アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

TIFF/DAY 6~『転山』『嘆き』など力作4本とその裏話

2011-10-27 | アジア映画全般

いよいよTIFFも6日目、中日を越えました。今日はTIFFの話題の前に、インドのヒンドゥー教徒の新年にあたるディーパーワリー(あるいはディワーリー)のお祝いをひと言。本当は昨日がディワーリーで、今日は3連休の中日なのですが、うっかり忘れていて、インドからカードが届いたので「そうだった!」と思い出した次第です。ドンピシャの日に届くようカードを送ってくれたデリーのGさん、Oさん、ありがとう!

Happy Diwali!/ Deepawali ki shubh kaamnaen!

今日のTIFFは4本。いずれも力作でした。まずはコンペ作品の『転山』から。

『転山』(転山/Kora)

 2011年/中国/90分
 監督:杜家毅(ドゥ・ジャーイー)
 主演:張書豪(チャン・シューハオ)、李暁川(リー・シャオチュアン)、李桃(リー・タオ)

台湾の小説が原作で、自転車でチベットのラサに行く計画半ばで倒れた兄の遺志をつぎ、台湾の青年シューハオがラサまでの踏破に挑む、という物語。富士山ぐらいの高度の所を走る過酷さ、次々と襲う事故や危機、そして、暖かい心を持つ人々との触れ合い等々がテンポのいい展開で描かれていきます。記者会見の時司会の田中文人さんが、「シューハオさんがどんどん引き締まったいい顔になっていくのがすごかった」と言っていましたが、ジェリー・イエン似の甘いマスクがラストでは精悍な面構えになっていて、チャン・シューハオ君自身の成長がわかります。

記者会見にはドゥ・ジャーイー監督、チャン・シューハオ(写真上)、そしてプロデューサーの方が登壇したのですが、その話を聞いてみると、監督は俳優チャン・シューハオを徹底的に孤立させ、追い込んでいくという演出方法をとったようです。終わってみればいい作品ができあがったとはいえ、撮ってる間は大変だったろーなー、とチャン・シューハオに同情してしまいました。台湾人俳優の彼が中国映画に出演を決めたのは、「脚本がよかったのと、チベットに憧れていたから」とのことですが、いやになるほどチベットの大地と空気を味わわされたことでしょう。

上の写真は左からチベット族の女性を演じたリー・タオ、監督、チャン・シューハオ、そしてプロデューサーです。実はリー・タオ、記者会見に15分ほど遅れてきました。「タクシーに乗ってこちらへ来ようとしたんですが、私もマネージャーも日本語ができなくて変な所でおろされたようで。だから、ハイヒールも脱いで裸足で10分ぐらい駆けてきたんですよ。本当にゴメンナサイ!」。オシャレをしてきたのに可哀想に、と会場は同情のまなざしでした。

リー・タオの言によると監督は、「ものすごいクレージーな監督です。私はチベット族の女性だから、と一番暗い色のドーランを塗られるし、唇は糊を付けてひび割れたようにさせられるし。それに撮影中は、”絶対笑うな””シューハオとは話をするな”と厳命されていて、シューハオと親しくなることもできなかったんですよ。でも、終わり頃にはうち解けて、ほとんど彼に恋してしまいそうでした~」だそうで、率直な面白い女優さんでした。

そして、あとの3本は<アジアの風>部門から。 

『嘆き』(Soog/Mourning)
 2011年/イラン/82分
 監督:モルテザ・ファルシャバフ
 主演:キオマース・ギティ、シャラレー・パシャ、アミール・ホセイン・マレキ

最初は、真っ暗な画面に何かぼんやりとした影があるのにかぶせて、若い夫婦の争う声だけが聞こえてきます。やがて車で出て行ったようで、ヘッドライトで部屋が明るくなると、そこに寝ていたのが子供だとわかります。続く映像は、野原や丘を通る道をひた走る1台の車。なにもセリフは聞こえてこないのに、字幕だけが出てきます。英語字幕は、「男:~」「女:~」と出てきて、会話が進んでいきます。そうしてやっと車の中の人々が映り、会話している中年の男女が聴覚障害者で、特に夫は言葉も不自由であることがわかってきます。意表をつく導入部で、グッと物語に引き込まれました。

実は冒頭家を出て行ったのは妻の妹夫婦で、寝ていた子供は彼らの息子アルシアでした。ところが、妹夫婦はその後事故に遭って即死、今車の中にいる夫婦はアルシアを伴って、すでにテヘランに搬送されたという遺体を引き取りに行く所なのです。車を運転しつつ、手話で会話を続ける夫婦。途中事故現場を通ったり、車がオイル漏れを起こして修理を頼む羽目になったり、大木を見るとアルシアがおしっこしたくなったりと、いろんなエピソードを交えながら車はテヘランへと向かいます。

手話+字幕で様々な事情が説明されるのは、時にはもどかしくも感じますが、登場人物たちの感情の動きが丁寧に描写されていて、物語は観客を取り込んで放しません。障害者である主人公夫婦の描き方もフェアで、見ていて気持ちのいい作品でした。この夫婦を演じた2人は実際の聴覚障害者なのでしょうか、それにしては演技が堂に入っていて、その点でも感心してしまいました。すでにどこかの映画祭で賞を得ているようですが、最優秀アジア映画賞の有力候補では、と思います。

『U.F.O.』(U.F.O.)
 2011/韓国/91分
 監督:コン・グィヒョン
 主演:イ・ジュスン、チョン・ヨンギ、パク・サンヒョク

UFOの出るスポットに行った高校生4人組が、地元の女子高生失跡事件に遭遇する、というお話で、ちょっと全体のトーンにばらつきがあるものの、しっかりした作りの作品でした。優等生のクラス委員、1年留年しているので「兄貴」と呼ばれるとキレるハンサム、昔UFOに連れ去られた経験を持つ老け顔、牧師の息子で神懸かり的なメガネ、という4人組それぞれのキャラが面白かったです。

で、最後の1本は、<アジアの風>の特集「女優=プロデューサー杉野希妃~アジア・インディーズのミューズ」から『大阪のうさぎたち』。

『大阪のうさぎたち』(Two Rabbits in Osaka)
 2011年/韓国=日本/70分
 監督:イム・テヒョン
 主演:杉野希妃、ミン・ジュンホ、松永大司

上映前の舞台挨拶には、杉野希妃、ミン・ジュンホのお二人が登場。当初イム・テヒョン監督も来日する予定だったのですが、本作のプロデューサーでもある監督夫人のお父様が危篤状態とかで、それで来日はキャンセルに。ミン・ジュンホさんも今回の上映には間に合わないかもと言われていたものの、開始数分前に成田から会場に到着し、滑り込みセーフで登場となりました。

石坂健治さんの司会で終了後Q&Aが行われ、それでわかったことは、この映画がかなりの部分即興で作られた、ということでした。そもそも、韓国のチョンジュ映画祭に行くことになった監督が、ミン・ジュンホさんと韓国の女優を使って1本撮ろうとしたのが話の始まりなのだとか。ところが女優さんは都合で行けず、「ま、何か撮っとくか」と監督が思っていたところに、やはり映画祭に来ていた杉野希妃さんが出現、「何を撮ってるの?」となって、急遽彼女に出演依頼がなされた、ということでした。

この映画は、人類が最後の日を迎えた時、人はどうするか、どんな気持ちになるか、ということを描いていて、その日を大阪で迎えた杉野さんとミン・ジュンホさんがホテルで語り合う、というのがメインのストーリーです。脚本はもちろんなく、監督もほとんど内容を伏せて2人に演技させたようで、「ここで歌って」とか、「ここで怒って」とかいう指示のもと、2人は素に近い演技を余儀なくされたようでした。

劇中で2人はそれぞれ歌を歌うのですが、杉野さんは監督に言われて「荒城の月」を提案したところ、「それ、権利切れてる? 使って大丈夫?」と言われ、急遽ケータイのサイトで権利関係を調べたりしたのだとか。杉野さんがベッドに横たわり、「荒城の月」を歌うシーンは画像がすごくきれいで、印象に残りました。

一方ミン・ジュンホさんの方は英語の歌を歌ったものの、あとで監督から「あの歌ダメだ。使用権料がめっちゃ高い。別の歌に差し替える」と言われ、作曲の人がミン・ジュンホさんの画面に合うような歌を選んで、画面の口とうまくシンクロするように歌を吹き込んだのだとか。ミン・ジュンホさん、達者な英語と日本語で、おもしろおかしく語ってくれました。そんな即興というか行き当たりばったりの『大阪のうさぎたち』、インディーズ臭ぷんぷんの作品になっています。このお二人、これからも注目です。

【本日の拾い物】

本日も拾い物と言うより頂き物ですが、シンガポールの映画評論家で、最優秀アジア映画賞の審査員として来日しているフィリップ・チアからのプレゼント。雑誌の宣伝用8枚つながりのポストカードですが、何とエリック・クー監督の漫画が使われているのです。1枚だけにして写真をアップすると、画像が2次使用されたりするため、繋がったままの状態でアップしました。

上のポスカがエリック・クー画伯の作品です。下の方は、右上と左下がエリック・クー作品です。

この雑誌、「Big 0」は「シンガポール唯一のインディーズ系ロックンロール雑誌」とのことですが、エリック・クーは『TATSUMI』を作るだけあって、自身も漫画が描けるのですねー。使うのがもったいないこのポスカ、マイ・コレクション入りしました。ということで、本日の拾い物90点。

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« TIFF/DAY 5~『カリファーの... | トップ | TIFF/DAY 7~大トリは『ラジ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

アジア映画全般」カテゴリの最新記事