アジア映画巡礼

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『フェラーリの運ぶ夢』のキーワード

2015-02-15 | インド映画

今週末の2月21日(土)より、『女神は二度微笑む』と同時にもう1本のインド映画『フェラーリの運ぶ夢』も公開となります。1.公開初日に雪が降る、2.公開日がバッティングする、というジンクスを今年もしっかり守ったインド映画ですが(そんなの、守らなくてよろしい!)、幸い今週末はお天気もいいようなので、この2本、ぜひお楽しみ下さい。『女神は二度微笑む』の公式サイトはこちら『フェラーリの運ぶ夢』の公式サイトはこちらです。

『フェラーリの運ぶ夢』はこれまできちんとご紹介していなかったので、まずはデータをどうぞ。ストーリーはなかなかよく考えてあり、脚本も練られていて見応え十分。楽しみにしていただいていい作品です

 

『フェラーリの運ぶ夢』 公式サイト
 2012年/インド/ヒンディー語/139分/原題:Ferrari Ki Sawari
 監督:ラジェシュ・マブスカル
 主演:シャルマン・ジョシ、ボーマン・イラニ、リトウィク・サホレ
 配給・宣伝:インド総研、ニューシネマ・スタンダード
2月21日(土)よりイオンシネマ市川妙典ほかイオンシネマにてロードショー

(C)Vinod Chopra Productions

愛称ルーシーことルスタム・ベーラム・デブー(シャルマン・ジョシ/『きっと、うまくいく』の時の表記はシャルマン・ジョーシー)は男やもめ。亡くなった妻との間の一人息子カヨゼ・ルスタム・デブー(リトウィク・サホレ)を育てながら、偏屈者の父ベーラム・デブー(ボーマン・イラニ)とも同居して、面倒を見ています。交通局で公務員として働きながら家事一切をこなすルーシーの欠点は、あまりにも正直者すぎること。正義の味方になることが使命と考えている好人物です。

カヨゼは小学生ながらクリケットがうまく、地元少年チームのキャプテンで強打者です。クリケットの聖地、イギリスのローズ競技場で行われる強化合宿参加者選抜の話が出た時も、カヨゼなら当然選ばれるだろう、という雰囲気だったのですが、問題は参加費用。15万ルピー(約30万円)という額は、薄給の父ルスタムにとってとうてい捻出できない金額でした。

父子共にあきらめようとしたところへ、降ってわいたような話が飛び込んできます。交通局によく顔を出すやり手の女性ウェディング・プランナー、バッブー(シーマー・パフワー)が、地元の顔役である議員の息子の結婚式に赤のフェラーリが調達できたら、15万ルピー出してもいい、と言うのです。「真っ赤なフェラーリ」と言えば、クリケットの超有名選手サチン・テンドゥルカルの代名詞ともなっている車。しかし、ルスタムにはサチン選手に会えるかも知れないコネがありました。そのコネを使うべくサチン選手の家に行ってみると、ひょうたんから駒が出て、あれよあれよという間にルスタムはトラブルのまっただ中に巻き込まれることになります....。

(C)Vinod Chopra Productions

この映画のキーワード、というか、それを知っているとこの映画がよりよく理解できることが3つあります。

1.パールシー

主人公一家はパールシーです。パールシーとは、イスラーム教がペルシア、今のイランに侵入した8世紀以降に、西インドの海岸に逃れてきたゾロアスター教徒(拝火教徒)の子孫のことです。現在インドには7万人程度のパールシーがおり、宗教的な規範を守って生活しています。パールシー人口の多いムンバイでは、ゾロアスター教の教会(寺院?)をよく見かけますが、本作のようにパールシーの人々がまとまって住んでいる地区もあり、独特の白い衣装を着て黒い帽子をかぶった老人などを見かけることがあります。

本作の主人公ルーシーことルスタムは、いつもパールシー教徒独特のモスリンのシャツ(スドラーとかスドレーと呼ばれる)を着て家事をしています。このシャツとクスティーと呼ばれる白い紐は、ゾロアスター教に入信した人が身につけることができるアイテムです。

また、「ルスタム」という名前もペルシア由来のもので、有名なペルシアの詩人フェルドゥスィーの書いた長編叙事詩「王書(シャー・ナーメ)」に登場する英雄ロスタムと同じ名前です。イメージとしては勇壮な名前なのですが、それがやさ男で心優しい主人公に付いているところがミソなのですね。割とポピュラーな名前というか、パールシーなら子供に付けたくなる名前なので、ラスト近くにそれを使ったギャグが出てきています。

祖父役のボーマン・イラニは、その姓「イラニ」、正しく音引きを付けると「イーラーニー」=「イランの人」からもわかるように、パールシーです。彼の実生活での息子は、『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』(2012)に出ていたカヨーズ・イラニですが、『フェラーリの運ぶ夢』ではカヨーズ(カヨゼ)は孫息子の名前になっているのが面白いですね。ボーマン・イラニは他にもパールシーを主人公にした作品によく出ており、アジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映された『僕はジダン』(2007)もそんな1本でした。

(C)Vinod Chopra Productions

2.クリケットとサチン・テンドゥルカル

インドでの一番人気スポーツはクリケット、ということは、インド映画ファンの皆さんならよくご存じですよね。イギリスがもたらしたクリケットは、英連邦諸国ではいずこでも大人気。サッカーと同じように、クリケットのワールドカップは大いに盛り上がります。2011年のインド、スリランカ、バングラデシュで開催されたワールドカップでは、インドが見事優勝、ワールドカップ嵐が吹き荒れました。本年2015年のワールドカップは、オーストラリアとニュージーランドで開催されます。

インドには少し前からプロリーグができ、シャー・ルク・カーンやジュヒー・チャーウラーがオーナーの「コルカタ・ナイト・ライダーズ(Kolkata Knight Riders)」のように映画界とつながりを持つチームや、映画スターとの交際が報じられるクリケット選手などが出てきて、インド映画ファンもクリケットのチェックが必須になってきました。というか、映画と同じぐらいクリケットの好きなインド人向けに、これまでもクリケットを主題にした映画がたくさん作られているほか、映画の中でもクリケットの話題がよく登場しています。

そんな中で、2000年以降のボリウッド映画に一番多く登場したクリケット選手と言えばこの人、サチン・テンドゥルカルです。不完全ながら日本版Wikiもあり(カタカナ表記が間違ってますねー。正確に音引きを付けると「サチン・テーンドゥルカル」)、その元になったインド版Wikiではさらに詳しく解説されています。彼が出した記録を書いていると夜が明けるので、興味のある方はこのインド版Wikiを見て下さいね。

これまでにも『家族の四季』(2001)のお見合いシーン、『チェンナイ・エクスプレス』(2013)の冒頭のシーンなど、たくさんの映画で引用されてきたサチンですが、本作ではサチンの赤いフェラーリが準主役になっていることから、彼の名前もたびたび登場します。彼の人気のすごさを見せつけるシーンもあるのですが、さて、ご本人は登場するのでしょうか? それは、『フェラーリの運ぶ夢』をご覧になってのお楽しみ、ということにしておきましょう。下の写真は、2009年にハイダラーバードの文房具店で買い物をした時に品物を入れてくれた袋です。広告でも鉄板のサチン、子供たちがこの袋目当てに文房具を買いに来る姿が目に浮かびます。こう言っている私も、袋の違うバージョンほしさに二度買い物をしました(笑)。

 

3.『きっと、うまくいく』の従弟的作品

本作のプロデューサーは、『きっと、うまくいく』と同じヴィドゥ・ヴィノード・チョプラ。脚本にもかかわっていて、監督のラジェシュ・マブスカルと共に脚本にクレジットされています。そして、ラジェシュ・マブスカル監督は『きっと、うまくいく』の助監督の1人、さらに編集を担当しているのが、『きっと、うまくいく』の監督ラージクマール・ヒラニ、というように、『フェラーリの運ぶ夢』『きっと、うまくいく』組が作った作品とも言えるのです。

出演者も『きっと、うまくいく』組が多く、主演のシャルマン・ジョシ(3バカの1人ラージュー役)、準主演のボーマン・イラニ(ウィルス学長役)はもちろんのこと、サチン・テンドゥルカル家の召使いモーハン役のアーカーシュ・ダーバーデーも情けない学生役で出演していましたし、クリケット用品店の店主役アチュト・ポートダルは「機械とは何ぞや?」と尋ねる大学の先生役で出ていた人です。『ラジュー出世する』(1992)とかいろんな映画で見かけるこの名脇役さん、御年80歳だとか!

(C)Vinod Chopra Productions

こんないろんなお楽しみが入った『フェラーリの運ぶ夢』、ちょっと劇場が遠いですが、南インド映画の上映もよくやっているシネコンですので、ぜひ足を運んでみて下さいね~。

 (C)Vinod Chopra Productions


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