れるララさんなのですが、「泣かないでくださいね」と言われてララさん、「泣いてる人に言われたないわ(言われたくないわ)」と返して、関西人の面目躍如です。

(C)ぶんぶんフィルムズ

上記でリンクを張ったそれぞれのセンターのサイトには、「ヘルパーさん大募集」「重度訪問介護講座(2月)」等の案内があります。こんな人たちと一緒にお手伝いができたらとっても楽しそう、と思った方、ぜひお近くの自立生活センターとコンタクトしてみて下さいね。それとこの作品は、まだ自立生活センターと接触できていない障害者の人たちに、「こんなに面白い自立生活、やってみませんか?」と呼びかけるメッセージも内包しています。そのため、聴覚障害者用に日本語字幕が付いていて、予告編にもちゃんと付けてあります。ただ、出演者の皆さんが話すとおりの大阪弁で字幕が付けてあるので、関西出身の私にはすらすら読めてしまうのですが、他地域の方には大丈夫かな? かといって、標準日本語字幕だとこの面白さは伝わらないと思うし、ちょっと悩みどころですね。

(C)ぶんぶんフィルムズ

それから、視覚障害者向けには「音声ガイド/UDcast方式」と連動しているので、説明を聞きながら映画を感じてもらえます。公開される劇場はこちらですので、ご家族やお友達に障害者の方がいらしたら、ぜひお誘い下さい。車椅子の方は、ユーロスペースでご覧になる場合は予約ができるそうです。

C)ぶんぶんフィルムズ

こんな面白い映画を作ったのは、1991年生まれの新人監督田中悠輝(ゆうき)さん。数年間にわたり北九州市や東京の支援センターで働き、その後映画監督になった人で、東京でヘルパーをしていた時に、障害当事者の人から「僕らのこと撮ってよ」と言われたのが映画製作のきっかけになったとか。また、その人たちが映画の上映会を主催した時に、のちにプロデューサーとなる鎌仲ひとみさんと出会い、彼女の製作プロダクションぶんぶんフィルムズで映像製作の仕事にも関わりだしたのが、本作を作る転機となったようです。東京出身というのに大阪人のユーモア感覚もしっかり取り込んでいて感心したのですが、出演者の個性がうまく引き出されているシーンが集めてあって、見応えバリバリの作品になっています。上の写真では少々おっさん臭い(スミマセン)ですが、実際にはもっと青年らしい風貌の人です。

(C)ぶんぶんフィルムズ

そして、プロデューサーの鎌仲ひとみさん。彼女とはアジアつながりで昔から知っているのですが、彼女がまだ大学生だった時、卒業したら映像製作の道に入りたい、というので、私たちが以前一緒に「インド映画祭1983」を開催した映像プロダクションに紹介したのが、彼女のドキュメンタリー映画監督への第一歩となりました。当初、バリ島で映画を撮っていた鎌仲さんは、その後原子力問題などに関心を広げ、2003年に『ヒバクシャ-世界の終わりに』で注目を集めます。そして、2006年の『六ヶ所村ラプソディー』に続き、2010年に撮った『ミツバチの羽音と地球の回転』が、2011年の3.11による原発事故で大きく関心を集めて話題になりました。その後も『小さき声のカノン』(2015)など作品を作り続けていますが、今回はプロデューサーとして、本作を多くの人に届けるべく東奔西走しています。


(C)ぶんぶんフィルムズ

もし、上映をご希望の劇場さんがおいでになりましたら、ぶんぶんフィルムズまでご連絡下さい。特に関西の劇場さん、こんなようでけたオモロイ作品、上映せなんだらホンマ損ですよ~。皆様もご友人やご家族とお誘いあわせのうえ、ぜひ劇場でご覧下さいね。

 


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