アジア映画巡礼

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韓国映画の実力派俳優シリーズ第2弾『THE KING ザ・キング』

2018-03-03 | 韓国映画

第2弾は「検事ノワール」映画とも言うべき『THE KING ザ・キング』です。日本でも検事が主役になる映画やドラマが存在しますが、韓国の検事(韓国語では「コムサ」)はそれはもう、映画の中にひんぱんに登場します。有名なのは『公共の敵2』(2005)でソル・ギョングが演じた検事カン・チョルジュンですが、ほかにも挙げれば長いリストができそうです。その中には、正義の味方だけではなく、ワルもいっぱい。彼らは検事の職務に忠実なだけなのですが、その職務が清濁併せのむやり方でないと遂行できないうえ、出世欲、権利欲を追求していくとたちまち悪の側に分類されてしまう世界に足を踏み入れざるを得ない、というわけです。そんな映画を私は密かに「コムサ(検事)ノワール」と呼んでいるのですが、その極めつけが登場しました。昨年の韓国映画観客動員数で第6位になった『THE KING ザ・キング』です。まずは映画のデータをどうぞ。

 

(C)2017 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & WOOJOO FILM All Rights Reserved.

『THE KING ザ・キング』公式サイト
(2017/韓国/韓国語/134分/原題:더킹)
 監督:ハン・ジェリム
 主演:チョ・インソン、チョン・ウソン、ペ・ソンウ、リュ・ジュンヨル
 配給:ツイン
3月10日(土)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー

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トップシーンでは、激しい雨の中、3人の男が車を走らせながら与太話をしている姿が映し出されます。中心になっているのは部長検事のハン・ガンシク(チョン・ウソン)で、「安東の河回仮面のように笑え」(慶尚道安東の河回村の仮面劇で使われる仮面は、多くが笑い顔だったり微笑んだりしているのだとか)と独特の持論を展開しています。ヨイショしながらそのお説を承っているのは、部下の検事ヤン・ドンチョル(ペ・ソンウ)、そして元部下だったパク・テス(チョ・インソン)です。と、突然雨の中で車はスピンし、衝突事故を起こします。衝撃を受けたテスの頭の中で、過去の出来事がよみがえります...。

テスが検事になろうと決心したのは、いっぱしの不良だった高校時代でした。窃盗を繰り返すどうしようもない父親が捕まり、検事に偉そうに責められている惨めな姿を目にした時、検事こそがテッペンだ、とテスの頭に刷り込まれてしまったのです。必死で勉強し、あこがれの検事になれたテスは地方都市で検事生活をスタートさせ、やがて金持ちの娘でテレビ局勤めのサンヒ(キム・アジュン)とも結婚、ソウルへの転勤も実現して、順風満帆の生活を送るようになります。テスをソウルに呼び戻してくれたのは先輩検事のドンチョルでしたが、彼らの上に立つ部長検事ガンシクはテスが想像もできない世界に住んでいました。時あたかも1980年代の後半、民主化の波が押し寄せようとしていた時で、政権も全斗煥(チョン・ドゥファン)から慮泰愚(ノ・テウ)に代わり、さらに90年代に入ると民主派の金泳三(キム・ヨンサム)が登場しようという時でした。そして、政権交代にまで、ガンシクを始めとする検事たちの手が及んでいたのです...。

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まさに伏魔殿とも言うべき韓国の検察庁の姿が、多少の(かなりの?)誇張を交えながら描かれるのが本作の見どころです。日本のテレビドラマ「HERO」のキムタクみたいな検事は一人もおらず、みんなビシッと背広姿を決め、全身これ権力のかたまりみたいなオーラを放っています。中でも部長検事ガンシクのご威光はすさまじく、ペントハウスにある秘密クラブにテスが連れて行ってもらうと、そこはシャンペンタワーも違和感のない高級クラブの世界でした。そこで踊り狂うガンシクのカッコ良さは、『THE KING サ・キング』最大のハイライトシーンです。これをチョン・ウソンがやるのですからたまりません。まったく、『アシュラ』(2016)の薄汚い刑事とは180度違った、しかしながらなぜか共通する臭いを漂わせたチョン・ウソン、毎年毎年、チャレンジングな役柄を選び取って驚かせてくれます。今回はさらに、漫画チックなコミカル演技も随所で見せており、演技の幅がどんどん広がってきているようです。間もなく45歳、実力派に生まれ変わる瞬間を本作で目撃することができます。

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一方、主役と言うべきチョ・インソンも目を見張らせてくれます。36歳なのに私服の高校生(その頃はまだ、韓国の高校では制服がなかったそうです)を演じても違和感なく、検察庁入庁後は少しずつ年齢を重ねていく姿を髪型の変化と共に、若さ→落ち着き→ふてぶてしさ、と演じ分け、最後の反撃へとつなげていきます。『霜花店(サンファジョム)』(2008)以来映画出演がなかったチョ・インソンですが、『卑劣な街』(2006)を凌ぐ演技を見せてくれていて、チョン・ウソンに負けていません。今後は映画出演が増えるのでは、と期待できます。

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そして注目は、テスの高校時代のライバルを演じたリュ・ジュンヨル(上写真左)。『タクシー運転手』の所でもご紹介しましたが、あの映画のノンポリ大学生とは全く違う、高校を出た後ヤクザとなるチェ・ドゥイル役です。『THE KING ザ・キング』は実は検察庁の話だけでなく、検察庁と表裏一体関係にあるヤクザの世界も描かれます。木浦(モッポ)の暴力団「野犬派」がその核となる存在で、ボスに信頼されているのがドゥイルなのですが、ドゥイルはテスには「汚い仕事は全部俺がやってやる」と言い、事実その通りのことをやってのけてくれます。ちょうど検察庁を闇色に塗り込めたようなヤクザの世界が登場することで、両者の関係が重層的に見えてきて、「検事ノワール」がより強固なものになる、というわけです。このあたりの面白さも、ぜひ楽しんで下さい(とはいえ、「野犬派」のボスの敵を粉砕する手法はちょっと...ですが)。

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ほかにも個性的な脇役がいっぱい登場しますが、一番大きな脇役は時の大統領かも知れません。劇中にもドキュメンタリー映像が差し挟まれ、歴代の大統領が次々と映し出されます。マスコミ試写でいただいたプレスに書かれていた文章、秋月望「『ザ・キング』の時代を解析~韓国現代史」がそれぞれの時代の情勢や、映画の細かい背景まで解説してあって、とても参考になりました。劇場でのパンフにも掲載されていると思いますので、ぜひお読みになってみて下さい。韓国の観客たちはこういった情勢の中にこれまで身を浸してきたわけで、その時々の経験が本作によって呼び覚まされ、ヒットにつながったのでしょう。監督・脚本のハン・ジェリム監督は、これまでソン・ガンホを主演に据えて『優雅な世界』(2007)や『観相師ーかんそうしー』(2012)という、個性的な作品を撮ってきた人。『THE KING ザ・キング』にも発揮されている個性豊かな演出を、ぜひ劇場でお楽しみ下さい。公開は1週間後です!

韓国映画『ザ・キング』日本オリジナル予告動画解禁!



 


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