『女神は二度微笑む』のマスコミ試写が本日から始まりました。初回の試写にもかかわらず、20人を超えるマスコミ関係者や映画評論家の方がいらしていて、ちょっとびっくり。なかなか期待値高いです。まだあまり露出してないのに、面白そうな映画には皆さん敏感でいらっしゃいますね。今週末にはチラシもできるとのことなので、12月にはこの赤色が鮮やかなチラシが皆様の手にも届くことでしょう。
実は私、大きなスクリーンでこの作品を見たのは初めてで、カメラワークとか、全体の構図とか、DVDで見ていると気が付かなかった驚きがいっぱいありました。字幕の最終チェックも兼ねて見たのですが、字幕の方は反省しきりで、特に冒頭部分、もっと字幕をそぎ落とせばよかった、と落ち込んでいます。結構あわただしく字幕を読んでいただくことになりそうで、申し訳ない限りです。セリフにいっぱい情報が盛り込まれていると、つい全部入れたくなっちゃうんですよねー。うう、未熟...。(どよ~ん↓)
あと、作業用DVDでは聞こえなかった音がはっきり聞こえたり(字幕入れてない!)、その反対だったりと、青くなったり赤くなったりしながら試写を見終えました。でも、今日見て下さった皆さんは、まずい字幕にもかかわらず映画に引き込まれていらした様子で、途中笑いも起きたりしてちょっと安心しました。いやー、大画面で見るとよけいに『女神は二度微笑む』のすごさが実感できます。それにしても、主演女優ヴィディヤー・バーランの美しいこと! ファンが一挙に増えそうです。
本作の基本情報は先日のブログ記事をご覧いただければと思いますが、今日はそれに加えて、この映画の言語のお話をちょこっとしておこうと思います。
この映画はヒンディー語映画なのですが、舞台は全編がコルカタ(旧名カルカッタ)となります。コルカタと言えば、ハウラー橋にフーグリー河、カーリー寺院にマイダーンと呼ばれる中心街の広場、ニューマーケットにゴリアハト市場...。あるいは、マザーテレサ(上のタイル絵)を思い浮かべる人もいるかも知れませんし、文学者タゴールや映画監督サタジット・レイを思い出す人もいるでしょう。そのコルカタは西ベンガル州の州都であり、基本的にはベンガル語の街です。
「基本的には」というのは、大都会コルカタには西ベンガル州に近いビハール州やウッタル・プラデーシュ州から出稼ぎに来ている人も多く、タクシーの運転手はかなりの人がそうだと言われています。この出稼ぎ組の人たちの言語はヒンディー語なので、コルカタ市内でもヒンディー語が飛び交っているのです。私もコルカタに行ったのは数度だけなのですが、毎回ヒンディー語がよく通じるのでずいぶん助かりました。
『女神は二度微笑む』では、ロンドンからコルカタにやって来たヒロイン、ヴィディヤはヒンディー語を話します。警官のラナとその同僚たちは、時にはベンガル語、時にはヒンディー語で話します。ベンガル語を話されるとヴィディヤは理解できないため、字幕ではベンガル語の部分に< >の記号を付けてあります。
ヴィディヤはもうひとつ、ベンガル語の壁に直面します。「v」と「b」の発音が同じだと言われてしまうのです。ベンガル語とヒンディー語には同じ単語もたくさんあるのですが、その場合音韻が変化することがあります。例えば、短母音の「a」は「o」の音になり、「s」音は「sh」音に変化し、挨拶言葉の「ナマスカール」は「ノモシュカル」になります。そして「v」音は、「b」音になるのです。
字幕では、「ヴィディヤ」ではなく「ビディヤ」と呼ばれる、という形で出してありますが、実はこれは確信犯的に不正確な表記になっています。「ヴィ」→「ビ」以外にも、「ディヤ」という二重子音も音が変化し、正しく書くと「ビッダ」になってしまうのです。でも、映画の中では、ヴィディヤは「”b”じゃないの、”v”よ、”v”」と抗議しているので、「ビッダ」と字幕に出すと、「vがbになることより、後の部分の変化の方がすごいじゃないの。なんでそれを抗議しないわけ?」と観客に思わせることになるのでは、と危惧したのでした。
また、ヒンディー語の長母音はベンガル語では短くなってしまうことが多いのですが、字幕では一部こちらの表記の方がわかりやすいのでは、という固有名詞は音引きを入れてあります。まあ、ヒンディー語映画なので、ヒンディー語発音に倣った、ということでもあるのですが、この単語はやっぱりベンガル語発音の方が、というので、「ドゥルガ・プジャ」(上写真)のようにベンガル語発音を採用したものもあります。不統一な点、あまり気にしないで見ていただけるといいのですが。
気にしないで、と言えば、この映画の主人公たちの使用言語も、ちょっと変と言えば変です。ヒロインのヴィディヤは、実はタミル・ナードゥ州出身の女性。コルカタに仕事に来て失跡することになる夫から、「泊まっているホテルのエレベーターの脇には、君の故郷の孔雀がいるよ」と告げられるのですが、孔雀はタミル人の間で信仰あついムルガン神の乗り物なのです。映画の中ではヴィディヤが一度だけタミル語をしゃべるため、そこの字幕は《 》の記号を付けてあります。ヴィディヤを演じたヴィディヤー・バーランは南インドの出身なので、彼女とも二重写しになるヒロインなんですね。
で、ヴィディヤの夫で失跡したアルナブ・バグチはベンガル人という設定になっています。うーむ、ベンガル人とタミル人の家庭なら、共通言語はやっぱり英語でしょう。しかもロンドン住まいなんだし。まあそうなんですが、そこはそれ、ヒンディー語映画という大前提があるため、彼ら2人が話す時もヒンディー語なんですね。というわけで、非常にリアリティ溢れる作品ではあるのですが、小さな「?」も潜んでいます。
言語はヒンディー語寄りになっていますが、風景はディープなコルカタそのもの。夜のハウラー橋(上写真)など、さりげなく名所も登場します。ヒンディー語とベンガル語の響きの違いを楽しみながら、ぜひコルカタのベンガル世界を覗いてみて下さい。『女神は二度微笑む』の公式サイトはこちらです。