アジア映画巡礼

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アジアフォーカス・福岡国際映画祭2019でインド映画が観客賞を獲得!

2019-09-18 | インド映画

アジアフォーカス・福岡国際映画祭2019も、あと会期を2日残すのみとなりました。昨日は観客賞の発表だったので注目していたところ、何とインド映画『シヴァランジャニとふたりの女』が観客賞を受賞! というニュースが入ってきました。字幕を担当した者としてはとても嬉しいのですが、正直言うと「え~、あの地味な作品が!」という驚きでいっぱいです。福岡の観客の皆さんは見る目があるというか、ありすぎる!!と感心している次第です。それでこの機会に、どんな作品なのか、ちょっとご紹介しておこうと思います。監督はヴァサント・S・サーイで、英語題名が『Sivaranjani and Two Other Women』、原題が『சிவரஞ்சனியும் இன்னும் சில பெண்களும்Sivaranjaniyum Innum Sila Pengalum)』となります。アジアフォーカスでの紹介サイト(全作品ラインアップ紹介)はこちらです。


本作は、1980年のサラスワティの話、1995年のデーヴァキの話、そして2007年のシヴァランジャニの話という3部に分かれたオムニバス形式の映画です。1980年、サラスワティ(上写真)は、工場勤務の夫と赤ん坊の娘と共に、チェンナイの下町に暮らしていました。夫は典型的な亭主関白で、子供が泣いてもあやそうともせず、「うるさい!」と怒るばかり。ある時サラスワティが「仕方ないじゃない」と言ったところ、「口答えするのか!」としたたかに殴られてしまいます。あまりにひどいので、サラスワティが「叩かないで!」と言い返したところ、夫は気をのまれたように黙ってしまいますが、それからは口をきいてくれなくなります。食べ物が底をついたので、サラスワティが夫に訴えても無言を貫き、お金も渡してくれません。徹底的にサラスワティを無視したあげく、夫は家に帰ってこなくなります。3日ほど経って、サラスワティは決心して工場に夫を訪ねて行きますが、そこで聞かされたのは「あいつは3日間欠勤している」という現場監督の言葉でした。組合の助けも借りて警察に失踪届を出しますが、警察では「失踪届など山積みなんだ」と言われ、家に帰るよう諭されます。無為に夫を待ち続ける日々でしたが、やがてサラスワティはパパダム(パーパル。豆や米の粉を円形にして乾燥させた、食事時の添え物おせんべい)工場で働き出し、娘を育てます。そして数年経ち、小学生になった娘とサラスワティは、以前とは全く違う笑顔の毎日を送っているのでした。

Sivaranjani and Two Other Women-Festival Column

第2話、1995年のデーヴァキは、デーヴァキ(上写真)のオフィスから話が始まります。新婚間もない夫マニも同じ職場のようですが、どうやらデーヴァキの方が地位が上で、主任とか係長とかの肩書きがあるようです。今日は職場に、同じ家に暮らすマニの兄夫婦の息子ラームが遊びに来ていて、3人はデーヴァキの運転するバイクに乗って帰宅していきます。ラームはこの、何でもできるデーヴァキ叔母さんが大好きで、大きくなったら叔母さんと結婚しようと思っているほどです。ところがある日、デーヴァキ叔母さんが一人で部屋にいて、日記を書いているところを、ラームは目撃してしまいました。ラームの母がデーヴァキを呼びに来ると、デーヴァキは日記を戸棚にしまって、さらに鍵をかけています。ラームは、叔母さんの秘密を知った気分になりました。ある時、ラームの母が姑、つまりラームの祖母らと話していると、デーヴァキの話題になり、ついラームは、「叔母さんの秘密を知ってるよ」と言ってしまいます。女性たちは、「日記を書いているのはかまわないけど、戸棚に入れて鍵をかけ、その鍵を持ち歩いているなんて、読まれてまずいことを書いているのでは?」とだんだんと疑い始めました。ついには、ラームの母がラームの父に訴え、家長であるラームの祖父も巻き込んで、「家名を汚すようなことが書かれていては困る」という騒動に発展していきます。それを聞かされたデーヴァキの夫マニは、「プライバシーの侵害だ」と当初つっぱねていたのですが、やがてデーヴァキを呼び、日記を見せるよう迫ります。強引に日記を奪われ、その一部分を夫に読み上げられたデーヴァキは、日記をひったくって自ら燃やしてしまい、やがては離婚して出て行ってしまいます...。

Sivaranjani and Two Other Women Trailer | Jio MAMI 20th Mumbai Film Festival with Star

最後の第3話は、2007年のシヴァランジャニからスタートします。この頃、女子大で短距離スプリンターとして活躍していたシヴァランジャニは結婚が決まり、卒業しないまま結婚生活に入ります。カレッジの陸上競技部長からは、在学中は妊娠しないよう言われていたのですが、夫の一族には「子供を早く作ることが男の証」みたいな雰囲気があり、早々に妊娠してしまいます。こうして、かつては学内で最優秀選手として表彰され、トロフィーももらったシヴァランジャニは、全国大会に出場することもなく家庭に入ったのでした。団地で姑と同居し、生まれた女の子プリヤも小学生になった数年後、シヴァランジャニの朝は毎日めまぐるしく過ぎていきます。テレビ画面の神様を拝みながら朝の祈りを捧げる姑に、コーヒーを淹れる(しかも、姑は牧場から買ってきた生乳でないとダメ)ことから始まり、プリヤを起こして支度させ、朝ご飯を食べさせるだけでも一仕事です。その間に起きてきた夫からは、「タオル」「メシ」「新聞」「めがね」「僕の携帯は?」と次々用事を言いつけられて、てんてこ舞いするシヴァランジャニ。「今日は会議があるから、白いYシャツでないとダメだ」と急に言われると、団地の下に来ている屋台のアイロンかけ屋さん(インドには流しのアイロンかけ職人がいて、ヒンディー語では「プレスワーラー」と呼ばれています。旧式の火のし式のアイロンを使い、ビシッと仕上げてくれるので、どこの町でも今も職業として成り立っています)に飛んでいって、Yシャツにアイロンをかけてもらうなど、こまねずみのように走り回らないといけません。夫を送り出し、プリヤのお弁当を作り、忘れ物がないかチェックして、スクールバスの時間までに送り出すと、やっと一息つけます。そんなある日、日曜日の朝、買い物に出たシヴァランジャニは、広場でトレーニングしている女子スプリンターを見かけて、急に昔もらったトロフィーのことを思い出します。あのトロフィーこそが自分の存在意義を証明する唯一のもの、と思ったシヴァランジャニは、一人故郷の町の女子大に出向き、トロフィーを探しますが...。

(オールドデリーの街角で見かけたアイロンかけ屋さん。2018年3月)

この第3話はちょっと面白いラストが待っているのですが、どのパートも、女性の輝く姿を阻んでいるものは何か、を、鋭い視線と細やかな現実描写で描いていきます。特に細部の描き方のうまさにはうならされますが、中でも、第2話の人々がデーヴァキを無意識のうちに追い詰めていく過程と、第3話のシヴァランジャニ家の朝の風景描写は圧巻です。ヴァサント・S・サーイ監督が脚本も書き、またプロデューサーも兼ねており、自分の作りたい作品を自ら作った映画、と言えそうです。出演者で名前が知られているのは、第1話の夫役カルナーカランと、第2話のデーヴァキ役パールヴァティ・ティルヴォートゥ、第3話のシヴァランジャニ役のラクシュミ・プリヤー・チャンドラマウリらですが、人気スターというわけではなく、そのためもあってかインドでは公開が遅れています。今回の、「アジアフォーカス・福岡国際映画祭で観客賞を受賞!」という実績が追い風になり、インドでも公開が実現するといいですね。日本の配給会社様で興味を持たれた方は、映画祭の事務局までぜひご連絡ください。

 


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