行ってきました<第4回したまちコメディ映画祭in台東>。お目当てはもちろん、モンゴル映画『タタール大作戦』 (2010)です。以前ご紹介した時に使ったポスター(下)が、会場1Fのギャラリーにも貼ってありました。ついでに、これも前の記事に付けた予告編がみられるサイトもこちらに。会場は6割ほどの入りで、朝の上映にしてはよく入っていました。
ストーリーは、銀行員のタイヴナー(A.ボルフー/ポスター右端)が銀行をクビになるところから始まります。タイヴナーは、支店長と頭取が他国からの有毒物廃棄を引き受ける裏取引で金を得ているのを知ってしまったため、クビになったのです。「他国」はどうやらロシアらしいのですが、日本の核廃棄物処理をモンゴルで、などという案が出ている時だけに、ドキッとする設定です。
タイヴナーには美しい妻(U.チョイドグ)とかわいい娘アヌカがいるのですが、アヌカは小児ガンで、高額な治療費を必要としていました。クビになったことを妻には言えず、悪友トルガー(E.ガンボルド/真ん中右)のもとにやってくるタイヴナー。トルガーは元ボクサーで、また元警官でもある犯罪マニア。西側世界の犯罪映画や犯罪小説に詳しいマッチョ男です。ウオッカを飲んでいるうちに2人は、つい勢いで、タイヴナーの勤めていた銀行に隠匿されている頭取の裏金を強奪する計画を立ててしまいます。
そして、車に詳しいロシア人との混血である金髪のコーリャ(B.エンフタイヴァン/左端~波岡一喜にクリソツ!)と、コンピュータおたくのメガネ男ギャルバー(B.ダグワージャムツ/真ん中左)をリクルートし、完璧な犯罪計画が進められて行きます。トルガーは銀行の閉店時間を狙って分刻みの犯罪実行計画を立て、この通りやれば裏金の大金は俺たちのもの、と自信たっぷりなのですが....。
と、時間軸を追ってストーリーを書きましたが、実際にはストーリー展開の合間合間に、主人公たちの妄想シーンがガンガン入り込んできます。銀行強盗に入ったものの、失敗してタイヴナーは拳銃を口に突っ込み自殺。トルガーは警官に撃たれて命を落とす。小心者だと思っていたギャルバーは、邪魔になる女性行員を包丁でめった刺し。いやいや、実際には失敗したタイヴナーがとち狂い、仲間を全部撃ち殺す....。脳天気とも言える犯罪実行計画の相談が進行する合間に、凄惨な血みどろ映像がインサートされていくのです。映像には、早いカット替わりや瞬時クローズアップの多様など、いろんなテクが駆使されていて、この監督、タダモノではないな、と思わせられます。
最初に舞台挨拶に出てきたB.バトウルズィー監督は、コロッとした人の良さそうなお兄さん、と言う感じでした。1979年生まれとのことなので、まだ31歳か32歳です。真ん中が監督で、右が司会のいとうせいこうさん、左はギャルバーを演じたB.ダグワージャムツです。監督はこれが劇映画2作目なのですが、それまではミュージック・クリップというか歌手のプロモーション・ビデオ(以下PV)をいっぱい手がけていたそうで、この映像処理のポップさはPV出身のせいなのか、と大いに納得。
上映終了後のティーチインで得た情報も含めて書きますと、監督は漫画家でもあるそうで、そういや劇画チックなシーンが多かったなー、とこれまた納得。この映画は原作が気に入って作ったそうで、作るにあたっては朝青龍の援助も得たとか。
へっ、朝青龍?? この点に関しては、あとで作品コーディネーターの暉峻創三さんから得た情報によると、監督のお兄さんと朝青龍が幼馴染みだとかで、それで監督もよく知っていたとか。いやー、日本にいらっしゃる縁があったんですねー。監督はこのあと日本で、PVの素材になりそうな映像を各地で撮る予定だそうです。
また、劇中でみんながモンゴルの民族衣装を着て踊る夢のシーンがあるのですが、監督によると、「インド映画の影響もあると思います」とのこと。インド映画がモンゴルでも見られている、ということの貴重な証言でした。
劇中には歌が4曲使われているのですが、ゴキゲンなラップだったり、力強い女声のポップスだったりと、これまたモンゴルのイメージがガラッと変わる曲ばかり。なお、今回監督と共に来日したB.ダグワージャムツは、モンゴルで大人気の4人組バンドのメンバーだとかで、いとうせいこうさんはもう1人の司会者大場しょう太さんと共に、盛んに「モンゴルのSMAPです!」と言ってらっしゃいました。そう言われると、背はあまり高くないものの、映画の太ったオタクという役柄とは違って、グラサン姿がカッコイイです(左端)。
監督は、「モンゴルの伝統的な考え方がこの映画にはいろいろ入っているのですか?」という質問に対し、「親は子供のためなら何でもやる、という考えがまずそうですね」と答えていましたが、友情に厚く、相手のことを思いやり、信頼を裏切らない、という主人公4人組の生き方は、これぞまさしくモンゴル流、と思ってしまいます。そのため、後味が実にさわやかで、「ひょっとして怪作では?」と思って見に行った私は、「いや~、快作だわ~」と大満足しました。
主人公タイヴナーの紹介が「ヘビ年33歳」だったり、彼らの友情が「ジャムカとテムジンの友情のようだ」と例えられたり(ジャムカはテムジン=チンギス・ハーンが当初友情を育んだ相手。浅野忠信主演の『モンゴル』 (2007)では、孫紅雷が演じました)と、モンゴル映画らしさを感じるシーンもあちこちに見受けられました。また、金髪のコーリャの父親であるロシア人は、「モンゴルに電柱を立てた」と紹介されたり。電気という近代文明を持ち込んでくれたのだけが、ロシアの功績なわけですねー。さらに、銀行強盗に使う武器調達のために会うのがロシア人武器商人ながら、こいつがアンティーク武器オタクで、使えそうにない古い武器ばっかり渡すとか、ロシアへの皮肉なまなざしもしっかり入っています。
作品コーディネーターの暉峻さんは、この映画の噂を聞いてモンゴルからDVDを取り寄せようとしたのですが、北京経由で届くはずのDVDがなぜか中国でひっかかってしまい、なかなか来ないため韓国のプチョン国際映画祭までわざわざ見に行ったのだとか。おかげで素敵な映画に出会うことができました。『タタール大作戦』、日本でも公開されるといいですね~。