アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

『バルフィ!人生に唄えば』のアヌラーグ・バス監督のこと

2014-06-08 | インド映画

『マダム・イン・ニューヨーク』は主演女優シュリデヴィの来日フィーバーで盛り上がり、『ダバング 大胆不敵』はマサラ試写で大フィーバー。となると、今夏公開されるあと4本の作品、ヒンディー語映画『めぐり逢わせのお弁当』『バルフィ!人生に唄えば』、そしてテルグ語映画『あなたがいてこそ』『バードシャー テルグの皇帝』も、もっと力を入れてご紹介していかないといけないですね~。ということで、まずはヴィジュアル素材を早々にいただいた『バルフィ!人生に唄えば』からご紹介していきましょう。(他作品の宣伝をご担当の各社様、お願いしているヴィジュアル素材を早く下さいませ~)

『バルフィ!人生に唄えば』 公式サイト
2012年/インド/ヒンディー語/151分/原題:Barfi!


(C)UTV Software Communications Ltd.

監督:アヌラーグ・バス
出演:ランビール・カプール、プリヤンカ・チョープラー、イリアナ・デクルーズ
配給・宣伝:ファントム・フィルム

8月より TOHOシネマズシャンテ、新宿シネマカリテほか全国公開

公式サイトがまだ本格始動していませんが、公式FB、そして公式ツイッターはエンジン始動済み。早くも中身の濃い書き込みが躍っています。

本作のストーリーはすでにご存じの方が多いかと思いますが、耳が不自由でそのため話すこともできない青年バルフィ(ランビール・カプール)が主人公です。彼はインド北東部の避暑地ダージリンで、お金持ちの家の運転手である父親と2人暮らし。障がい者ではあっても、とても陽気でいたずら好きのバルフィは、ダージリンにやってきた良家の娘シュルティ(イリアナ・デクルーズ)に恋をしてしまいます。あの手この手でアタックし、シュルティもだんだんとバルフィに惹かれていきますが、実はシュルティにはすでに婚約者がおり、恋の成就は難しそうです。

そんな時、バルフィの父が倒れ、多額の治療費が必要になってしまいました。バルフィは銀行強盗(!)やらいろいろ試してみたあげく、父が勤めていたお金持ちの家の一人娘、ジルミル(プリヤンカ・チョープラー)を誘拐して身代金を取ろうとします。ジルミルにも障がいがあって、幼い時施設に預けられていたりしたため父母とはしっくりいっていないのですが、誘拐事件をきっかけにジルミルはバルフィを慕うようになってしまいます。そしてバルフィが彼女を解放したあともジルミルは家には帰らず、結局バルフィについてコルカタへと出てきてしまいます。コルカタには結婚したシュルティがいて、3人は再会するのですが...。

(C)UTV Software Communications Ltd.

上の写真が、美しいイリアナ・デクルーズ演じるシュルティですが、物語は老年の彼女のモノローグから始まり、彼女の回想によってほぼ進行していきます。回想があっちへ飛び、こっちへ飛びするのでちょっとわかりにくいものの、場面をパッチワークのようにつなぐことで、バルフィの魅力とジルミルのいじらしさが観客をどんどん魅了していく仕掛けになっています。さらにもう1人の狂言回しとして、バルフィを捕まえようとするダージリンの警部(ソウラブ・シュクラー)も加わり、風変わりな物語が転がっていくというワザあり!の1本です。

この複雑な脚本を書き上げ、監督したのがアヌラーグ・バス。生年月日がウィキにも載っていないので年齢がわからないのですが、おそらく40歳ちょっとぐらいではと思います。現在はチャッティースガル州になっている、ビラーイーという町のベンガル人家庭に生まれ、父母の演劇活動を見て育ったそうで、その後コルカタや中部インドのジャバルプルで学び、ムンバイ大学で物理学を専攻。でも大学時代にテレビや映画の現場で働いたことでカメラマンを志し、やがて監督を目指すことになります。(下の写真はWikipedia "Anurag Basu"より)


テレビ畑でキャリアを積んだあと、劇映画の監督としてアヌラーグ・ボース名でデビューしたのが2003年の『何かはある(Kucch To Hai)』。続いて同年にジョン・アブラハム主演の『影(Saaya)』を監督。『影』はあまり話題にならなかったのですが、翌年の作品『殺人(Murder)』は大ヒットします。これは、ムケーシュ・バット、マヘーシュ・バット兄弟の製作になるもので、低予算ながらユニークでアクの強い作品を世に出してきたムケーシュ・バットの手腕が発揮された作品でした。『殺人』はバンコクを舞台にして、夫がいながら再会した昔の恋人(イムラーン・ハーシュミー)との関係を復活させてしまう美貌の妻(マッリカー・シェーラーワト)、という不倫ストーリーに、妻を疑う夫というサスペンスを加味して、ひとときも目が離せない作品に仕上がっています。この『殺人』は製作費の7倍を稼ぐという大ヒットとなり、アヌラーグ・バスの名は一躍注目されるようになりました。


そしてその2年後、2006年には、第4作『ギャング(Gangster)』がまたまたヒットします。こちらもやはり、ムケーシュ・バットとマヘーシュ・バット兄弟が製作した作品です。ムンバイのギャング組織から逃れてソウルへ渡った男(シャーイニー・アフージャー)と、彼がギャング組織を離れる原因となった女(カングナー・ラーナーウト)、そして彼女の心に入り込んでくる男(イムラーン・ハーシュミー)との、緊迫した関係が秋の韓国を舞台に描かれます。こちらも製作費の倍という興収をあげ、アヌラーグ・バスがコーヒーショップで発見したいという女優カングナー・ラーナーウトをスターに押し上げました。(実はシャーイニー・アフージャーもこの作品でスターダムに登るのですが、2009年にレイプ事件で訴えられ、その後落ち目になることに...)


続く2007年の作品『大都会...の生活(Life in a...Metro)』も注目されます。会社員の青年(シャルマーン・ジョーシー)は同僚の女性(カングナー・ラーナーウト)に片思い中、でも彼女は上司(K.K.メーノン)と不倫関係にあり、満たされぬ上司の妻(シルーパー・シェーッティー)は街で出逢った男(シャーイニー・アフージャー)に惹かれていく。さらに妻の妹(コンコナー・セーン・シャルマー)は中年男(イルファーン・カーン)と見合いをするものの、本当は別に好きな男がいて....と、まるでロンドのような恋愛模様が展開していく作品ですが、それぞれに見応えのあるエピソードになっていて、俳優たちの達者な演技と相まって魅力的な作品に仕上がりました。アヌラーグ・バスはここでバット兄弟から離れて、名プロデューサーのロニー・スクリューワーラーと組むことになります。また、『大都会...の生活』では、作曲家プリータムを中心とするバンドが主人公たちと同じ画面に現れ、街角などで挿入歌を歌うという珍しい手法が取られていて、これも「インド映画初」と注目されました。

その手腕がプロデューサー兼監督のラーケーシュ・ローシャンに買われて、リティク・ローシャン主演作を任されたのが、2010年のヒット作『カイト』です。2011年の大阪アジアン映画祭でもクロージング作品として上映された『カイト』は、全編をアメリカとメキシコでロケ、ヒロイン役にメキシコ人女優を起用した異色作です。そのほかカングナー・ラーナーウトも出演し、情熱的なストーリーとリティクの魅力で興収第9位というヒット作となりました。


そして2012年に登場したのが、『バルフィ!人生に唄えば』です。製作はアヌラーグ・バス自身に加えて、ロニー・スクリューワーラーとUTVの社長シッダールト・ロイ・カプール。起用スターもランビール・カプールとプリヤンカ・チョープラーという超人気者に、ボリウッドでは新人に等しいながら、南インド映画では経験を積んでいる美女イリアナ・デクルーズという豪華ラインアップ。しかしながら、ランビールとプリヤンカを単なる美男美女役ではなく、ひとクセもふたクセもある主人公に設定したのがアヌラーグ・バス監督の面目躍如というところです。ランビールとプリヤンカの演技力全開の本作は、興収第10位のヒットとなりました。

また、『バルフィ!人生に唄えば』では、『大都会...の生活』と同じように、ローカルなバンドが画面に登場してテーマ音楽を奏でます。このセルフ・パロディのほか、過去の作品にオマージュを捧げたシーンが次々と登場し、アヌラーグ・バス監督ってずいぶんシネフィルだったのね、とちょっと目を見張る思いです。まだまだ引き出しを持っていそうなアヌラーグ・バス監督、これからどういう作品を見せてくれるのか非常に楽しみな人です。『バルフィ!人生に唄えば』で、ぜひ彼の手腕を堪能して下さいね。

<追記>ブログで訴えたせいか、早速テルグ語映画2本の宣伝を担当してらっしゃるオムロの担当者の方から、『あなたがいてこそ』『バードシャー テルグの皇帝』画像が送られてきました。ありがとうございます! 張り切って宣伝に務めますので~。



コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 6月のテルグ語映画上映会の... | トップ | <緊急告知!>『マダム・イ... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (ロディ)
2014-06-09 19:48:19
昨年からやっと復活してきたインド映画熱 大歓迎です。
今まではずっと気にかかっていても日本特に鹿児島在住の私にはどうすることもできないジャンルになってましたから。

そうはいっても今までは初心者よろしくラジニ中心でしたが今は三大カーンのボリウッド熱も沸騰中です。きっかけは三大カーンというよりはカトリーナ・カイフですが・・・。
カトリーナ追っかけたら気がつくと三大カーンがもれなく付いてきてる感じでしたね。
サルマンにジョージ・クルーニーの面影見たりシャールクのそつのない演技、ダンスに刮目したり、しかし、今はアーミル・カーンですねぇ。
「きっと、うまくいく」もそうですがyou tubeでしか観てない「Dhoom3」の二役演技。あらすじとラストしか観てない、しかもセリフが英語でないのでわからないにもかかわらず泣けるという素晴らしい演技力。なんとか日本公開されないものかと思ってます。PV「malang」のスタントなしのアクロバットも凄いです。

今後ともインド映画の情報 よろしくお願いします。
返信する
ロディ様 (cinetama)
2014-06-10 01:42:07
初コメント、ありがとうございます。

詳しいコメント、うなずきながら拝読しました。(「気がつくと三大カーンがもれなく付いてきてる」で吹きました、ぷぷっ)

えー、「ドゥーム3」はネタバレになっております。よい子の皆様はこの部分忘れて下さいませ。
インドのニュースでは昨年から「日本に売れた」と書き立てていましたので、きっと、売れていく、だったのでしょう。
気長に公開を待ちたいと思います。

では、鹿児島からのまたのご訪問をお待ちしています~。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

インド映画」カテゴリの最新記事