アジア映画巡礼

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第13回東京フィルメックス続報

2012-12-01 | アジア映画全般

東京フィルメックス、その後もほぼ毎日通いました。すでにコンペ部門の授賞結果も発表されたので、それと共に今回見た作品のご紹介を少し。

第13回東京フィルメックス / TOKYO FILMeX 2012<授賞結果>  公式サイト

 最優秀作品賞:『エピローグ』 (監督:アミール・マノール/イスラエル/2012)
 審査員特別賞:『記憶が私を見る』 (監督:ソン・ファン/中国/2012)

 観客賞:『ピエタ(原題)』 (監督:キム・ギドク/韓国/2012)

 学生審査員賞:『あたしは世界なんかじゃないから』 (監督:高橋 泉/日本/2012)

<ひとくち紹介>

『グレープ・キャンディ』 (Chung-po-do Sa-tang/Grape Candy/韓国/2012) 作品紹介
  監督:キム・ヒジョン

上映前の舞台挨拶に登場したキム・ヒジョン監督(左)と、ヒロインの恋人役チェ・ウォニョンさん。チェ・ウォニョンさんはすごく背が高い好青年で、「美しい女優さんがいっぱい出演しているのに、自分などがゲストで来てしまって」と恐縮したように挨拶したのが印象的でした。

この作品は、結婚を目前にした同棲中のカップル、銀行員のソンジュ(パク・ジニ)と編集者のジフン(チェ・ウォニョン)の前に、ソンジュの同級生だったソラ(パク・ジュン)が流行作家として姿を現すことから起きる波紋を描きます。結婚をしぶりだすジフンと、ソラとの関係を疑うソンジュ。それだけではなく、ソンジュとソラ、そしてもう1人の同級生ヨウンとの間には、学生時代にある事件が起きていたのでした。ヨウンの姉も登場し、過去の決着が着けられていきますが....。

フラッシュバックで過去の事件が小出しに描写される謎解きと、その感情が現在に持ち越される女性たちの対峙が描かれていくものの、思わせぶりな描き方にはいまひとつ乗り切れませんでした。上映後のQ&Aでも、「この映画はこういう意味ですよね...」とエンエン場面解釈を述べる質問者が現れるなど、「腑に落ちません」的雰囲気が。でも、Q&A終了後のロビーでは、たくさんの観客がサインを求めて列を作り、監督とチェ・ウォニョンさんの臨時サイン会となりました。

特にチェ・ウォニョンさん、すごい人気でした。今後日本で、さらにブレイクするかも知れませんね。

『メコンホテル』 (Mekong Hotel/タイ、イギリス、フランス/2012) 作品紹介
  監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン

アピチャッポン監督が高校時代の同級生と再会したことから、生まれた作品のようです。冒頭メコン川べりのホテルで、その同級生がギターを弾き、監督が聞いている、というシーンがでてきます。そして、その後ポープ・ゴーストと呼ばれる幽霊を主人公にした映画が撮影中、という設定で進んでいく映画全編に、そのギターが流れ続けます。タイの怪奇映画ではお馴染みの題材のようで、母親、そしてその娘がゴーストと化して内臓を食べたりするシーンも登場。まあでも特にまとまったストーリーはなく、メコン川と古いホテルが舞台となって、ゆったりと人物たちが動く物語です。

終了後のQ&Aでは、アピチャッポン監督は自分がしばしば訪れるタイ東北地方で撮ったと説明、「メコン川流域は豊富な歴史を持っています。それにメコン川は遺灰を流すところで、僕も父の遺灰を流しました。生と死の境目、ボーダーでもあるわけです」と、ラオスとの国境付近で撮ったことも含めて、「ボーダー」に関心を持っていることを話しました。また、ドキュメンタリーとフィクションの境目についても語ってくれるなど、映画そのままのゆったりした口調で観客の質問に丁寧に答えていました。

 

『111人の少女』 (111 Dokhtar/111 Girls/イラク/2012) 作品紹介
  監督:ナヒード・ゴバディ&ビジャン・ザマンピラ

字幕講座の時、齋藤敦子さんが言っていらしたように、決してシリアス一方の作品ではありませんでした。111人のクルド人少女が、「結婚する相手を見つけてくれないと、2日後に集団自殺する」というので、政府顧問のような男性が役人の運転する車で、案内役のクルド人少年と共に駆けつける、というのがストーリーです。途中、変な警官たちがいたり、トルコ国境では鉄条網の向こうにトルコ人花婿が111人(?)いたり...と、シュールというには変なシーンがいくつも挿入されます。それによって、クルド人政策への批判になっているかと言えば、それはちょっと、という、少々ビミョーな作品でした。

 

『おだやかな日常』 (Odayaka/日本/2012) 作品紹介
  監督:内田伸輝

今回、日本映画は見られないというか、時間がきつくて見ないとあきらめていたのですが、この作品は関係者の方のオススメと、杉野希妃さんの主演なのでやっぱり見ておくことに。3.11直後の原発事故による放射能洩れに、敏感に反応してしまう二人の女性を描いています。サエコ(杉野希妃)は、夫が出て行ったあと幼稚園児の清美と二人暮らし、マンション隣家のユカコ(篠原友希子)はやさしい夫(山本剛史)との二人暮らし。彼女たちが過敏反応すぎるのか、それとも周囲が鈍感すぎるのか。あの当時人々が泡立てた感情が、如実に描かれていきます。

舞台挨拶は右から、内田監督、杉野さん、清美役の渡辺杏実ちゃん。

右から、杉野さん、杏実ちゃん、篠原友希子さん、山本剛史さん。終了後の内田監督と杉野さんのQ&A、写真だけ付けておきます。詳しくは、フィルメックスの公式サイトでどうぞ。

『チョンジュプロジェクト2012』 (Jeonju Digital Project 2012 /2012)
 『黄色い最期の光』 (スリランカ) 作品紹介
  監督:ヴィムクティ・ジャヤスンダラ

うむむ...よくわからない作品でした。子供時代の父の死から始まり、成人した主人公が土中に埋まっていたり、ティラノサウルスが出てきたり(おまけに歌い踊る)と、シュールというか何というか。監督が亡き父に捧げたオマージュのようなのですが、もっとストレートな描き方で見たかった、というのが正直なところ。

 『グレート・シネマ・パーティー』 (フィリピン) 作品紹介
  監督:ラヤ・マーティン

えー、これまた「うーん」の作品でした。全編モノクロで、前半は太平洋戦争時の記録映像、後半は、その戦跡等を訪ねる映画人たちのツアーとパーティーが描かれます。なかなかに辛抱が要る作品で、特にラストのまったく画像が出ずに電子音楽だけがしつこく流れるシーンは、「早く終わってくれ~」とひたすら祈っていました...。

 『私には言いたいことがある』 (中国) 作品紹介
  監督:応亮(イン・リャン)

2008年に上海で実際に起きた、楊佳という青年が警官6人を殺害した事件に材を取っています。この時、当局は楊佳の母親を騙して精神病院に連れて行き、そこに幽閉して一切の証言ができないようにしたそうで、映画は解放された母親が自宅に戻る所から始まります。母親役の耐安(ナイ・アン)はロウ・イエ作品のプロデューサーだそうですが、とても力のある演技でした。楊佳は母親と面会できないまま死刑になり、司法手続きにもいろいろ問題があったこの事件は中国のネットで大きく取り上げられ、社会現象となったそうです。

 

『記憶が私を見る』 (記憶望著我/Memories Look At Me/中国/2012) 作品紹介
  監督:宋方(ソン・ファン)

まるでドキュメンタリーかと見まごう作品でした。監督のソン・ファン演じる主人公の女性が、実家に帰って体験する物語になっています。年を取っても、しっかりと暮らしている両親。別に暮らしている兄夫婦とその娘。みんなが会話する呼吸が、まるで本当の家族のようなのです。ソン・ファン監督は、両親世代の生活や、彼らが背負っているものを撮りたいとこの作品を作ったのだとか。

上映終了後のQ&Aでは、横顔や後ろ姿のシーンが多いが、という質問に続いて、野上照代さん(黒澤明のスクリプターとして有名な方)の「正面の絵がないと、観客はフラストレーションがたまる。正面から撮るのがいい、というわけではありませんけどね」という発言も。でも最初に書いたように、見事審査員特別賞を受賞しました。

『庭師』 (Bagheban/The Gardener/イラン/2012) 作品紹介
  監督:モフセン・マフマルバフ

バハーイー教は19世紀半ばにイランで生まれたものの、現在はイランでは布教を禁じられているとか。現在イスラエルのハイファにあるその本部を訪ねて、モフセン・マフマルバフ監督と息子のメイサムが互いに映像を撮りあったりしながら、バハーイー教の本質に迫ります。とはいえ、父子のアプローチは見事に違っていて、メイサムは父に腹を立てて街へ出てしまったり。パプア・ニューギニアから来た庭師(上写真)や、カリフォルニアから来ている高校生ぐらいの台湾・アメリカ混血の青年、そして国籍は不明ながら子供たちに教義をやさしく教えたりしている女性とか、いろんな人が登場します。

面白かったのは、鳥の目になってカメラが空撮するシーンで、まさに鳥目のようにフォーカスが少しぶれ、かつモノクロになった映像が使われていること。あれはどういう意図で? と監督に聞いてみたくなりました。残念ながら、監督の来日はなし。

というわけで、あれこれ作品を楽しんだ東京フィルメックス。関係者の皆様、お世話になりました。

 


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