アジア映画巡礼

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香港国際映画祭レポート<5>姜文監督作品『邪不壓正』のハチャメチャさ

2019-03-30 | 中国語圏映画

さて、一昨日書いた「とんでもない作品」ですが。香港最後の夜に見た姜文(チアン・ウェン)の監督・主演作『邪不壓正』が、トンデモ&ハチャメチャな作品だったのです。監督の「北洋三部曲(北平三部作)」の最終章だそうで、周潤發(チョウ・ユンファ)と姜文、葛優(グォ・ヨウ)が主演した『さらば復讐の狼たちよ[譲子弾飛]』(2010)、姜文と葛優、舒淇(スー・チー)が主演した『弾丸と共に去りぬ-暗黒街の逃亡者-[一歩之遙]』(2014)に続く作品となります。『さらば復讐の狼たちよ』(この邦題、コロッと忘れていて、原題から検索してやっと思い出しました。『一歩之遙』がこれに劣らぬ変な邦題でDVD化されていることも、今回初めて知った次第です)でもCG使いまくり&すべてをぶち壊す方式でやり過ぎ感バリバリだったのですが、今回はさらにパワーアップ。火だるま少年は出てくるは、北京の見事な瓦屋根の上を彭于晏(エディ・ポン)と周(ジョウ・ユン/姜文の奥さん)がぴょいぴょい飛び回るは、澤田謙也が日本軍特務の根本を演じて主役3人にからみまくるは、と、見どころ満載、実にゴージャスな作品になっています。

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「北洋年間、北京以北」のとある冬の夜。大雪が積もった中、田舎にあるお屋敷に急ぐのは、中国人の役人朱潜龍(廖凡/ミャオ・ファン)と日本人の根本一郎(澤田謙也)の2人。朱は自分のアヘン取引に彼の拳法の師父が難色を示したため、邪魔者の師父、その妻、18歳の娘、13歳の息子(娘と息子は弟子なのかも)ら一家を皆殺しにしようとやってきたのでした。全員を殺し、家に火をかけて朱と根本は去りますが、何と息子の李天然は火だるまになりながら逃げ延び、通りかかった西洋人の医師ヘンドラーに助けられます。それから15年、ヘンドラーの養子となってアメリカに送られ、教育を受けて医師の資格を得た李天然ことブルース・ヘンドラー(彭于晏/エディ・ポン)は、アメリカ当局の思惑もあって北京に戻ることになりました。「現在、北京は都ではない、南京が都だ。だから、北京ではなくて北平だ」と情報局のアメリカ人に教え込まれ、ブルースは北京の父のもとにやってきます。


1937年の北京では、朱は今や警察局長、根本も日本軍特務のトップとして権勢を振るっており、ブルースは病院の医師として勤務しながら、彼らの身辺をさぐり始めます。父のヘンドラー医師は、藍青峰(姜文/チアン・ウェン)という金持ちに部屋を借りているのですが、この藍も政府の重要な役目に就いているようで、朱とも親しい間柄です。ブルースは服飾デザイナーの女性關巧紅(周韻/ジョウ・ユン)とも知り合いますが、誰が敵だか味方だかわからない中、やがてヘンドラー医師が殺されるという事件が起きます...。


原作は張北海という人の小説「侠隠」とのことですが、相当姜文流の脚色が施されているものと思われ、原作にはきっとないであろうギャグも各所に散りばめられています。北京語がわからない私はあまり笑えず、朱のそっくり肖像画登場シーンや、ブルースの本名が「李天然」なので「あ、ブルース・リーか」というギャグぐらいしか反応できませんでしたが、観客はよく笑っていました。アヘンを隠している倉庫に積まれた箱には「スイス・チョコレート」と印字されていたりと、会話以外のギャグもいっぱいあったようです。日本人観客としては、最初に根本が登場した時の珍妙なちょんまげ姿、ブルースが朱と闘う時の着物姿(ラフな羽織と袴を着ている)、白足袋姿の労働者らしき男たちの登場や日本刀へのこだわりなど、なんちゃって日本の表出が居心地悪かったです。それにしても、お話も超高速で進むのですが、会話もまるで機関銃のように交わされて、字幕では意味が追えません。三部作に共通する、虚構感あふれる男たちの戦いが極限まで誇張され、かつ全編フォルテシモなので、今回も見終わるとぐったり疲れました。


終了後、姜文が登壇し、台湾の映画評論家焦雄屏(ペギー・チャオ)とトークを繰りひろげたのですが、全部北京語で通訳は英語も広東語も一切なし。これは聞いていてもほとんど意味がわからないため、10分ほど聞いて写真を撮り、その後は失礼してしまいました。というわけで、登壇した姜文の写真だけ付けておきます。姜文、とてもご機嫌うるわしかったです。

それにしても、この映画は昨年7月に中国で公開され、香港でも昨年9月にすでに上映されているのに、また映画祭で上映とは、今回のセレクションには中国人監督で大物と呼べる人の作品が何もなかったからでしょうか。エディ・ポン好きの私としては、彼の様々な姿が見られて嬉しかったものの、ちょっと釈然としないセレクションでした。最後に、『邪不壓正』の予告編を付けておきます。

邪不压正 Hidden Man (2018) 中文版预告片



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