アジア映画巡礼

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「中国映画の熱狂的黄金期」で知る真実

2012-12-04 | 映画関連本

中国映画研究者の劉文兵先生が、またまた新しい本を出されました。「中国映画の熱狂的黄金期~改革開放時代における大衆文化のうねり」(岩波書店、3,600円+税)です。今回も頂戴したのですが、期待に違わぬ面白いご本で、「知らなかった~」がいっぱい出てきます。まだ全部拝読していないものの、皆様に早く手に取っていただきたくて、ちょこっとご紹介をする次第です。 

中国映画の熱狂的黄金期――改革開放時代における大衆文化のうねり
劉 文兵
岩波書店

 《目次》
はじめに
第1章 文革から[登+おおざと]小平時代へ ― 忌わしい記憶からの解放
 第1節:忘却への欲望 トラウマの回帰 ― 文化大革命の映画表
 第2節:[登+おおざと]小平時代の映画表象―改革開放と「改革映画」
第2章 <外部>へのまなざし ― 限られた情報からのインスピレーション
 第1節:踊る若者たち ― 民衆のダンス・ブームと「文化翻訳」
 第2節:中国的ヌーヴェル・ヴァーグの到来 ― 第四世代映画人による「文化翻訳」
第3章 製作、流通、検閲 ― 中国映画を支えるもの、妨げるもの
 第1節:中国映画の製作、流通の歴史
 第2節:映画検閲の仕組みと実態
 第3節:レーティング・システムと「成人映画」
第4章 スターの誕生 ― 改革開放後における物神としての女優
 第1節:時代の欲望の体現者 ― 劉暁慶
 第2節:異質性から同質性へ ― ジョアン・チェン(陳沖)
むすびに

目次を見ただけで、内容の豊富さがわかっていただけると思います。あ、あと付録にジャ・ジャンクー監督へのインタビューも付いています。

どの章も興味深いのですが、特に貴重な証言および分析となっているのが「はじめに」と「第1章」。プロレタリア文化大革命期とその直後の映画状況は、研究書などではさらっと触れられているか、映画人がいかに迫害を受けたかという記述に偏りがちですが、ここではその時期に一般庶民として映画を見ていた劉先生自身の視点がよく生きており、重みのある記述となっています。我々が知らない映画や事実が、いっぱい登場するのです。

例えば、中国の映画雑誌としては一番有名な「大衆電影」(1950年創刊)が、文革のために1966年に停刊に追い込まれ、文革終了後の1979年に復刊したとは知りませんでした。実は私の手元には、香港の古本屋で買った「大衆電影」のバックナンバーが結構な冊数あるのですが、なぜ1966年から15年間ぐらいがないのかなあ、と不思議に思っていたのでした。ご参考までに、「大衆電影」の表紙スライドショー(?)をちょっとやってみましょう。

下は、手元にあるうちで一番古い号、1952年11月号の表紙です。「ソ連映画祭特集号」というわけで、レーニンとスターリンが登場する作品『忘れがたき1919年』 (1952) の1シーンが使われています。余談ながらこの作品、YouTubeで分割視聴できます(ロシア語、字幕なし)。

次は、停刊が迫る「大衆電影」。1965年8&9月号です。表紙は、「延安のヤオトン(横穴式住居)で執筆する毛沢東主席」だとか。裏表紙は、映画『苦菜花』の一場面です。

続いて、1965年10月号。表紙は、「中華人民共和国成立16周年慶祝」だそうで、映画『革命賛歌』の一場面です。以前は中国もこういったマスゲームをよくやっていたのですね。今は北朝鮮のお家芸になってしまいましたが。裏表紙は、映画『黄沙緑浪』の一場面で、ウィグル族の娘さんたちでしょうか。

続く1965年11月号には、映画『東方紅』の1シーンが使われています。「東方紅」は毛沢東を讃える歌で、その名を冠した舞踊劇が作られ、さらに舞踊劇の記録映画も作られたものです。舞踊劇は、中華人民共和国建国の歴史を辿ったものでした。裏表紙は、「第1回中日青年友好大交流」に参加し、中国の労働者と抱き合う日本人女性です。頭のはちまきの「ポラリス」とは、アメリカの原子力潜水艦の名前だったのでは、と思います。原潜寄港反対運動が巻き起こっていたのが、この頃だったのですね。

そして、停刊直前の、1966年4月号。表紙はまたもや毛沢東で、「毛主席と一緒の工場労働者」だそうです。裏表紙は映画『姑嫂練武』の一場面ですが、この1965・1966年の「大衆電影」は、文革の空気をひしひしと感じさせます。

こんな雑誌でしか知ることができなかった当時の中国の映画状況が、日本語の研究書で読めるなんて、本当にありがたいです。毛沢東、周恩来、[登+おおざと]小平、それぞれの映画への現れ方の違いや、人気女優だった劉暁慶(リュウ・シャオチン)とジョアン・チェンが「プロポーションに難があった」という話など、驚くような記述も多く、読んでいて退屈しません。中国映画に関心のある方は必読の書です。

難を言えば、カヴァーデザインはもう少し洗練された感じの方がよかったのではないかと思いますが、まあ外見より中身の濃さで勝負!の本なので、そんなものには関係なく売れていくと思います。お近くの図書館にも、ぜひリクエストして入れてもらって下さいね。

 


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