5月19日(金)から<新世代香港映画特集2023>で『私のプリンス・エドワード』と共に公開中の、『縁路はるばる』。公開されたのは昨年の8月4日なのですが、好評でずっとあちこちで上映が続き、年末に集計された2022年香港映画興行収入では1,066万香港ドル(約1億8千万円)稼いで年間第8位にランクインしました。以前こちらで簡単なご紹介をした時に書いたように、原題の「縁路山旮旯」の意味は「縁の道はへんぴな所に」というような意味になります。「縁」は香港人の好きな言葉の一つで、昔広東語を習った時に、「”縁”は日本語の”縁”と同じような意味で、”有縁”は”ご縁がありますね”という意味だけど、これが”縁份”になるともっと深い関係になり、”有縁份”はお互いが相手に対して権利を持っている、といったような意味になる」と先生に解説していただいたことがありました。この『縁路はるばる』を見ていて、これも「”縁”が”縁份”になっていくお話なのかも」、と思った次第です。
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そういう香港人が好きな”縁”のお話、つまり恋バナであることに加えて、その相手を送っていったり、相手に会いに行ったりする所が、普段、普通の香港人ならなかなか行かないへんぴな場所、というのが観客の心をくすぐったようです。劇中に毎回、上のような香港の地図が出てきて、今回は主人公ハウ(カーキ・サム)の家からどのくらい遠くに行くことになるのか、というのがわかるようになっています。で、毎回違う女の子に付き合って遠くに行く小旅行が、それぞれ「恋愛第1課」みたいな感じで第5課まで続くことになります。この5課分のレッスンに関して、わかる限りデートの相手と場所を整理して書いてみようと思います。それぞれがどんな始まりと終わりなのかは、映画をご覧になってのお楽しみ、です。
そうそう、それから、主演のカーキ・サムは歌手でもあるので香港では人気があり、何と香港には上のように「カーキ・シャム香港ファンクラブ」もあるのだそうです。(姓の「岑」の読み方が今回の映画公開では「サム」になっていますが、英語表記はKaki Shamなので、ファンクラブは「シャム」にしているようです。「岑珈其」は広東語発音だと「サム・カーケイ」になるのでは、と思いますが、はてさて)そのファンクラブが、この映画のワンシーンをイラスト化したポストカードを作っていて、その日本版もわざわざ作ってくれたようです。上はそのポスカの宛名面ですが、本年1月9日にあったTUFS Cinemaでの上映会ではこのポスカが「ご自由にお取り下さい」と会場に置かれていたのでした。で、それをいただいてきてしまったのが5枚あって、それも使わせてもらおうと思います。ファンクラブの責任者の方、もし不都合でしたら取り下げますので、お手数ですがその旨コメントでご連絡下さい。
『縁路はるばる』 公式サイト
2021年/香港/96分/原題:縁路山旮旯/英語題:Far Far Away
監督:黄浩然(アモス・ウィー)
出演:岑珈其(カーキ・サム)、張紋嘉(クリスタル・チョン)、蘇麗珊(シシリア・ソー)、梁雍婷(レイチェル・リョン)、陳漢娜(ハンナ・チャン)、余香凝(ジェニファー・ユー)
※5月19日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー公開中
第1課:お相手~A.Lee(エイリー/出演者:シシリア・ソー)ハウと同じIT会社に勤務
住んでいる所~沙頭角(九龍側の新界最北部東側にある場所)、観光局の案内サイト(中国語)
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前段に、職場風景が描かれていて、ハウがどんな仕事をしているのか、どんな雰囲気の職場なのかわかります。ハウの向かいの席に座っているのがエイリーで、なぜか目が合うと気まずい二人...。うまく話がまとまって送って行ったはいいけれど、長時間ドライブの後「そこのバス停で下ろして」と言われて「ん?」となるハウ。実は彼女の家まで送るには、許可証がないとダメなのです。沙頭角は中国に隣接しているため、一般人は入ってはいけない場所なのでした...。香港返還後もこういう状態だとは、香港の人も知らない人が多かったのではと思います。
第2課:お相手~戴花花(ファファ/出演者:クリスタル・チョン)幼稚園の先生で、ハウの友人ジュード・ローの従姉
住んでいる所~下白泥(新界の屯門北部から西へ一山越した海岸べりの地区)観光局の(大雑把な)案内サイト(中国語)
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ここは前段にハウの悪友たちとその親族が登場。まず一人目の友人は羅子榮というのですが、英語名をジュードと称し、だからジュード・ローなのだと言っているふざけた奴。妹ジジがいて、彼女の結婚相手は悪友の1人黄大同。この2人の結婚式だかその予行演習だかで親族がいろいろ登場します。で、登場したジュード兄妹の従姉であるファファに誘われて、ハウははるばる下白泥へ。ファファはまず映画に誘って時間を潰し、その後海岸に出てとてもきれいな夕陽を見せてくれます。海の向こうはもう深圳。彼女は屯門とならぶ新界の大きな町元朗育ちなのだとか。ハウも小さい頃、茶果嶺の祖父母の家に住んでいたことを思い出します。
第3課:お相手~ミーナ・マン(出演者:レイチェル・リョン)保険会社勤務
住んでいる所~大澳(ランタオ島の西北部の古い町)中国語版ウィキ
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ハウはこれまで友人の車を借りていたのですが、やっと自分の車を買います。その車が縁で知り合ったのが、やり手の女性ミーナ・マン。彼女の家があるランタオ島北側の西部の町大澳にフェリーで出かけ、1泊します。その後、大学時代の同級生でITの会社に勤めていたメラねえ(メラニー/ジェニファー・ユー)を、辞めたエイリーのあとにヘッドハンティングするべく一緒に食事していたら、とんでもないシーンを見てしまいます...。
第4課:お相手~リサ(ハンナ・チャン)画家で他にもいろんなセンスのある芸術家
住んでいる所~荔枝窩梅子林(新界地区の沙頭角から東へ目を転じたあたりの海岸縁の一角。客家村の跡地に芸術家が住み着き、作品を作ってアートヴィレッジ化した模様)ユネスコの案内サイト(中国語)
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前のパートでヘッドハンティングされていたメラねえは、めでたくハウの同僚になりました。その後、ジュードの妹の結婚祝いに来ていたリサに誘われ、新界東部の地の果てかと思われるような芸術村へ。大埔からバスを乗り換え、山越えをしてやっとたどり着けるような僻地で、リサはこの芸術村に住み着いた2人目の芸術家なのだとか。村人は親切で、食事を作ってくれたりし、村のいろんな所がキャンバスになるので、リサはすっかり気に入っているようです。別れ際、電話番号は交換したものの、さて...。
第5課:お相手~エイリーとメラねえ
住んでいる所:エイリーの家のある沙頭角とメラねえの家のあるランタオ島澄碧邨
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エイリーが会社を辞めたのはガン治療のため。彼女を見舞ったハウは、まだ2ヶ月化学療法が続くと聞いて同情します。エイリーの代わりに会社に入ったメラねえとの間は、大学時代の気の置けない友人同士の関係が戻ってきていて、実に居心地がいいのです。ハウは家を買うことを考え始めて...。
とまあ、結構凝った作品です。香港人なら隅から隅まで楽しめると思うのですが、地理や香港事情に暗い外国人にはピンとこないことも多くて、もどかしい部分もありました。監督の黄浩然(アモス・ウィー)は1971年生まれで、脚本はもちろん、プロデューサーも兼ねているというまさにワンマンショーの作品です。IT関係の表現など若い人のアイディアも取り入れたのか、最初見た時は30代の監督の作品では、と思ったほどで、バックに流れるたくさんの歌もどれも人気曲のよう。TUFS Cinemaで上映された時は、字幕に加えて歌の歌詞が出てきて少々画面がうるさかったのですが、そうしたくなるような歌の数々だったようです。
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上写真はハウとメラねえですが、立ってみるとメラねえの方が数センチ背が高いんですね。でも、確かセリフにはそんなことは全然出てこなくて、ちょっと感心しました。ハウを演じたカーキ・サムは『私のプリンス・エドワード』にも出演、これから香港の庶民的兄ちゃんを演じるのに欠かせない俳優になりそうです。最後に、大阪アジアン映画祭で上映された時の、この映画だけの予告編を付けておきます。映画祭での上映タイトルは『僻地へと向かう』だったんですね。改題された『縁路はるばる』、実にうまい邦題です。皆さんもぜひ、遠路はるばる本作を見に行って下さいね。
OAFF2022『僻地へと向かう』Far Far Away [緣路山旮旯] 予告編 Trailer
<追記>
宣伝担当の方に教えていただいたのですが、上に挙げた5カ所が香港のどこになるのか、その地図が劇場用パンフレットには掲載されているそうです。私がイラスト上手なら、ちゃちゃっと描いていたのですが、すみません。興味のある方は、ぜひそちらをご覧下さい。そして、今度香港にいらしたら、行ってみて下さいね(って、いずれも旅行者にはハードルが高い場所ですけど)。パンフレットにはほかにも、両方の作品の監督インタビューはもちろんのこと、大阪アジアン映画祭で作品選定に当たっている暉峻創三ディレクターの対談、『縁路はるばる』の字幕を担当したお二人のうちの一人、小栗宏太さんの深読み映画解説なども載っているそうです。小栗宏太さんは、今年1月9日のTUFS Cinemaで上映後の解説をして下さった方で、現在東京外大大学院博士課程で研究中の方のようです。その時の解説が今回のパンフレットに生かされているのでは、と思われます。遠路はるばる劇場にいらしたおみやげに、ぜひパンフレット購入もお忘れなく!