アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

TIFF2017:私のDAY4(その1)

2017-10-31 | 日本映画

本日は、素晴らしい作品を見ることができました。日本映画なのですが、TIFFラインアップ紹介時に「主演はミャンマー人」と注記しておいた『僕の帰る場所』です。11月1日(水)の午後1時30分から2回目の上映がありますので、皆様にぜひ見ていただきたいと思い、取り急ぎご紹介をアップするものです。TIFFの作品紹介はこちらです。まだ少しですがチケットが残っているようなので、明日ご覧になりたい作品をまだ決めてらっしゃらない方はぜひこの作品をお選び下さい。年休を取って見に行っても、見る価値のある作品です。監督とゲスト(主演の一家4人)によるQ&Aも予定されていますので、あっと驚くようなお話も聞けるかも、です。 

『僕の帰る場所』 公式サイト 
 2017/日本/日本語・ビルマ語/105分/英題:Passage of Life
 監督:藤元明緒
 主演:カウンミャットゥ、ケインミャットゥ、アイセ、テッミャッナイン

© E.x.N K.K.

主人公は、日本に滞在して難民申請をしているビルマ人一家の、夫婦と小学生の息子カウン君と幼稚園児の息子テッ君。ママが精神科のお医者さんと話しているシーンから映画は始まり、パパの帰りを待ちわびる3人の姿を映していきます。難民申請がなかなか認められないのでママは精神を病みつつあり、カウン君やテッ君も行動や言動が乱暴になったりと、一家はかなり追い詰められています。いつも笑顔で妻や子供たちと接するパパでさえ、申請に向けてのヒアリングで「故国において、身の危険を感じた、という証拠は何かありますか?」などと聞かれると、ついイラッとしてしまいます。日本人の協力者もいるのですが、入管の抜き打ち調査員が自宅にやってきたり、励まし合ってきた仲間が「国に帰ることにした」と言ったりするのを聞くと、不安は増す一方でした。その不安に押しつぶされそうになったママは...。



見始めた時、あれ、ドキュメンタリー映画だったっけ? と思ってしまったほど、ドグマ95的な撮り方(手持ちカメラ、自然光など)で全編が推移します。一家4人や他の出演者たちも本名で出演しているようで、演技を感じさせるものが全然ありません。途中で、パパの勤務先のレストラン・シーンに登場する店長と、難民申請の書類の受け渡しをする市役所窓口の女性が「この人、役者さんだ」とわかる演技をしていて、やっぱり劇映画なんだ、と認識させてくれましたが、主人公たちのシーンは本当にドキュメントそのものでした。とはいえ、ハッと気付くと、撮り方やカットの重ね方もドキュメンタリーではこうは行かないはず、と思うところがあり、見ていて不思議な気分でした。

© E.x.N K.K.

そういうことがチラチラ頭をよぎったものの、映画にはシーン2で子供たちが登場した時から一挙に引き込まれ、一体どういう状況なんだろう、難民申請が通ってハッピーエンドで終わるのかしら、とか、登場人物の知人になったような気分で最後まで引っ張って行かれました。ミャンマー(実は私は当時の軍事政権が決めたこの国名を使うのに抵抗があり、本当は「ビルマ」を使いたいのですが、この搞では「ビルマ語」以外は固執しないことにします)から、軍事政権の弾圧を逃れて多くの人が日本にやって来ていますが、入管側は単なる経済難民だと断定してしまうことが多いようです。主人公一家も下のテッ君が生まれたあと日本にやって来た、という設定になっているので、軍事政権の末期、2012年頃に来日した難民一家と考えてよいようです。難民認定を受けるためにはお役所に申請書を提出するのですが、提出後は仮滞在許可が得られるものの、「仮滞在」なので就労は禁止となっていることも初めて知りました。。本作の中で、一家のもとを抜き打ち検査に訪れた入管の職員が「あなた、〇〇で働いているよね」と問い詰める場面があり、あとで調べてみたところ、就労禁止だとわかったのです。それで、どうやって生活していけと言うのだ、というのが、難民として日本にやってきた人々の正直な気持ちでしょう。


本作は実話に基づいているとのことですが、物語にググーッと引き込まれたのも、主人公一家のあまりにもリアルな姿によるところが大きいです。ディテールも大切にしてある神経の行き届いた脚本は藤元明緒監督(上写真)の手になるもので、前述のように我々の知らない様々なことも教えてくれます。さらに、出演者はほどんどが素人の人だと思うのですが、前述したように日本人俳優たちの演技が異質に思えるぐらい、リアルなのです。特に子供たちの、演技には到底見えない表情やセリフが大きな魅力を発揮していて、観客の目をスクリーンに釘付けにしてくれます。アッバース・キアロスタミ監督の『友だちのうちはどこ?』の演出や、韓国映画『わたしたち』の演出とはまた違う、不思議で素晴らしい演出でした。


プレス上映が終わった時、会場入り口には藤元明緒監督ほか何人かのスタッフ・キャストがいらしていて、チラシを配って下さっていました。監督にちょっとお聞きしたところ、しっかりした脚本を書いて撮影に入ったそうで、どんな風な演出がなされてあそこまでのリアリティが出せたのか、出演者の皆さんに聞いてみたいところです。配給会社がまだ決まっていないのでは、と思いますが、この上映後いろんな方からの賛辞を聞いたので、どこかがきっとお声を掛けておられることでしょう。主人公一家以外の脇の人たちも、在日ミャンマー人の子供たちにマンションの自室でビルマ語を教えている女性や、カウン君のクラスメートや先生など、魅力的な人がいっぱい登場します。教室でカウン君が涙を流すシーンがあるのですが、今書いていてあのシーンを思い出し、また涙が出てしまいました。ミャンマー人に対しても、日本人に対しても公平な視点が貫かれており、それが今の日本とミャンマーの姿を鋭く切り取ってくれる要因にもなっています。セリフの一つ一つが心に刺さってくる思いのする『僕の帰る場所』、どうぞお見逃しなく。


<追記@2017.11.16>もうご承知かと思いますが、『僕の帰る場所』は第30回東京国際映画祭で、「アジアの未来 作品賞」ならびに「国際交流基金アジアセンター特別賞」を受賞しました。その後、藤元明緒監督にお願いして画像を正式にいただきましたので、今回差し替えました。これで2枚目の写真もハッキリ見ていただけると思いますが、これからもおわかりのように、物語の最後の部分はミャンマーで進行します。本作の日本での公開が待ち望まれるところですが、しばらくは海外の映画祭を回ることになるようです。藤元監督のメールによると、「作品が認められとても嬉しいです。今後、スタッフの想いとしては、主人公のカウン君に賞をあげたいので、次の海外映画祭にも頑張って応募していきます!(彼のアクションはアドリブではなくほとんどが脚本通りなので、あれだけ脚本と演出指示を理解できる6歳児もそうそういないと思っています)」だそうで、そのうち「〇〇国際映画祭で『僕の帰る場所』が主演男優賞受賞!」というニュースが飛び込んでくるかも知れませんね。来年には、日本国内での公開が実現するよう、お祈りしています。


 


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