11月9日(木)に台北から戻りました。台北発午後4時20分という便だったため、その日の午前10時半から、1本映画を見てくることができました。金馬国際影展に出ている許鞍華(アン・ホイ)監督の『名月幾時有』です。会場は、今回初めての日新威秀影城で、前にこの映画館の写真(↓)を出しましたが、IMAXの超巨大画面でアン・ホイ作品を見ることになりました。座席はかなり傾斜がある階段状で、従って画面がとっても見やすく、割と下の方の席だったため大迫力でした。ここで『バーフバリ』を見たら、あまりの大迫力にショック死するかも、と思ったりしました(^^)。
『名月幾時有』は、現代の香港の、モノクロ映像から始まります。今はタクシーの運転手をしている老年の男(梁家輝/レオン・カーフェイ)が、自分は戦争期に子供ながら抗日の遊撃隊に参加した、という話をしていき、やがて画面がカラーになって、1941年末の香港へと移っていきます。物語の主人公は学校の先生である26歳の女性方蘭(周迅/ジョウ・シュン)で、母親(葉徳嫺/ディニー・イップ)と住む家に、中国大陸から香港に逃れた作家茅盾(郭濤/グォ・タォ)夫妻が下宿するようになったため、徐々に茅盾こと沈徳鴻の影響を受けていきます。当時香港には茅盾のほか、鄒韜奮や夏衍が潜伏しており、彼らを守り抗日運動を行う母体として「廣東人民抗日遊撃隊東江縦隊」が結成されていました。その中心となって神出鬼没の活躍をしたのが、まだ25歳ぐらいだった劉黒仔(彭于晏/エディ・ポン)でした。
香港の街には日本兵が溢れ、人々は食糧を手に入れるのも容易ではなくなっていきます。学校は閉鎖されていたため、方蘭はすることもなく日々を送っていましたが、同僚でボーイフレンドの李錦榮(霍建華/ウォレス・フォ)の求婚にはすなおにイエスと言えず、やがて2人は別れてしまいます。そんな時方蘭は茅盾らを香港の外に逃がす手伝いをし、黒仔と知り合います。一方錦榮は日本軍の憲兵隊本部に勤務するようになり、その漢詩に関する知識を山口大佐に気に入られ、親しく付き合うようになりました。しかし、実は錦榮は日本軍の内情を探るために、憲兵隊に入り込んでいたのでした。方蘭は遊撃隊に加わり、家を出て新界に暮らすようになります。そこにいたのがかつての教え子の少年で、彼こそこの物語をアン・ホイ監督に語ってくれたタクシー運転手でした...。
周迅 彭于晏 霍建華【明月幾時有】首波預告(粵語)
アン・ホイ監督は、前作『黄金時代』(2014/TIFFで上映)では、日中戦争時代に生きた女性作家䔥紅(シャオ・ホン)を主人公に、ちょうど今回の作品に描かれた時代の直前を描きましたが、今のところ1930・40年代がアン・ホイ監督の一番の関心事のようです。今回も様々に時代考証が重ねられているようで、香港人や中国人の描写は細かいところまで行き届いている印象を受けました。ところが、日本軍人が出て来た途端、すべてが茶番になってしまいます。だらしない軍服姿、珍妙な日本語や振る舞いなど、アン・ホイ監督ですらこの程度の認識なのか、と嘆きたくなりました。永瀬正敏も、長い髪に、何やら珍妙な通過儀礼で父親に付けられた傷痕など、「それはないだろう」点が目立ちます。さらに、軍人やそのほかの日本人がクラブのような所で酒を飲むシーンでは、これまた実に珍妙なキモノ姿と島田髷のようなカツラをかぶった女性が何人も出現、がっかりしてしまいました。
【明月幾時有】 終極版預告 7/7再見月光
もう一つ、予告編を付けておきましたが、さすがアン・ホイ監督、と思ったのは、出演者が豪華なこと。前述の俳優以外にも、『生きていく日々』(2008)の鮑起静(パウ・ヘイチン)や、お久しぶり!の李燦森(サム・リー)に呂良偉(レイ・ロイ)等、出番は短いのですが、強く印象に残りました。でも、アン・ホイ監督、次はぜひまた現代香港に舞台を戻して下さいませ。
このほか、11月8日には、街の映画館で2本映画を見ました。1本目は甄子丹(ドニー・イェン)が1960年代の暗黒街のボス「跛豪」こと伍世豪に扮し、一方劉徳華(アンディ・ラウ)がかつて演じたこともある警察署長雷洛(リー・ロック)に扮する『追龍』です。王晶(ウォン・チン)とあと2人の共同監督作品なのですが、かなりの力作で、香港の60年代になぜ汚職が横行したのかをわかりやすく見せてくれていました。主役の2人以外の出演者も豪華で、特にアンディ・ラウや梁朝偉(トニー・レオン)と共に昔「無線五虎将」と呼ばれた湯鎮業に黄日華も出ていたのは懐かしかったです。アンディもですが、皆さん年を取りましたねー。下が予告編です。そうそう、なぜか上映されたのは広東語版でした。
9.29【追龍】終極預告 梟雄篇
2本目は、林育賢(リン・ユゥシエン)監督と郭樂興監督によるドキュメンタリー『翻滾吧!男人』。これは、日本でも公開されて評判になったリン・ユゥシエン監督の『ジャンプ!ボーイズ(翻滾吧!男孩)』(2005)の続編で、あの体操少年たちの10年後を撮ろうと当時から考えていた企画を実現させたものです。実はちょっとドジをしまして、映画の後半だけしか見られなかったのですが、中心人物は、当時同じクラスで仲良しだった2人、「市場っ子」李智凱(リー・チーカイ)と「ハッタリ君」黄克強(ホアン・クーチャン)です。李智凱はリオ・オリンピックに出るまでになりますが、その直前に足首をケガし、手術を余儀なくされます。オリンピックでは活躍できなかったものの、彼の鞍馬は実に見事で、今年台湾で開催されたユバーシアード大会で見事金メダルを獲得、リン・ユゥシエン監督の兄でずっとコーチをしてきた林育信(リン・ユゥシン)コーチを感激させます。一方、大学で日本人コーチの濱田氏に鍛えられている黄克強は、昔から変わらぬ明るい性格の自信屋ですが、彼にも体調の変化が襲います...。前作を知っている人間には面白く、また感激する作品なのですが、前作のような新鮮な驚きはなく、平易なドキュメンタリーという感じでした。予告編を付けておきます。
《翻滾吧!男人》正式預告 網路版
映画もいっぱい見られた満足の台湾旅行、さて、次はいつお邪魔できるでしょうね...。